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カメラ的本棚

第43話 「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」エレン・クラス監督

2025/05/27
柊サナカ

先日見た「シビル・ウォー アメリカ最後の日」、とても面白かったです。過酷な戦場を行く主人公の女性写真家、リー・スミスにはモデルがいたとか? その元ネタになったのが、この女性報道写真家、リー・ミラーということです。

 

『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』のパンフレット。

 

ところでみなさん、報道写真家と聞いて思いつくのは誰でしょう。ロバート・キャパだったり、一ノ瀬泰造だったりするかもしれませんが、リー・ミラー、ご存じでしたか。わたしは残念ながら、報道写真家だった彼女のことはまったく知りませんでした。この映画、「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」は、彼女の生涯をたどる物語です。

 


 

リー・ミラーはあの「VOGUE」などのトップモデルとして活躍していました。華やかな世界で、交友関係も広く、毎日楽しげに暮らしています。その彼女がなぜ報道写真家に? 映画冒頭、ローライフレックスオートマット(シャッターはコンパー・ラピッド、レンズはテッサーf3.5)を構えたリーが、いきなり戦場のど真ん中に。砲弾が撃ち込まれ、道のあちこちには、ちぎれた死体の残骸が。ローライフレックスを構えるも、いきなり爆風で吹っ飛ばされそうになるギリギリの状況です。まさに命がけ。モデルからの転向、過酷すぎやしませんか。

 


 

リーを演じるのはケイト・ウィンスレッド(「タイタニック」名作でしたよね!)。彼女の役作りがすごいなと思っていたら、なんと、リー・ミラーの生涯に深く感銘をうけたケイト自身が映画化を熱望して、自ら制作総指揮を取ったとのこと。思い入れと熱が違うわけです。当時の写真を忠実に再現し、全力でリーそのものになってみせようという、体当たりの演技に女優魂をみました。
 

わたしはローライフレックスというと、趣味のお散歩カメラとしか思っていませんでしたが、実際にこうやって戦場に持ち出され、報道の場で活躍していたカメラなのだなと思うと背筋が伸びる思いです。実際のリー・ミラーは、現像はもちろん、ローライフレックスの分解、清掃、簡単な修理、組み立てまで自分で全部できたということです。戦場には中古カメラ店はありませんものね。たくましさが違います。
 

しかし女性であるリーが、最初からすんなり前線に行けたというわけではなく、「女性は前線なんかに行ってはいけない」と、医療テントの撮影を命じられます。それでも「中身のある記事を書きたい」という彼女の思いは変わりません。周囲の反対も無視、夫の「どうか家に帰ってくれ」という懇願も聞かずに、さらに危険な前線へと向かうのです。

 


 

これほどまでに過酷な戦場の撮影、なにがそこまで彼女を突き動かしていたのでしょう。安全な場所で、夫に守られ、元モデルとして一生涯を終えても良かったでしょうに。
 

それでもわたしは、映画を見ながら、なんとなく、気持ちがわかる……と思ってしまいました。人間、中年になると自分の人生の意味を考えるものです。子育てに一生懸命になってもいいし、仕事に賭けるのもいい。なんのために生きるのか、と考えるときに、何か自分しかできないようなことをしたい、命を燃やしたい、と思うようになるのも頷けます。それが彼女にはカメラであり戦場だったのでしょう。
 

ナチスのブーヘンヴァルト収容所やダッハウ強制収容所が開放されたその日に、リーたちは収容所へ向かうのですが……彼女がそこで何を見たかは、ぜひ映画本編で見て欲しいと思います。
 

彼女がこれほどまでに命がけで撮った、報道写真の行方も見届けてください。写真を撮る者として、そのシーンでは息が止まり、心拍数は上がり、(胸が張り裂けるとはこのことだ……!)と思いました。 
 

この映画はエンドロールも重要なので、ぜひ最後まで。リー・ミラーの生涯もさることながら、ローライフレックスオートマットに対する見方も変わることでしょう。観てからわたしはずっとローライフレックスを探しています。

 


 

こちら、新宿北村写真機店でやっていた、映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』特別企画展。作中の写真が展示されていました。

 

Lee Miller wearing special helmet, Normandy, France 1944. By Unknown Photographer  © www.leemiller.co.uk

 

『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』特別企画展でもカメラの展示がありました。

 

映画館の特典でシールをもらいました。

 

  • 「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」
  • 監督:エレン・クラス
  • 製作:ケイト・ウィンスレット、ケイト・ソロモン
  • 出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤ
  • ール、ジョシュ・オコナー、アンドレア・ライズボロー、ノエミ・メルラン
  • 配給:カルチュア・パブリッシャーズ 原題:LEE イギリス| 2023 | 116 分 |英語、フランス語 翻訳:松浦美奈

  • 5月9日(金)TOHOシネマズシャンテほかROADSHOW
    © BROUHAHA LEE LIMITED 2023
  • 配給:カルチュア・パブリッシャーズ

 

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