この映画は、台湾でいくつもの賞を受賞した名作映画「一秒先の彼女」を、監督・山下淳弘、脚本・宮藤官九郎で「一秒先の彼」としてリメイクした日本映画です。まず、この映画、ポスターにニコンFM2が写っており、(いいな!)と思った次第です。カメラ好きとしては、作中どうニコンFM2が出てくるのか、知りたいじゃないですか。
主人公は皇一(すめらぎ・はじめ)昔から、何をやるのも一秒速い、せっかちな男です。郵便局で勤めています。この役を演じるのは岡田将生。いきなり郵便局のカウンターに岡田将生が座っていたら、びっくりして挙動不審になり、保険とかむやみに入ってしまうと思うのですが、役者というのはすごいもので、ぜんぜんもてないイケメン残念枠の皇一(30歳)を実にうまく演じています。
ただ! これを読んでいる読者の方が関西出身なら、そして京都になにやら感情をお持ちの方なら、前半のあまりの京都推し、二秒に三回くらい登場する京都の風物・京都しぐさに胸焼けをして、(見るのやめようかな……)と思ってしまうかも知れません。しかし! ここでやめてしまってはいけないのです。最後まで観ましょう! この映画でカメラが登場するのは後半です。しかも後半、予想もしなかった方に話が転がるので、予備知識無しで驚いてほしくもあり、多くを語れないのが辛いところです。
残念な三十歳であるハジメは、あるとき橋の下で歌う「桜子」に恋をします。桜子との仲も順調に進み、とうとう明日結ばれるのか、と思ったときに――
<消失>
なんと、楽しみにしていたはずのデートの一日が消失してしまうのです。花火大会はもう終わり、何も覚えていない上に、彼女と連絡も取れない。しかも自分は妙に日焼けしており、知らない場所で知らない写真を撮られている。
これいったいどういうこと? 消えた一日で何があった? 写真を撮ったのは誰?
という謎が、綺麗に回収されていくのが実に面白く、そこへちゃんとニコンFM2がかかわってくるのがすごい。他のものではダメなのです。やはりここはカメラ+写真じゃないといけません。
このFM2を愛用しているのが大のカメラ好きのレイカで、演じるのは清原果耶です。わたしは、ニコンは彼女をぜひ起用して欲しいな、と思うくらいの透明感のある似合いっぷり、背中にはバックパック(わかります、フィルムがいろいろ入ってるんですよね)、髪は一つに縛り(わかる、縛らないと邪魔なんですバサッとなるから)、スカートなんて履かない(そうそう、膝ついたりするから汚れるしね)構え方も堂に入っていて実に素敵で、”冴えないカメラ女子”としての役ですが、全国のカメラ女子が脳内で自分を重ねて見てしまうくらいの佳さがありました。その佇まい、ぜひ見ていただきたい。(後半で)
なんか不自然だな……? と思っていることがカチッとはまると、びっくりするので、よくよく見ていただきたい、写真も、消失している間に撮られた写真は、どことなく不思議な写真なのですが、その理由も回収されるのはお見事でした。
前半のコテコテ京コメディに(ちょっとノリが合わないかも)と思った、カメラ好きの読者様におかれましては、ぜひぜひ最後まで見ていただきたく……。多くを語れずにすみません。とにかくこの後、レビューなどをぜったい探しに行かないで、そのまま観てください。
ちなみにですが、台湾版の「一秒先の彼女」は男女が逆転、しかもカメラはキヤノンのキヤノネットG-Ⅲ QL17のよう。こちらも面白そうなので、いまから観てみます。
- 1秒先の彼
- <キャスト>
岡田将生 清原果耶
福室莉音 片山友希 しみけん 笑福亭笑瓶 松本妃代 伊勢志摩 柊木陽太 加藤柚凪 朝井大智 山内圭哉
羽野晶紀 加藤雅也 荒川良々- <スタッフ>
監督:山下敦弘
脚本:宮藤官九郎
主題歌:幾田りら「P.S.」
撮影:鎌苅洋一
照明:永田ひでのり
編集:佐藤崇
音楽:関口シンゴ
原作:『1秒先の彼女』
製作:『1秒先の彼』製作委員会
制作プロダクション:マッチポイント
製作幹事・配給:ビターズ・エンド- 発売元:TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント- ©2023『1秒先の彼』製作委員会
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