top コラムカメラ的本棚第7話 「mono」 あfろ(芳文社)

カメラ的本棚

第7話 「mono」 あfろ(芳文社)

2022/05/24
柊サナカ

このコラムで取りあげる本は、1・カメラ、写真を題材にしたコミック。2・できれば、まだ書店で買えるくらい、刊行年数が新しいもの、もしくは電子化されて読めるもの。(過去の名作ももちろんいいのですが、なるべく読者が、書店で買えるものを優先します)
以上の条件でいろいろと探しているのですが、カメラを題材にしたコミックは探してみると、意外と少ないのです。主人公が写真部でも、カメラが単なる小道具になっているものや、現実では存在しないカメラも多く、本屋でもネットでも、わたしはいつもカメラがカメラそのものとして出てくる漫画を探しています。


探していて、ふと目についたのがこちらの表紙の女の子。この子よく見たら、カメラを持っている? そしてこの独特のパースは……。これ、私も持ってる360度カメラ、リコーシータ(Ricoh THETA)じゃないかな? と思いました。リコーシータは、表紙のように、こうやって手を伸ばして撮ると、超広角、自分とみんなと背景がぐるりと回り込むように入った、臨場感のある写真が撮れるのです。作者はなんと「ゆるキャン△」の、あfろ先生とのこと。「ゆるキャン△」は読んだことありましたが、広角レンズで撮った写真みたいな雰囲気のコマがおしゃれでかわいく、とても印象に残っていました。


こちらは「ゆるキャン△」とは違い、四コマ形式で物語が進んでいきます。360度カメラ、リコーシータ(Ricoh THETA)の名前は表に出ておらず、”ヴィータ”という仮名の”パノラマカメラ”とぼかされていますが、機能から見ても、リコーシータで間違いないでしょう。表紙と見開きから、360度カメラ独特のパースがついたカラーページが、数ページにわたってあり、ワクワクします。みんなで旅行してきた写真のアルバムをめくっているみたいでいいですね。
 

旅行の時は、えてしてカメラ係は写真に写っていないことが多いものですが、360度カメラなら、撮影者もみんなと同じ画面に写ります。旅行を楽しむのにもってこいのこのカメラ、女子高生のわちゃわちゃした旅にはとても似合います。ご存じない方なら使い方さえよくわからない、棒のようなカメラなので、きっと、あfろ先生ご自身もリコーシータをよくお使いで、お好きなのだろうと思いました。

 

カラーページも楽しそう。友達みんなで、っていうのがいいですね。


ストーリーは写真部のお話です。憧れの先輩が卒業してしまって、意気消沈の雨宮さつき”さっちゃん”が、悲しみのあまり、ぐだぐだになっているところから始まります。そこへやってきた親友の霧山アン。たったの二人でも写真部を頑張っていこうと決心します。
せっかくやる気を出してネットでカメラを買ったのに、そのパノラマカメラがいつまで経っても届かないというトラブル発生。詐欺を疑う二人は、発送先の住所が近かったこともあり、その売主の家に直接行ってみることに。そこは意外にも、駄菓子屋でした。中から売主の秋山春乃がでてきて平あやまり。どうやら身体の調子もよく無さそう。インフルエンザで寝込んでいて、発送ができなかったのです。三人は意気投合、仲良くなり――というところから始まります。


そこで初めて、360度カメラであるパノラマカメラを使うシーンが出てくるのですが、このファーストショットが実にいいですね。女の子が(こんなのでどう撮れるのかな……)みたいな半信半疑の顔でシャッターを押すと、二人を中心に、ぐいっと曲がった駄菓子屋の全景がぐるりと写って、ふたりとも「おおーっ」となります。可愛い。
リコーシータのすごいところは、360度カメラなので、指でその画像をぐりぐり動かせるところなのですが、それも作中でしっかり描写されています。
「こんな写真、普通のカメラで撮れないしさ」と、さっちゃんがさらりと言い、親友の霧山もアクションカムを買うのです。わたしたちの時代の写真部だと、フィルム・暗室・銀塩カメラという感じですが、あたりまえに写真部で、アクションカムにVRゴーグル、360度カメラ。令和の写真部、現代ッ子バージョンみたいでいいですよね。

 

この「mono」は、駄菓子屋に住むお姉さん、秋山春乃は実は漫画家で、連載が終わり、自作のネタを探していた、という設定です。女子高生がアクションカムを使うということにひらめきを感じて、写真部+女子高生+アクションカムの題材で漫画の新連載を始めることに。なので、まるでこの漫画「mono」がその秋山春乃が書いた新連載の漫画そのもののようでもあるし、聖地巡礼と称して、ところどころ「ゆるキャン△」ともリンクしており、ちらりと背景にあのキャラも出ていたりして、メタ的な視点からも面白いです。「ゆるキャン△」ファンもぜひ。


さて、この写真部が写真コンクールに命と情熱を賭けるど根性の展開に……とはなりません。人数が足りなくなったので、写真部+映画部でシネフォト研究部というゆるサークルを発足。夜景をタイムラプス撮影したり、猫にアクションカムを付けたり、凧につけてみたり、女の子たちがアイデアを出し合って、自由気ままに写真と映像を楽しんでいる様子に、とても癒やされます。
そもそも、360度カメラもアクションカムも、かわいい女の子たちでキャアキャア言いながら使うと絶対楽しいにちがいないのです。わたくしも海などで360度カメラを使いましたが、雄大な風景の中、中年がぼんやり手を上げて写っており、その写真をぐるぐる回して微妙な気持ちになりました。


「mono」には、個性豊かな可愛いキャラがたくさん出てくるのも良いところ。アクションカムをつけてバイクに乗り、モトブログを楽しむ登場人物、駒田花子”カコ”も出てきたり。みんなで旅行してご当地の美味しいものを食べたり、温泉に入ったりと縦横無尽に動き回ります。
作中、バイク乗りのカコが、窓の外を見ながら「職場と家のループから、外に出たかったのかな、あたし」とさらっと言うところがあります。
本当にそうだなと、わたしはそのカコの台詞に深く共感しました。そうなんです。何もしなければ、職場と家のループで一年なんてすぐ終わってしまう。みなさんもそうですよね。一年は短い。
わたしなんて職場が家なものですから、家の中であっという間に一年が終わってしまう。そんなの寂しいじゃないですか。世界はこんなにも広いのに。

 


愛機のリコーシータと共に、裏表紙も。最近どこも旅行に行けてないので、リコーシータを持って旅に出たくなりました。

 

この「mono」は、360度カメラ、アクションカムなど新世代のカメラの楽しみを描きながら、日常から一歩踏み出すことの楽しさが描かれていて、とてもいいなと。360度カメラやアクションカムを検討中の方にもいいですし、この漫画から、モトブログやってみようかなっていう人も出てくるかもしれませんね。

 

フィルムが減って印画紙が減って、嘆いてばかりではいられません。カメラ自体が小型軽量・高性能化されたことによって、新しい楽しみは常に生まれているのでしょう。
日常から一歩踏み出すためにも、新しいカメラやレンズとの出会いは人生に必要なんだと思います――と、ここに書き記して我が物欲を正当化しておきます。アクションカムのおすすめ見てきます!

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