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カメラ的本棚

第3話 「カメラ、はじめてもいいですか?」しろ(少年画報社)

2022/02/01
柊サナカ

アニメでも大人気「ヤマノススメ」でおなじみの、しろ先生がカメラを題材にした漫画を描いたら……そりゃ可愛い女の子が出ないわけがないのです。どのページを開いても、それぞれみんな可愛い。
でも読み始めるまで、(女の子がおじさんの趣味でキャイキャイしてる感じの……?)と恐る恐るでした。いまこれを読んでいて、未読の読者のみなさんも(まあ、あれだろ? 女の子がおじさんの趣味でキャイキャイしてる感じの……?)と思っていることでしょう。


でもちょっと待って欲しいです。ストーリーは、引っ込み思案でおとなしめの女子高生ミトちゃんが、お隣のお姉さんチサトさんと仲良くなって、カメラの楽しさに目覚めていくというお話。チサトさんは面倒見の良い、カメラ好きの綺麗なお姉さんで、まず主人公のミトちゃんにカメラを貸そうと、「これがいい? それともこっち?」とカメラを出してくれます。
FUJIFILM X100TとFUJIFILM X-T20を。
 

いや、初心者にカメラを勧める時って、その人のカメラに対する哲学みたいなものが出るじゃないですか。わたしなら何だか嬉しくなって「これはね」「これは(以下蘊蓄略)」と7台くらい出しそうなところを、あえてしぼった2台。しかもレンジファインダータイプと、一眼タイプ。余計なことを言わずにニコニコして、「しっくり来た子を使えばいいから」と、初心者のミトちゃんに選ばせる心の余裕。
そして選んだあとに、チサトさんは、「それ最初に買った思い出のやつだよー」と軽く言い添えて、(良いの選んだよね!)と、その選択を肯定する……。これですよこれ。 
このチサトさん、可愛いだけでなく、なんという沼先案内人のセンスよと震えましたね。富士フイルムというところも渋い。


若くて可愛いアイドルの女の子が、SNSでちらっと「カメラはじめようかな」って書くと、ものすごい熱量で、数レスにわたってオススメをみっしり書くカメラ紳士の熱さも正解だとは思いますが、初心者としては、チサトさんの、余白のある勧め方もありがたかったりしますよね。レンズはあまりに広角すぎたりしないフジノン XF35ミリ F2 R WRというところも真っ当。
はじめてカメラを持って、ファインダーを覗き、最初の一枚を撮ってみたときのミトちゃんの初々しい感じに心が癒されます。この世には、カメラ初心者がカメラをぎこちなく持ち、ファインダーの眺めに静かに感動している情景でしか得られない栄養素が存在しますが、この「カメラ、はじめてもいいですか?」には、そういう滋養成分が惜しみなく詰まっているのです。
ジャンク棚の向こうにフレッシュな気持ちを置いてきてしまった紳士も、ニコ爺と呼ばれがちな貴方も、デジカメ新製品評論系(買わない)紳士も、20年前に女子高生だったわたくしも、みんな女子高生のミトちゃんに完全感情移入、最初の一枚を撮ったあのころの、新鮮な気持ちをもう一度体感できるのは、この漫画「カメラ、はじめてもいいですか?」の素晴らしいところ。


著者のしろ先生は、カメラが本当にお好きらしく、お話とお話の間のカメラエッセイやコラム「カメはじこぼれ話」や「カメコレ!」もすみずみまで面白いのは、二倍得した気分です。作中、撮影するのに素敵な場所がいくつも出るのですが、なんとロケ地まで記してくださるという親切っぷり。(そして実在の、あのカメラ店も出るのです! ぜひコミックスを買って、カメラを持って聖地巡礼を)


最初はお隣のチサトさんだけでしたが、どんどん他にもキャラクターは出てきます。ペンタックスを激推ししてくるモアちゃんに、リコーGRⅢ使いの毒島さんや、ニコンZ 5を持ったナギさん、その他にも(あっ、ちょっとこのメーカーらしいといえばらしい)というような登場人物がたくさん出てきてニヤリ。読者のみなさんがお持ちのカメラを愛用するキャラクターも出てくるかも。

 

それにしても、自分が持っているカメラが漫画の中に出てきたらこんなに嬉しいとは。この「カメラ、はじめてもいいですか?」は、カメラメーカー完全協力のもと、実在メーカーのカメラがバンバン出てきて、各カメラの良さと強みが、あますところなくストーリーに折り込まれているのです。(もしかしてペンタックス激推しモアちゃん、作中で雨とか雪とかに打たれたりするのかな……と思いつつページをめくりました。どうなったかはぜひコミックスで!)


ひとくちに写真と言っても、楽しみかたは本当にいろいろありますよね。初心者のミトちゃんは、スナップにポートレイト、貸しスタジオでコスプレ、キャンプや星空撮影にも、カメラを持って、お友達みんなで出かけちゃいます。これは良いはまりっぷり。読んでいると、写真が撮りたくなってうずうずしてくることうけあいです。
ああ、わたしの家の隣にもミトちゃんみたいな子が越してこないかな、カメラ勧めまくって連れ回して仲良くしたいなと思いつつ、本当にやったらサックリ通報されそうなので、ここはおとなしく「カメラ、はじめてもいいですか?」コミックスの続きを待ちます。

 

「カメラ、はじめてもいいですか?」と、作中に出て来るわたしの愛機。

 

帯にも注目!

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