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柊サナカのカメラ沼

第18話 「写真を買う文化」について

2023/03/07
柊サナカ

読者のみなさんは、写真、買っていますか。

 

先日、ツイッターで興味深い話題が出ていました。河島えみさん(@kw4m8m)さんの<放課後ラジオ>「なぜ写真を買う文化はそんなにないのか」(→https://youtu.be/ALslZld_M3M)。その河島さんの放送をきっかけに、さまざまな人が、いろんな立場からお話をされていて、私も(そういえば、そうだな……)と、思ったのでした。


カメラを買ったよ! レンズを買ったよ! とか、バッグを買ったよ! ギターを買ったよ! 
という話題はちょくちょく見かけますが、作家のオリジナルプリントを買ったよ! という書き込みは、それほど多く目にしていません。

 

そんなことはない、日本にも作家の写真を買う文化はあるのだ、というご意見の方もいらっしゃるとは思います。わたしは写真を専攻したわけではなく、職業も写真家とはまったく違う分野の人間です。写真文化の中で育ってきたり、長くいる人は、きっとまわりの方も友達もみんな写真好き、家には作家のプリントのコレクションがあるのは普通だし、基本! という感じなのかも知れませんが、別分野の者から見てみれば、(果たしてそうなのかな?)という感じなのです。

 

田舎育ちと言うこともあるのかも知れませんが、まず、ギャラリー自体、入ったことがありませんでした。作品を買えるのだということを知ったのも、ほんの7年前くらい。それまでは、一切そういった写真まわりの文化に触れずに来ました。美術鑑賞自体は好きで、年に4、5回は美術館には出かけていたのにもかかわらずです。額装には額とマット(穴の開いた台紙のような厚紙)が必要だということも知りませんでした。作品をどう買って、どう飾るかについて、まったくと言っていいほど知識がなかったのです。(作家の作品も、美術館以外の一般人が買えるのだ、と知ったときは衝撃でしたね)


語学教育系の専攻だったのですが、まわりの人間もだいたい似たような感じでした。作家のオリジナルプリントの「写真を買う」ということが話題に上ることは一度もなく、別の世界線の話くらいに遠い話でした。

 

引き合いに出してすみませんが、これは、書と似ているところがあるなと思っています。「作家の書、買ってますか?」と問われたら、えっ? となりませんか。どこで買えるのか知らないし、部屋にどうやって飾ったらいいかわからないし、額装は掛け軸? どこに頼めばいい? 値段はどのくらい? うちには床の間もないし、そもそもどこから調べたらいいのか。こういった戸惑いは、写真に馴染みのない人が、写真を買うことについての戸惑いと似たものと言えるのではないでしょうか。

 

以前、ある写真家の方と話す機会がありました。その方は外国で作品が売れたときに、買ったお客さんの所有するお城に招待を受け、広大なお城に集められたコレクションと、そこへ飾られた自分の作品を見たということです。河島さんの<放課後ラジオ>でも触れられていましたが、ヨーロッパ諸国の町にはギャラリーが大小いくつもあって、富裕層だけでなく、庶民も写真を買って、家で鑑賞して楽しむとか。


どうやら、ヨーロッパ等では、写真を買う(もしくは絵画を買う)、そして飾るという文化が広く、また深く根付いているようです。対して、日本では、「写真作品は買うことができる」という前提までもが、写真好き以外の層には、あまり広がっていないように見えます。


なぜなんでしょう……。

 

とりあえず、気になったので、自宅のインテリアを公表している人たちの人気ランキングを上からざっと十五位くらいまで見てみました。居間に何がどう飾られているのか見ると、なにかしら、額を壁に飾っている人は多かったものの、どうやらカラフルなイラストや抽象柄、ドローイングに北欧柄のファブリック、タペストリーなどが人気な様子。写真額は、意外にもあまり見かけません。この壁の陣取り合戦、写真分野にもぜひ頑張って欲しいところですよね。


なんでこのオシャレ人たちは、壁に北欧柄を飾って、写真のプリントを飾らなかったんだろう? まあ、たしかにギャラリーは、好きな作家がはじめにいて、展示のお知らせを見て、そこから通うものだし、何も写真と縁がない生活をしていれば、雑貨屋などで買いやすい北欧柄になってしまうのか? 

 

こんなことを言っていると、写真関係の人には、アートはもっと高尚なものであるから、インテリアなんかと一緒にするな、写真に対する理解が浅いとお叱りを受けそうなのですが、でもこのインテリアに凝るような人たちの選択肢として、写真が一番に来るような未来が来たら、いいだろうなあと思うのです。


雑誌があったときには、ギャラリーの情報は一覧で見られて便利でした。今日はどこで何の展示があるかな、と思っても、自分の知っているギャラリー以外の情報はあまり目にすることがありません。わたしのような写真趣味初心者にも、また、写真にまったく興味のない層にも、日時・場所で検索できたりして、展示情報にアクセスしやすい仕組みはないものか。

 

あと、金銭的な問題もあります。


わたしも「写真作品は買うことができる」と知っていたら、独身の間にちょっと無理をしてでも、大作を買っていたかもしれない、と思います。


いまは家庭がある身ゆえ、趣味的な分野で十万円前後の高額な買い物をするときには、自分の財布からであろうとも、家族に一旦相談してから買うようにしています。カメラはまだ、家族の姿を撮って残せるという言い訳がたちます(?)。オリジナルプリントの作品だって、もちろん、家に飾ることで毎日眺め、愛でて毎日を生きる活力としますが、カメラより、なかなか簡単には家族の了解は得られません。


プリントの値段が高すぎる、下げてください、と言いたいのではありません。アートとしての価値、写真家の立場は、一番大切に守られるべきものです。ただ、写真趣味ビギナーの人間が、写真購入のため、一歩を踏み出すためのハードルが、今は限りなく高いような気がしています。

 

その他に、大きさの問題もあります。


わたしは、作品の迫力を目の前で楽しみたいため、視界が覆われるような大きな作品が好きです。美術館やギャラリーで見ると、気分が高揚しますよね。


自分でも写真を撮って、たまにグループ展に出展するのですが、はじめて四ツ切(348mm×424mm A3サイズより一回り大きい)で額装してみたときに(うわ大きい)と感じました。ギャラリーの中で見ると、決して大きくはない、むしろ小ぶりなサイズなのですが、いざ家の中に飾るとなると、我が家の壁には大きすぎる。

 

自分の写真を四つ切額に収めてみました。写真ではわかりませんが、実際見るとかなり大きいです。


バランスにもよりますが、我が家では壁のスペースごとに、額一枚でお腹いっぱいという感じです。暗室で焼き直せる自分のプリントならまだしも、好きな作家の作品は、日光に当てて、褪せさせたりするなんてもってのほかなので、飾る場所にも気を遣います。


なので、自分で写真を額装するときは、後で飾ることを見越して、指定がなければ、できるだけ小ぶりな八ツ切(242mm×343mm A4サイズより少し大きい)額を使うようにしています。わたしも壁がいっぱいあって、額をいくらでもかけられるヨーロッパの城に住みたいです……。

 

というわけで、わたしの購入した写真プリントは、いまのところ、大ファンの、ジョナス・ベンディクセン
Jonas Bendiksen の作品のみです。直筆サイン入りがうれしい。

 

ジョナス・ベンティクセンの作品。


これはプリントをマグナムで購入、ナダール(https://g-nadar.net/)で額装してもらったお気に入りです。これも、マグナムの100ドルセールのときにサッと申し込みました。(このセールのときには、誰もが知っているようなあの有名作家の有名作品も出ますので、よかったら。見るだけでも楽しいです→https://www.magnumphotos.com/)大きさは4×5サイズ。サイズの小ささも決め手でした。玄関のいちばん目立つところに飾って大満足です。この写真は雑誌で見かけて、大好きでよく眺めていたので、通る度にいいなあと眺めています。


他にも、何年もずっと欲しいと思い続けている作家の作品があります。これは、仕事が成功したときに、自分へのお祝いとして買いたいなと思っています。

 

写真集は比較的よく買うほうですし、雑誌・ムックもよく買います。でも、オリジナルプリントとしての写真を買う楽しみは、まだわたし自身、経験があまりありません。いつかあの作品を我が手に……と思いつつ、仕事を頑張りたいと思います。

 

 

これはわたしも講座を受けた、写真家の森谷修先生からいただいたオリジナルプリント。いつも眺めて励みにしています。

 

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