top コラム柊サナカのカメラ沼第3話 紳士淑女のためのカメラ市のススメ

柊サナカのカメラ沼

第3話 紳士淑女のためのカメラ市のススメ

2022/01/11
柊サナカ

「カメラ市」血湧き肉躍るこの響き。わたしはたぶん、「ご臨終です」という時にも、「来週カメラ市ですよ」と聞いたら持ちこたえるだろうな、というくらいカメラ市が好きです。
カメラを買うには専門店・ネット販売・オークション・カメラ市などなど、いろいろな形態がありますが、(ちょっとカメラを始めてみたいけど、お店に行くのはちょっと緊張するな)という方には、特にカメラ市がいいのではないかと思うのです。

 


カメラ市で一番最初に買ったローライ35のフード。ローライ35を持って合うものがないか探しに行きました。純正ではないらしいですが、気に入っています。

 

拙著「谷中レトロカメラ店の謎日和」シリーズを書くにあたって、実際のカメラ店も参考に見てみたのですが、書き始めた当初は、カメラ店に少しも馴染みがないものですから、店の中にも入れなくて、窓から中をチラチラ見たり通り過ぎたり、道の反対側からじっと眺めたりと、不審な動きをしていました。
もちろんカメラ専門店は、押し売りするようなことも無ければ、初心者にも親切なお店がとても多いのですが、それでも知らないお店にひとりで入っていくには、勇気が要りました。
カメラ市が好きなのは、初心者でも気軽に見やすいことと、いろんなお店が一度に見られることです。たいてい、ガラスケースがコの字に並んだブースになっていて、ずらりとカメラやレンズ、カメラアクセサリーなどが並び、中にお店の方が二、三人いるというような雰囲気です。一人で来ているお客さんも多ければ、女性のお客さんもちらほら見かけます。
 

軽く会釈してガラスケースに並んだカメラを見、気になる物があったら「すみませんこれちょっと見せてもらっても良いですか」と言って、ガラスケースの上に出してもらう。外観を見て、必要があったら、「シャッター切ってもいいですか」と断って、シャッターなどを切らせてもらったり、ファインダーを覗いたり、いろいろ触らせてもらったりする(商品なので取り扱いはとにかく丁寧に)。お財布と相談して、買うかどうか熟考する。もしちょっと考えたいときは、「すみません、一周回って考えます」などと言い、挨拶して次を見に行く――みたいな感じでぐるぐる巡ります。楽しい。
 

ガラスケース以外にも、ジャンクコーナーなどは、大きな棚の上にお買い得のカメラやレンズがずらっと並んでおり、ああカメラ市に来たな! とテンションが上がります。群がる人の間を縫うように行って手を伸ばし、掘り出し物を見つけたりも。こちらは現状品ということで、難あり・わけあり品もあります。そのわけあり品の「わけ」がわかる方にとっては宝の山でもあります。

 

不動として激安な蛇腹のカメラでも、ちょっとしたコツがあってそのつまみを解除したら動いた、とか、修理職人さんに出すこと前提でお安く手に入れたり。知らない人にはなんだかよくわからない謎のアクセサリーでも、知ってる人にはこれずっと探してたやつだ! ということもあり、見て回ると隅々まで楽しいです。カメラだけでなく、隅の箱の中から、昔の雑誌や書籍、カタログなど、なかなか見つからなかったものを見つけたり、デッドストックのかわいいストラップやレトロデザインの小物などを買ったり。みなさんそれぞれの楽しみ方があるようです。

 

カメラ市で勧めてもらい、迷いに迷いながら買ったアグファ オプティマ1035。大好きなカメラとなりました。

 

わたしは会期の中間より後半、まったりした雰囲気が好きなので、カメラ市は初日を避けて、後半の平日、それも特に人の少なそうな午前中によく行っています。
さすがに今は密を避けるために、整理券方式やくじ引きになったりして、やらないようですが、昔のカメラ市では風物詩・初日ダッシュが見られたようです。早く行けたらその分よいものが見つかります。いち早くよいものを手に入れようと、階段を駆け上がる人々の群れは、きっと遡上する鮭のように見えたことでしょう。カメラ趣味は、年配の方も多いので健康上大丈夫だったのかな、と心配になりますが、そのくらい白熱するカメラのお祭りでもあります。

 

こんなご時世ですから、ここ数年は少ないようですが、カメラ市初日は爆買いする中国からのバイヤーの方(景気が良いですね……)、筋金入りのカメラ好きの方(会期中二度三度と来る方も。本当に好きですね)、その他バイヤーらしき方(あら、相場をご存じないならそこを空けてくださいましね)で混むようです。わたしが欲しいものが、目玉商品とはすこしずれていることもあって、混雑を避けての後半、平日に出向くのですが、その頃になると、行った方からの情報も集まってきて、補充された面白いものも出てきますし、カメラ市内でのセールをやるお店も出てきます。ちなみに、カメラ市の期間中に、カメラ市不参加の実店舗の方を巡るのも穴場としておすすめだそう。

 

ボケがぐるぐるした、変わった写りのレンズが欲しいんですが……と選んでもらった、ペンタコンオート2.8/29。

 

カメラ市に行くと、カメラ好きの同窓会みたいに、その角で久しぶりに会ったAさん、次の角で大物を買おうと交渉中のBさん、紙袋をいっぱい持ったCさんとすれ違ったりします。「いいものありました?」を挨拶にして、やりとりするのも楽しいですね。
目の前には憧れのカメラたち。「~回ローン無金利……」みたいなアナウンスも流れ、福引きのカランカランという当たりの鐘の音も遠くに聞こえたりして、興奮が高まります。(この目の前のカメラは確かにお高いけれど、これを60回で割ってみたら一回はどのくらいだろう。人生は一度きりなのに、ここで我慢するのはどうなのかな? やらない後悔よりやった後悔と言うし)などと脳内で物欲がささやけば(今手元にあるカメラも、百パーセント使いこなせていると言えるのですか。カメラを買えば写真が上手くなるというものでもないし、ちょっと腰を据えて考えたらどうですか。ハッセルはまだ早い)と理性にたしなめられたりして、心は千々に乱れます。

 

理性の声に自分を律しながら回っていても、カメラもレンズも持っていないのに、ただかっこいいというだけで角形フードを衝動買いしたり。その角形フードから、じゃあこれに合うレンズがいるな、それならばせっかくなのでボディも……となり、結局全部買ってしまったり。カメラ市は物欲の魔物が棲んでいます。
カメラ市にはたくさんのお店がありますので、品揃えや雰囲気で気に入ったお店があれば、後日、実店舗の方へ行ったりもしますし、よい出会いの場でもあるなと。

 

最終日近くに無造作にガラスケースにのせられていた掘り出し物、美品のミール38b。何本もありましたが一本千円でした。罠かと思うほど安い。

 

先日、PCTでも初のカメライベント「J-カメラポップアップショップ 中古カメラバーゲン2021」がありました。ハッ! と見ればスメハチという愛称で知られるスメナ8M。お値段2200円なんて本当ですか? となっていたら、箱やケース、説明書フルセットでそのお値段だとか。ロシアカメラ好きのわたくし、スメナ8Mはいつか欲しいと思っていたので、もうその場で息をするように買っていました。カメラ市はそういう、他の方には興味の無いカメラでも、自分は大好物というカメラにも出会えますし、掘り出し物も多いです。

 

一人で行っても楽しいですし、カメラに詳しい人と行ってもまた楽しいカメラ市、年に数回、いろいろなところで行われていますので、ぜひどうぞ。

 

「Jカメラポップアップショップ 中古カメラバーゲン2021」スメナ8Mセットは箱までついて破格の2200円。写りも満足。

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する