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柊サナカのカメラ沼

第11話 カメラ・オブスクラを作ってみる

2022/08/23
柊サナカ

カメラ・オブスクラ――カメラ好きなら誰でも聞いたことのある、この、カメラ・オブスクラ。目の前の景色をそのまま平面に投影できるという機器で、「カメラ」という言葉の由来ともなっています。
図解などでは、よく画家がカメラ・オブスクラを使って、絵を写し取っている様子が描かれていますよね。「真珠の耳飾りの少女」で知られるフェルメールも、このカメラ・オブスクラを下絵に用いたと推測されています。

 

原始のカメラとも言えるカメラ・オブスクラを、わたしも一度使ってみたいなと考えていました。しかし本物はeBayでもまず見かけません。たまに、木製で手作りらしきカメラ・オブスクラが、クラウドファンディングなどで販売されていることがあります。トレースするためのすりガラスも、三脚ネジ穴などもあったりして、かなり本格派なつくりのものも。これなら絵の下手なわたしでも、もしかして写実的な絵が描けるようになるのでは? と思いましたが、大判カメラ同様、それなりの価格がするので、ついつい後回しにしていました。

 

そんななか、紙工作でカメラ・オブスクラを作ってみようというコンセプトの、コクヨ 「フェルメールのカメラ箱 CAMERA OBSCURA」を見つけました。こちらのカメラ箱、同じ比率で方眼がついた真四角のノートと一緒に販売されていたようで、かつてのフェルメールと同じように、カメラ・オブスクラで絵を描いてみようという試みの商品だったようです。
工作には20分ほどかかると説明書にあります。あとで作ろうと思い、ずっと保管している間に、どうやらこの商品は廃盤になってしまったようです。不器用なわたしにも簡単に作れたよい製品だったので、ぜひまた再販してほしいものです。
この商品自体は廃盤でも、カメラ・オブスクラ自体の原理は簡単なので、工作が得意な方なら、自作でもすぐできると思います。

 

ここからは写真と共に制作過程をお見せします。
構成部品は大きく、「のぞき窓」と「本体」と「鏡胴」。

 

 


内容物を全部出したところ。 

 


あと、重要な部品として、ミラーとレンズとスクリーンが必要です。ミラーは簡易のものでもよく写ります。
レンズは凸レンズ一つ。セットに付いているのは簡易的な凸レンズでしたが、凝る人はここでトリプレットとかガリレオとか凝りに凝っていただきたい。

 

ミラーを付けました。

 

 

レンズです。一枚一群(?)

 

 

スクリーンはトレーシングペーパーか、本家に忠実にあろうとするなら磨りガラスでも。

 

だんだんできてきました。右側はスクリーン、真ん中はレンズで、最後に組み合わせます。

 

 

あとの仕組みは簡単です。レンズから通った光を、斜めにしたミラーで90度上に反射させる。その光をスクリーンに当てて、透過させるという理屈です。こんな簡単な仕組みで本当にできるのかな……と思いきや、めちゃくちゃよく見えたので、嬉しくなりました。鏡胴を前後することで、ピントがきちんと合わせられます。感覚として、絞り値はf4ぐらいの雰囲気で、前のものにピントを合わせれば、後ろはやさしくボケます。周囲が流れる様子も、なかなかドリーミーな写りでいいと思います。

 

完成図。ちょっとハッセルブラッドに似てませんか? 

 

 

そうか、昔の画家たちもこれで絵を……ではわたくしも描こう、と思いましたが、無茶を言うなと思いました。これを見て絵を描ける人はそもそも絵が上手い。余談ですがわたくし、日本語教師時代に「あしか」を説明するのに絵を描いたのですが、その絵があまりに下手だったために、教室がざわざわして、それは何ですか……と皆が真剣に話し合い始め、授業どころではなくなってしまったことがあります。

 

たぶん昔の人も、カメラ・オブスクラで絵を描こうとして(いや無理)となったにちがいありません。やるなら絵じゃなくて、この画像そのものが欲しい。ダゲレオタイプを発明した、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが(手描きなんぞやってられん)を思ったかどうかは定かではありませんが、実際にこのカメラ・オブスクラを作ってみて、昔の人の気持ちがすごくわかりました。

 

カメラ・オブスクラに映る画像はとても美しいです。ピントが合っている部分はシャープに、四隅が流れ、トレーシングペーパーの質感と相まって、なんとも言えない味わいがあります。この画像を、そのままそっくり写し取れたら――読者のみなさま方におかれましては、(デジタルで撮ればいいのでは?)とお思いでしょうが、そこはじたばたしてみたいのです。

 

 

空を写してみました。なかなか好きな写りです。

 

 

写真に撮るにしても、例えばフィルムだと、1/500秒などのシャッター機構が要りますよね? それではかなり大がかりな細工になってしまいます。シャッター機構がいらなくても、適正露出になるような感材がないでしょうか。印画紙も、日中では真っ黒になってしまうでしょう。
そこで、サイアノタイプはどうだろうと思いました。サイアノタイプは青写真とも呼ばれ、紫外線量にもよりますが、だいたい露光は数分(5分など?)が目安のようです。それならこのカメラ・オブスクラに仕込めるかもしれません。
 
できたのがこちらですが……あまりうまくいかず。以前サイアノタイプをやったときには、フィルムの密着焼きしかやったことがありませんでした。ちょっと本腰を入れて、このカメラ・オブスクラを使って、サイアノタイプでなにかできないか試みてみます。

 

 

サイアノタイプ。ぼけてしまってうまく撮れませんでした。やはり光量というより紫外線の関係で、密着焼きでないとうまくいかないのでしょうか。

 

 

こうやってカメラの原点に触れるのも、なかなかよい機会でした。
カメラの歴史に思いをはせつつ、現代に生まれた利点を生かしてカメラ店に行ってきます。

 

 

カメラ・オブスクラの絵。

 

 

コクヨ 「フェルメールのカメラ箱 CAMERA OBSCURA」の説明書です。

 

 

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