top コラム柊サナカのカメラぶらり散歩第26話 「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展 日本カメラ博物館

柊サナカのカメラぶらり散歩

第26話 「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展 日本カメラ博物館

2024/12/17
柊サナカ

カメラ博物館、「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展

 

小説を書く前には、先行で同じような小説がないか調べるものですが、カメラを題材にした小説は、意外に少なくて驚いたのでした。
 

その中で「名作……!」と唸ったのは、映画化もされた『世界で一番長い写真』(光文社文庫・誉田哲也著)です。とてもいいお話なので、まだのかたはぜひ。世界一長い写真にまつわる青春物語の名作です。作中で使われたそのカメラ、なんと実物が見られる場所があるんですよ!

 

日本カメラ博物館の展示「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展で展示中です。ぜひご覧いただきたい。
 

”世界一長い”というのは、フィクションの作り話ではなくて、実際に写真も撮ったとのこと。しかもそれが個人の手作りカメラというのが、ロマンがあっていいですよね。100フィートフィルムを一回の撮影で使い、あわせて制作した、スリット露光方式の引き伸ばし機でプリントしたそうです。その写真の長さ、実に145メートル。カメラ制作者の山本新一氏は、映画の公開を待たずに他界されたとのことで、映画をさぞご覧になりたかっただろうなと思いました。(写真の実物はあまりに長いので、今回、スペースの関係上、展示はできなかったそうですが、日本カメラ博物館には、その世界一長い写真がきちんと保存されているそうです)

 

こちらが山本新一氏作、「世界一長い写真」ギネス記録保持のカメラ。ほかにも山本進一氏作のカメラは、驚くような発想のものがいろいろあるのでぜひ見ていただきたい。 

 

今回の「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展では、わたしのカメラ小説の中で、どうしても書きたかったのに、なかなか使いどころが見つけられなくて書くのを断念した、ドッペル・スポルト(鳩カメラ)も展示されていました。ドッペル・スポルトは鳩の剥製と共に展示されていますので、こちらも実物をぜひご覧になっていただきたい。これは、鳩の身体にこのカメラをとり付け、大空を飛ばして上空から写真を撮るという、生けるドローンカメラのようなものです。リモコンは当然無い時代ですから、タイマー(エアー・ダンパーによる遅延装置)を使ってシャッターを切ったそうです。
 

ドッペル・スポルト。鳩もしくはカラス? につけて飛ばしてみたいものです。

 

こちらのドッペル・スポルト、わたしが鳩だったら、「重いんですけど。やめてもらえますか?」と怒りながら餌をついばんだりして、絶対に飛んでやらないと思っていましたが、その昔、新聞社で伝書鳩を実際にお使いになっていた方によると、新聞社の伝書鳩は今の公園の鳩などより体格がはるかに良く、筋肉質で、大きさ自体もずっと大きかったそうです。そういった鳩なら、このカメラも難なく飛んで運べたかもしれません。
 

来年には、ワイドラックスの新製品も出るとのニュースを見ましたので、パノラマカメラブームが今一度、やってくるのかもしれません。(ちなみに、このパノラマカメラブームは数十年に一度やってくるそうですよ。彗星のようですね)
 

パノラマカメラは独特なフォルムの物が多いので、見ていて楽しいです。
 

この「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展では、ステレオカメラの展示もあります。ステレオカメラは、レンズが目の幅に二つ横並びについているタイプが多く、ちょっと人の顔を連想します。わたしも一台、ステレオロッカを所有しています。とぼけたロボットみたいで可愛いです。撮れた写真は実際に立体に見えるのがすごい。こちらの過去記事をごらんください→(https://photoandculture-tokyo.com/contents.php?i=2131
 

ステレオカメラの数々。人の顔みたいですよね。

 

ステレオ写真の立体視には、向き不向きがあって、どうがんばってもできません、と言う方もいらっしゃるかもしれません。やり方には交差法・平行法とあり、わたしは奥行きがある方には見ることができるのですが、飛び出す方に見るのは不得手です。でもそんな方にも、今回の「ステレオ&パノラマカメラの歴史」展ではビューワーの貸し出しもあるので、どなたもちゃんと立体に見ることができます。 
 

立体視メガネも貸し出し中です。

 

ステレオカメラのローライドスコープが、二眼レフ、ローライフレックスの原型になったというのは有名な話です。

 

ローライドスコープは、カメラマニアの店主がどうしても欲しくて、お客さんの憧れの人捜しに協力する話「恋する双子のステレオカメラ」を「谷中レトロカメラ展の謎日和」1巻で書きました。その話にはたくさんステレオカメラが出ますので、興味を持たれた方は展示とあわせてどうぞ。

 

ローライドスコープ。 

 

この「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」展をきっかけに観た映画、「世界で一番長い写真」がたいそう面白かったので、それは来週のコラムで紹介させていただきます。名作でした……!

 

こちら、日本カメラ博物館のコレクション写真。もしや伝説の……! 会場の立体視メガネでぜひ。

 

昔のステレオスコープは優美ですね。

 

立体視というと現代に近い技術かと思いきや、意外に昔からあるようでびっくり。

 

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