top コラム柊サナカのカメラぶらり散歩第1話 日本カメラ博物館

柊サナカのカメラぶらり散歩

第1話 日本カメラ博物館

2022/11/29
柊サナカ

カメラ博物館。ちなみにすぐ上は「谷中レトロカメラ店の謎日和」の版元、宝島社です。

 

カメラ愛好家は、物語の中のカメラの間違いを許さない性質があります。
時代が違うのは絶対にだめ。ライカがいきなりピカッと光るのもだめ。二眼レフを上から覗かないのもだめ。沈胴レンズを引き出さずに使ったりなんかしていたら、沈胴レンズに親でも殺されたかのように指摘します。

 

わたしは当時(2015年ごろ)、ものすごく困っていました。なぜなら、小説のテーマがカメラ、しかもクラシックカメラのミステリーだったからです。別の作家の本、カメラが出てくる作品の感想で、「間違いの箇所を手紙に書いて編集部に送りましたが、作者も編集部からも、なしのつぶてでした」という、ものすごい長文の☆1レビューを見て震え上がりました。カメラファンは、間違いに特別厳しいらしい……。
拙著「谷中レトロカメラ店の謎日和」シリーズは、日本カメラ博物館の職員・学芸員のみなさんの監修のおかげさまで、今のところ、「ここ間違ってるよ! この素人が! 出直してこい!」という長文のお叱り手紙もいただくことなく、シリーズ三冊出ております。ありがたいことです。

 

NHK大河ドラマの「青天を衝け」にも、カメラがたくさん登場していたのは記憶に新しいところですね。まあ、フィクションだから、カメラだって、そのあたりに適当に配置しておけばいいのではないか? と思う向きもあるかも知れませんが、そうはいきません。良い場面なのに、所作が思い切り間違っていたら、なんだかいきなり、世界観がチープになってしまいませんか?  
小物に至るまで、時代を合わせて矛盾のないように、カメラ撮影の流れまで正しく扱うには、深い専門的知識がないと不可能です。NHK大河ドラマや、さまざまな映画へのカメラの貸し出し、監修を行ったのも、日本カメラ博物館なのです。
そんな日本カメラ博物館を、博物館に通いつめているわたくしが紹介したいと思います。

 

日本カメラ博物館は、半蔵門駅から徒歩すぐ、JCII一番町ビルの地下にある博物館です。「JCII」は、財団法人日本写真機検査協会(Japan Camera Inspection Institute)の略で、もともとは、戦後、世界に輸出される日本製カメラや光学機器の、検査・研究を行う機関でした。そこから1989年に「日本カメラ博物館」が設立されたということです。このように、ずっと日本のカメラの歴史と共に歩んできた経緯があります。
ビルの地下一階ですから、どんなに外が寒くても暑くても、いつでもひんやりとした、静かな時間が流れています。入館料金は一般300円で、中学生以下は無料です。

 

入館すると、まず常設展が始まります。カメラに詳しい方も、詳しくない方も、そのカメラの種類の多さに、まず圧倒されることでしょう。大きなもの、四角いもの、変わったデザインのもの。時代によるカメラの変遷を辿ることができます。
カメラに限らず、技術の発展の歴史を見るのは楽しいですよね。人類が「もっと持ち運びしやすいように」「もっと何枚も撮れるように」と改良に改良を重ね、各メーカーが磨き上げてきた技術の結晶が、カメラだと思います。
日本ではここでしか見られないような貴重なカメラもありますし、報道写真家である沢田教一氏の使用したカメラなど、歴史的に意義深いカメラも展示されています。

 

博物館常設展の様子。ずらりと並ぶカメラたち。

 

常設展も見どころがたくさんあります。中島康夫氏のライカコレクションもすばらしい。

 

昔の写真機や暗室なども。

 

フィルムなどもあるので、懐かしいフィルムもあるかもしれません。

 

次は特別展ゾーン。こちらは年三回、テーマ別の展示が開催されます。ちなみに、この記事が掲載されるときにはちょうど、特別展「私が集めたカメラの歴史 高島鎮雄・私的カメラコレクション」が開催されています(2023年1月29日まで)。高島鎮雄氏は自動車・時計・カメラの分野のフリージャーナリストとして活躍、日本屈指のカメラコレクターとしても有名です。
https://www.jcii-cameramuseum.jp/museum/2022/08/23/32069/

 

「私が集めたカメラの歴史 高島鎮雄・私的カメラコレクション」のあいさつをする高島鎮雄氏。

 

わたくし、一足先に展示を見てまいりましたが、読者のみなさまにも、ぜひおすすめしたいです。カメラミステリーを書くに至って、参考文献としてかなりのカメラ本を読みこみましたが、それでも一度も見たことのないカメラがたくさんありました。
この道何十年のベテランカメラマニアも、これほど綺麗なコレクションは初めて見たと興奮気味でした。そうなんです、古いカメラは1880年代に製造されたものもあり、100年以上経っているため、普通ならあちこち痛んでいても仕方がないのですが、蛇腹、木製部分、貼り革に至るまで、どれも奇跡のような美しさ。まるで時がそこだけ止まっているかのようです。古いカメラは、リレーのように人から人へと移るものですが、その誰もが宝物として扱ってこその美だと思います。

 

すごいのは、カメラだけでなく、アクセサリーが付属しているものもあること。美しさで知られる、ジャガー・ルクルトの「コンパスⅡ」。コンパス自体、優美なカメラとして有名ですが、三脚まで美しいなんて。脚が、スッ……とどこまでも細くなっていくのは、現代美術のオブジェのようでもありました。
コンパスにつけるとぴったりで、ジャガー・ルクルトの美へのこだわりが見えるようでした。展示の様子があまりに綺麗だったので、ぜひ博物館で見ていただきたいです。
コンカヴァ「テッシナ」。テッシナは、腕時計のようになった小型カメラとして有名ですが、テッシナにも、豊富なアクセサリーがあるのをご存じでしたか? ペンタプリズムもあるとは。こちらもぜひ見ていただきたい。

 

みなさんの楽しみを奪わないよう、カメラコレクションの一部のみ、お見せします……。

 

蛇腹も本当に美しい、この世の宝のようなカメラたち。 

 

あと左利き用ライカも面白いなと思いました。「ライカ1A(コピー)レフトハンダー用」こちらは制作者不詳の謎カメラ、コピーとはいえ、ヘリコイドまで逆に切ってあるという凝りぶり、誰が何のために作ったのか、作った人自身左利きだったのか、愛する人が左利きだったのか? 鏡を見ながら組み立てたのか? すべてが謎に包まれたカメラですが、ロマンと物語を感じますね。

 

こちらの特別展、カメラの一台一台に、高島鎮雄氏の丁寧な解説がついているので、カメラ好きはもちろん、そうでない方も、とても楽しめる展示となっております。
高島氏直々に、お気に入りのコレクションを見せていただいているようで、解説の文章を読んでいくだけでも面白いです。図録と合わせて、ぜひ楽しんでいただきたいです。

 

「私が集めたカメラの歴史 高島鎮雄・私的カメラコレクション」図録も読みごたえたっぷり。 

 

日本カメラ博物館には、JCIIライブラリーもあります。(入り口は隣のビル、地下一階です)こちらは閉架式の図書館で、予約が必要です。
カメラに関する古い資料などは、専門的な分野になるので、他の図書館で探しても見つけられないことがあります。JCIIライブラリーは、写真とカメラに関する資料にとにかく強く、例えば「明治期の写真学校について調べています」と相談したら、これだ! というものを出してもらえたりして、執筆にとても助かりました。資料は、あるだけが重要なのではなくて、どう検索するか、どうあたりをつけるかが、実はとても大変だったりします。検索しようがないのです。そんな時に、JCIIライブラリーはとても頼りになります。
https://www.jcii-cameramuseum.jp/library/

 

ライブラリーは閉架式で、扉の向こうにたくさんの蔵書が並んでいます。

 

ところで、お子さんがいる方は、夏休みの宿題、特に自由研究については、毎年困りますよね……。教育的によくて、ためになって、成果物ができて、ってけっこう難しくて、ネタ切れになってしまうことも。日本カメラ博物館では、夏休みワークショップが充実していて、「ペットボトル万華鏡」や「フォトグラム」などで、お子さんと学びながら楽しめるので、毎年人気だそう。わたしも以前「カメラ分解教室」に混ざったことがありましたが、楽しかったです。毎年人気なので、ホームページの予約開始時期をチェックしてみてください。

https://www.jcii-cameramuseum.jp/kids/

 

日本カメラ博物館はYoutubeにも力を入れていて、Youtubeチャンネル登録で入館割引(100円引き)があります。「幕末・明治の古写真と歩く 東京百景」シリーズは、幕末・明治好きの方や、歴史ものを書く創作者の人にも、たいへんおすすめです。当時の日本と現代の日本を比べて、古写真でわかりやすく解説。当時の生活も興味深く、つくづく、写真はタイムマシンのようだなと思います。
遠方の方も、特別展の様子が見られる動画もありますので、よかったら。

https://www.youtube.com/channel/UCVRHR70H4_ozxNZ8yEe-TvQ

 

「私が集めたカメラの歴史 高島鎮雄・私的カメラコレクション」の図録を読んでいると、カメラの実物をまた見たくなってきたので、再度行ってみるつもりです。みなさんもぜひ。

 

註)今回、写真撮影は許可を取って撮影しています。博物館内は、写真撮影が禁止されていますので、ご注意ください。

 

  • ■日本カメラ博物館
  • 〒102-0082 東京都千代田区一番町25 JCII一番町ビル B1
  • 電話:03-3263-7110
  • 開館時間:10:00~17:00
  • 休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日の火曜日)および年末年始など当館が定める休館日
  • 入館料:一般 300 円、中学生以下無料、団体割引(10名以上)一般 200 円
  • https://www.jcii-cameramuseum.jp/

 

  • ■特別展「私が集めたカメラの歴史 高島鎮雄・私的カメラコレクション」
  • 開催期間:2022年10月25日(火)〜2023年1月29日(日)
  • 開館時間:10:00~17:00
  • 展示品:19世紀の木製カメラから、距離計連動式のスプリングカメラ、一眼レフカメラ、二眼レフカメラ、ボックスカメラなど、さまざまなカメラを高島氏独自の解説とともに紹介。(展示点数約200点を予定)
  •  
  • 【略歴】高島鎮雄(たかしま しずお)
    1938年群馬県前橋市出身。1958年モーターファン誌美術部で自動車構造画製作、1959年モーターマガジン誌編集部、1962年二玄社で『CARグラフィック』誌(現『CG』誌)の創刊に参画、副編集長。2000年に独立、自動車、カメラ、時計などのフリーランスジャーナリストして活躍。2017年日本自動車殿堂に選出される。現在全日本クラシックカメラクラブ(AJCC)名誉会長、日本クラシックカークラブ特別会員。

 

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