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柊サナカのカメラぶらり散歩

第22話 韮山反射炉と江川邸の古写真(伊豆の国市)

2024/08/20
柊サナカ

歴史に思いをはせる韮山反射炉。世界遺産、明治日本の産業革命遺産です。(リコー GR Ⅲx)

 

別件の仕事で、伊豆の国市に行ってきました。東京から三島駅まで約一時間、目的は世界遺産、明治日本の産業革命遺産である韮山反射炉を見に行くためです。
 
反射炉、と聞いて思い出すのは子供と観たアニメ「Dr.STONE」(ドクターストーン)です。これはいろいろあって原始の時代に目覚めた主人公たちが、科学の力を駆使していろいろな困難を乗り越えていくという筋で、アニメとはいえ、大人にも面白いストーリー展開なので、ぜひ観ていただきたい。
 

それまでも炉を使って土器などを焼いていた主人公たちは、ついに製鉄に挑戦することに。革のふいごを使って風を送り、700度までは炉の温度を上げられましたが、鉄となると1500度は必要、小さなふいごではなかなか温度は上がりません。そこで、耐火レンガで煙突状の炉をつくり、人手を増やしてふいごの数も増やし、長時間火を焚き続けることで解決していました。これをたたら製鉄というそうですね。「もののけ姫」でもおなじみです。

 

韮山反射炉で作られたのが、鋳鉄製の大砲でした。写真はレプリカの鋳鉄製24ポンドカノンですが、実際に作られたのは18ポンドカノンだということです。(GR Ⅲx)

 

できた大砲は鉄の塊ですから、筒の形にするためには中をくりぬく必要がありました。なんと水車で時間をかけてくりぬいていったとか。なので、流れの速い川のすぐそばに韮山反射炉がつくられたということです。(GR Ⅲx)


韮山反射炉がなぜできたのかというと、世は1850年代、欧州列強から国を守らねばならなかったからです。江戸湾防衛のためには急いで大砲を鋳造する必要がありました。当時にはたたら製鉄の技術はありましたが、人力で長時間空気を送り込み続けるのはたいへん効率が悪い。そこでオランダの技術本をもとに、最新の炉を作ろうということになりました。
 

仕組みとしては、燃料の炎の熱をドーム型になっている炉の天井に反射させ、熱を効率よく集中させることで鉄を溶かしたそうです。韮山反射炉を見ると、今も耐火レンガには激しい炎に耐えた証として、表面が釉薬のようになって残ったものもあり、国防のためにどれだけ先人が努力してきたのかを目で見ることができます。完成した大砲は、二キロ先まで砲弾を飛ばすことができたそうです。

 

この角で記念写真を撮ると、全体と人が入っていいとのこと。桜の時期は桜もたいへん美しいそうです。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar12mm)

 

伊豆の国市の様子。心が和みます。(GR Ⅲx)

 

見学しながら、令和の日本の今を、当時の人たちが見たらどう思うのだろう、と思ったりしました。
 

韮山反射炉は、角から写すと上部の煙突から人まで全部入る位置で写りますのでオススメだそう。あと、池から写すと逆さ反射炉、春なら桜と反射炉の取り合わせがとても美しいとか。
 
韮山反射炉の生みの親、江川英龍の江川邸も車で五分くらいの所にあります。ここに意外にも、写真に関連するものがあるのです。

 

韮山反射炉の生みの親、江川英龍の江川邸。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar12mm)

 

江川邸には中に入ることもできます。昔は茅葺きだったものを、銅板葺きに直したそうです。(GR Ⅲx)

 

土間の中に入ると、縦横に組み合わされた梁に圧倒されます。木材を加工した跡もはっきりと目にすることができます。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar12mm)

 

江川邸の外壁。(GR Ⅲx)

 

江川家には江戸時代から昭和初年度頃までに撮影された写真がいくつも保存されています。「江川家関係写真」として重要文化財にも指定されているとか。
 

写真黎明期の古写真の実物をぜひ見たかったのですが、そちらは劣化を防ぐために実物の見学はできませんでした。それでも「写真集 日本近代化へのまなざし 韮山代官江川家コレクション」(江川文庫編・東京大学史料編纂所古写真研究プロジェクト編集協力・吉川弘文館)こちらの写真集を手に入れられたのは嬉しい。この江川家コレクションは、古写真好きの方には絶対面白い内容なのです。第一章が幕末の肖像写真、ジョン万次郎の湿板写真です。
 

ジョン万次郎というと、あの漂流して数奇な運命をたどった日本人ということでみなさんご存じでしょうが、日本に持ち帰ったものは、<シヨエーミシン、アツコラデアン、写真鏡>だそう。現代の言葉で、ミシンとアコーディオン、カメラですね。

 

江川邸の内部。門下生の気分で机に向かうこともできます。(GR Ⅲx)

 

ジョン万次郎にカメラのイメージはなかったので驚きました。写真がうまい。(GR Ⅲx)

 

よく見たら金具すらも可愛い。(GR Ⅲx)

 

買い求めた「写真集 日本近代化へのまなざし 韮山代官江川家コレクション」(江川文庫編・東京大学史料編纂所古写真研究プロジェクト編集協力・吉川弘文館)。こちら古写真好きにはおすすめです。(GR Ⅲx)

 

カメラの写真も展示されていましたが、いわゆる木箱に筒のようなレンズがついた素朴なもの、うまく撮るのはかなり大変だったと思います。ガラス湿板なので現像もすぐにしなければなりません。現像液なども買えるわけじゃないので大仕事です。それでも(意外に写真上手いな)と思いました。それまで絵でしか残っていなかった肖像が、写真という技術が入ってくることによって鮮明に残っていることにロマンを感じます。
 

この写真集、巻末の目録が詳しく、一枚一枚の写真について書き込み、枠について、包紙の有無など書いてあって興味深いです。

 

パン祖のパンの注意書き。「朝食のパンには不向きです!」と書いてあったら、気になってもう買うしかありませんね。(GR Ⅲx)

 

パン祖のパン。歯が勝つかパンが勝つか! おみやげは、クラフトビールの反射炉ビールもあって、びっくりするくらいおいしかったです。一本と言わず、もっと買って帰るのだったなと思いました。(GR Ⅲx)


江川英龍といえばパン祖としても有名です。パン祖とは何かというと、江川英龍は日本で一番最初にパンを作った人でもあるのです。そのレシピで復刻されたのがこのパン祖のパン、賞味期限は一年という長さで、これは有事の携帯食として開発されたようですね。韮山反射炉脇の、「反射炉物産館たんなん」で購入できます。
 

お土産にしましたが、たぶん日本一固そう。パン同士を打ち付けると、カンカンとパンらしからぬ音がします。かじって食べましたがなかなか味わい深い味です。ソフトなものと固いものがありますが、パン祖の江川英龍に敬意と根性を示す意味でも、ぜひ固いものにチャレンジしていただきたい。差し歯の人は危険なのでお茶に浸しながらいただきましょう。

 
伊豆の国市は、魅力的なところなのでぜひ。韮山反射炉の周りには、国宝の運慶作 阿彌陀如来坐像がある願成就院や、雰囲気のある守山八幡宮の参道、カメラを持って回ると面白いところがまだまだたくさんあります。こういった良いところをこれからもいろいろ見つけていきたいですね。
 

夏休みの小旅行にいかがですか。

 

雲と水田が美しい。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar12mm)

 

運慶の作品がある願成就院。(GR Ⅲx)

 

(仏像には興味があまりなくて……)と言う人こそ見てほしい、運慶の阿彌陀如来坐像。見ればその素晴らしさがわかります。(GR Ⅲx)

 

木漏れ日が美しい守山八幡宮の参道。(GR Ⅲx)

 

伊豆箱根鉄道の三島駅もたいへん味わい深い。(GR Ⅲx)

 

本日のカメラ。リコーGR ⅢxとSIGMA fp,Ultra wide-Heliar12mm。

 

 

  • 江川邸
    静岡県伊豆の国市韮山韮山1番地
    055-940-2200
    時間:9:00~16:30(最終受付 16:15)
    休館日:毎週水曜日
  • http://www.egawatei.com

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