top コラム柊サナカのカメラぶらり散歩第21話 雨の旧田中家住宅

柊サナカのカメラぶらり散歩

第21話 雨の旧田中家住宅

2024/07/17
柊サナカ

雨の日の旧田中家住宅もまた趣深いです。(リコー GR Ⅲx)

 

川口のあたりに、美しい洋館が建っており、車で通りかかるたびに(あの館はなんだろう?)と気になっていました。どうやら、単なるレトロ風の建物ではなくて、歴史の重みを感じる、本物の洋館のようです。看板には「旧田中家住宅」とあり、内部の見学もできるそう(→ https://tanakatei.jp/)。わたくし、カメラを持ってふらりと行ってみることにしましたが……カメラ好きとして、ここはみなさんにぜひともお伝えしなくては! と強く思いましたので、今日は「旧田中家住宅」を紹介します。
 

旧田中家玄関。入場料は大人210円。(GR Ⅲx)


 ――旧田中家住宅は、味噌醸造業で財を成した田中家四代目田中德兵衞が大正時代に建設した歴史的建造物であり、後に増築された和館とともに2018年には国の重要文化財に指定されました。洋・和、様々な意匠を凝らしたこの建造物は煉瓦造り三階建ての建築物として非常に貴重な存在です。―― 
 
とホームページにある通り、旧田中家住宅は国の重要文化財に指定されています。竣工は大正12年(1923年)といいますから、ちょうど建設されてから百年ということです。

 

玄関前の花手水も雨に打たれていました。(GR Ⅲx) 


わたしが出かけたのは、ザアザア降りの大雨の日でした。玄関の水鉢のあじさいにも雨粒が激しく落ちています。大きな木の引き戸を開けると、しんと静まった玄関に入ることができました。もう、この時点で誰もが圧倒されるのではないでしょうか。目の前に広がるのは大正時代のお屋敷そのままの光景です。扉を閉めると、雨の音が遠くなりました。雨の日ということもあり、お客も少なく、わたしはひとりで、(タイムスリップしたみたいだなあ……)と感心しながら、券売機で入場券を買いました。中へは靴を脱いで上がるのも、邸宅におじゃまするようで、雰囲気があります。小さく「おじゃまします」と言いつつ中へ。
 

当時の趣を感じる玄関。スタンプもあります。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm)

 

応接室の玄関にはステンドグラスが。(GR Ⅲx)


わたしは旅館でも何でも、建物の中を探検するのが好きなタイプです。建物は入り組んでいればいるほど面白い。玄関は畳敷きですが、中へ一歩入ると赤い絨毯敷きになりました。しんと静まった洋館+階段+赤い絨毯の組み合わせの素晴らしさと言ったら……! 当時、田中家のみなさんは、調度にしても照明にしても、これほどまでに美にこだわって生活していたのだなあと。
 

応接室の玄関には、いかにも鍵穴らしい鍵穴があります。ミステリー小説を思いますよね。(GR Ⅲx)

 

赤絨毯敷きの階段の美しいこと! 彫刻にもご注目。普通はこういった階段は上がれないことがほとんどですが、旧田中家住宅では実際に階段を上り下りすることができます。(GR Ⅲx)


ちなみに、職員の方にお話を伺うと、個人利用に限ってですが、七五三でお着物を着たお子さんや、振り袖姿の写真を撮ったりするお客さんもいるそう。きっと素敵な一枚になるのではないでしょうか。(ただし、写真を販売する等の商用利用は不可とのこと。賢明なる読者の皆様におかれましては、改めて言うことでもないですが、こういった写真撮影OKの場所でも、場所を占有したり、機材が他のお客さんの邪魔になったりすると、すぐに写真撮影不可となってしまうので、お互い気をつけましょう……)

 

美しい応接室。ドラマを感じます。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm) 

 

窓や電灯の美しさもじっくり見ていただきたい。(GR Ⅲx)


玄関脇は応接室です。お客様を通すための専用の玄関があります。雨の日は照明が暗めで……と係の方はおっしゃっていましたが、この少し暗い感じも雰囲気があって、ステンドグラスも美しく光をたたえています。今日カメラを持ってきて良かったと心から思いました。

 

わたしはこんなに優雅な雨どいを始めて見ました。雨の日に、この雨どいが雨どいとして活躍しているところに居合わせて幸せです。(GR Ⅲx) 

 

二階から庭を望む。ガラスの美しいデザインに感心します。(GR Ⅲx)

 

特にイラストレーター、漫画家、小説家など、大正時代の創作をなさる方は、この旧田中家住宅を絶対に見ておいた方がいいです。ちょっと前に悪い例として有名になったのが、お屋敷、として描写されたものがあまりに貧相だったもの。本物を見る必要があります。実際に見て、中に入ってみないとわからない事ってありますよね? 窓枠から見える外の緑が雨に濡れている様子とか、足の下で少しだけ沈む絨毯の感触とか、天井や照明の高さとか。旧田中家住宅のすごいところは、この歴史的な階段を実際に二階、三階と上り、隅々までお部屋を見物して回ることができるところです。楽しい!

 

三階の応接室。この椅子には手を触れられませんが、近くまで寄って見学することはできます。大正時代の創作をする人はぜひ見てほしい。ピアノもありました。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm)

 

今までは「天井から豪華な灯が下がっていた。」と書いてそのままでしたが、本物を見た後では、自分の中での照明に対する解像度が上がった気がします。(GR Ⅲx)


二階には書斎や、かつての蔵を利用した展示室があり、当時の貴重な資料やパネルなどの展示もあります。廊下の光などの様子もぜひ見ていただきたい。三階の大広間にはピアノがあり、どんな音楽が奏でられていたのだろうと、当時の日常に思いをはせました。窓から見える雨樋さえも美しく……。
 

今度は和館へ降りて庭を見る。見事な日本庭園です。(GR Ⅲx)


すばらしいのは洋館だけでなく、和館もいい。奥まで続くガラス窓の向こうには雨の庭園が広がっており、わたしは和館の座敷に入って、(ヒャアー)と息を呑みましたね。
 

窓越しの庭園が雨に濡れています。(GR Ⅲx)

 

雨の音、広いお座敷、窓越しの庭園の、この眺めを独り占めできるなんて。しばらくひとり、座って景色を楽しみました。たまたま大雨の日でよかったのかもしれません。
 

とても広い和室。息をのみます。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm)

 

しばらくここに佇んで、雨の庭を眺めていました。贅沢な雨の日でした。(SIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm)


館内だけで終わりではなく、日本庭園も見て回ることができます。錦鯉も美しい。旧田中家住宅にはインスタグラムがあり、四季折々の花の見頃をお知らせしてくれるそう(→ https://www.instagram.com/tanakatei_kawaguchi/)。庭園からは離れのお茶室に行くこともできます。

 

旧田中家住宅のありがたいところは、日本庭園に入ってもいいところ。この一枚は庭園から撮りました。(GR Ⅲx) 

 

なお、日本間と茶室は貸室利用もできるとか。ヨガなどのイベントやライブなども開催されるとあって、こんなに伝統ある洋館でイベントができるなんて、なかなかないことなのでは、と思います。
 

池を渡って茶室へも行けます。(GR Ⅲx)

 

人懐っこい鯉たち。(GR Ⅲx)

 

旧田中家住宅見学の際には、お部屋の中にも実際に入ることができますので、靴下をお忘れなく(裸足は不可なので夏場などはご注意ください)。
 
これを最後にお伝えしなければなりません。2024年末で、こちらの旧田中家住宅、改装に入ります。貴重な重要文化財、次に工事が終わるのは数年後になるかもしれないとのこと……! 今のこの状態で見学できるのは、2024年末までです。それまでにぜひ一度、見学をと思います。こんなに素敵な場所が東京近郊にあったなんてと驚きました。もっと早くに知っておけば良かったです。改装に入るまで、わたしも季節ごとにカメラを持って訪れたいと思います。
 

皆様ぜひ、旧田中家住宅へ。
 

どこを歩いても美を感じる旧田中家住宅。(GR Ⅲx)

 

  • 旧田中家住宅
  • 〒332-0006 埼玉県川口市末広1丁目7−2
  • 電話番号:048-202-6179
  • 開館時間:9:30 〜 16:30
  • ※最終入館16:00まで
  • 休館日:毎週月曜日
  • ※月曜日が休日の場合は、その翌平日
  • 入館料:
    一般210円、団体(20名以上)160円、中学生・小学生50円、団体(20名以上)40円
  • https://tanakatei.jp

 

本日のカメラ。GR ⅢxとSIGMA fp,Ultra wide-Heliar 12mm
 

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