荒天時の撮影こそ至福――と思いませんか。
あれはまだ、デジタルカメラのニコンD300を買ったばかりのころ。初めて買った本格的な一眼レフカメラに大喜びし、休みの度に出かけていました。雪とみぞれがちらつく冬の海、海は荒れ、見渡す限り人は一人もいません。雪雲が低く立ちこめる中、日が差してくるまで待って、鼻水を垂らしながら撮影しました。その海の写真は、明暗が本当にドラマチックで、(やはり写真は荒天に限るな)と思ったのでした。
若かったのです。
今や、一回冷えたら余裕で三日くらい冷えています。命は大事にしなければなりません。
冬場の撮影となると、前々から行ってみたいところがありました。夢の島熱帯博物館です。熱帯、なんという素敵な響きでしょう。南国、トロピカルジュース、椰子の実にストロー、咲き誇る花たち……。
わたしは父似なのですが、父は東南アジアでは、現地の人に間違えられまくるくらいの南方系の顔立ちで、夏の海と泳ぎが好きという、まるっきり南の男です。その南の血を引いた私も、南の遺伝子を濃く継いでいるのか、何かに呼ばれるように夢の島熱帯博物館へ。この温室育ち作家め、と言われても気にしません。冬は暖かいほうがいいに決まってます。
東京都の屈指の温室、夢の島熱帯植物館には、かねてからカメラを持って撮りに行きたいと思っていました。嬉しいことに、写真撮影も可能です。レフ板の禁止等の規定がありますので、詳しくは撮影規定のページをご覧下さい。→https://www.yumenoshima.jp/botanicalhall
着込んだ上着やマフラーを全部外してロッカーにしまい、身軽になって温室の自動ドアの前に立つと、ドアが開いていき、ふわっと南国の気配を感じます。外はこんなに寒いのに、中はまさに南国です。
わたしは植物も好きで、植物園や温室にもよく出かけて行きますが、この夢の島熱帯博物館の規模には驚きました。温室は見上げるようなA・B・Cの大型ドーム。二階もあります。
巨大なドームの中は熱帯の森が広がります。
巨大なドームに青空が美しく。
入るとちょうど、ツバキの”キンカチャ”が咲いていました。ツバキといえば赤系の花が多いところ、この中国広東省(ベトナムも)原産の、黄色のツバキは珍しいのだそう。中央には巨大な池があり、せせらぎの音も聞こえます。この夢の島熱帯博物館は、1988年に開設されたとあって、歴史ある温室です。植栽された植物も、長い年月のうちになじんでおり、小道を歩いて行くうちに、たった一人でカメラを持ち、南国のジャングルに来た気分になりました。非日常!
珍しい黄色い椿、キンカチャ。
美しい滝と池の様子。極楽のよう。
わたしがなぜ温室が好きなのかというと、ガラスを通した光がやわらかくまわり、花や葉の形や質感も、際だって見えるような気がするからです。ガラスがふんだんに使われた、温室自体の設計も趣深いと思います。半円形のドームに、SF映画のコロニーを想像してみたり。
わたしは平日の午前中にカメラを持って歩くことが多く、だいたいの植物園は、平日午前中の時間帯には空いており、撮影に集中できます。この日も夢の島熱帯博物館では、他のお客さんには数名しか会わず、みなさん大きなミラーレスカメラや、一眼レフを首から提げておいででした。小笠原諸島原産のタコノキなど、見慣れない植物もあって、都内に居ながらにして旅情を味わえます。
夢の島熱帯博物館には池や滝などもあり、池に映る影を狙ったり、滝の水流をシャッタースピードを変えて撮ったりと、カメラ片手に飽きることがありません。ドームに映る、冬のカキンと澄んだ青空と、熱帯の植物のコントラストも美しく。
コースには滝の裏を通る道もあり、探険気分で、お子さん連れでも楽しめそうです。
滝の裏側からの景色。探検気分です。
小道の先にはなにがあるでしょうか。
食虫植物コーナーも充実していて、ネペンテス(うつぼかずら)の巨大なものや、色が珍しいものなど、見所はたくさんあります。
喫茶室は温室に面しており、ガラス越しに見事な景色を見ながら軽食をとることができるのもいい。平日は休みなので、常連らしき人は、カメラを傍らに置いて、持ち込んだお弁当やパンなどを悠々と召し上がっておいででした。
都の施設とあって、入館料が個人一般で250円(65歳以上120円)というのもうれしいところ。展示のテーマは細かく変わるようですし、イベントも盛んです。わたしもまたカメラを持って出かけていこうと思います。
実験室のような趣がある二階温室。ネペンテスがたくさんありました。
食堂の窓からの景色。こんなに美しい眺めの食堂はほかにはありません。
この夢の島熱帯博物館がある夢の島公園というと、もともとは高度経済成長期の人口増加に伴う、ゴミの埋め立て処分場として作られたそう。わたしが生まれる前のことですので、夢の島のゴミ問題は直接目にすることはありませんでしたが、もしかして年上の読者の皆様の中には、1960年当時のことを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。
今ではこれほどまでに綺麗で、緑豊かな夢の島です。かつての姿は資料の中でしか見られませんが、その変わりように目を見張る思いです。
夢の島公園には、熱帯博物館だけでなく、第五福竜丸展示館や、東京夢の島マリーナもあるので、カメラを持っていけば、いろいろ楽しめるかと思います。ぜひ。
■夢の島熱帯博物館
住所:〒136-0081 江東区夢の島2-1-2
TEL: 03-3522-0281
https://www.yumenoshima.jp/botanicalhall
コエビソウが満開でした。
熱帯の背の高い植物を見上げると、ジャングルを歩いているようです。
サラセニアの美。
「谷中レトロカメラ店の謎日和」にも出てきたことがある花です。巨大でした。
※すべてリコー GRⅢxで撮影
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