top コラム柊サナカのカメラぶらり散歩第7話 暗室日和(押上 アウラ舎)

柊サナカのカメラぶらり散歩

第7話 暗室日和(押上 アウラ舎)

2023/05/16
柊サナカ

先日、PCTの、雑誌『写真』編集長・村上仁一さんと、わたくし柊サナカでトークショーをやらせていただいて、カメラのこと、小説のこと、写真のことなどいろいろお話ししました。
来ていた方で、写真をまったくご存じなかった人から、「暗室って本当に面白そう」と言われ、こんどぜひ一緒に、ということになりました。

 

暗室に入る、というときに、何となく赤い光の中でゆらゆらとやる、ということはテレビ等でご存じでも、何をしているかまではご存じない方も多いですね。とくにデジタル世代の方となれば、そうではないでしょうか。
今日は、いつもお世話になっている押上のアウラ舎で、わたしが何をやっているかという流れをざっくり、お話しします。
(※もちろん、本格的なところは、いろいろな貸し暗室で行われている、ワークショップを受けることをおすすめします。楽しいですよ)

 

1)まずフィルムの選定から。ライトボックスの上で、現像済みのモノクロフィルムを、ルーペで見て、引き伸ばすものを決めます。いいなあと思っていても、拡大してよくみたらピンボケだったりして諦めることも。これぞ、という一枚を選定します。

 

ネガをライトボックスで選んでいます。

 

2)それを、引き伸ばし機にセットします。この機材は、暗室によって違います。アウラ舎の場合は、多くの写真家が愛してやまない、ライツ社のフォコマートというもので、ピントがしっかり合って使いやすくて好きです。本日はフォコマートのⅡc、フォコマートの1cを使用します。わたしも欲しいですが、この通り、かなりの大きさがあるので、アウラ舎で感謝しつつお借りしています。歴史の重みを感じます。

 

フォコマート。

 

ネガキャリアに、フィルムをはさむようセットしました。この日、わたしは4×4と、特殊なサイズのフィルムを持って行ったのですが、アウラ舎さんにはぴったりのものがあり、とても助かりました。

 

3)フィルターを選びます。コントラストが、0がソフト、5がハード、といった感じです。コントラストに関しては、スマホでもみなさん写真の編集をなさると思うので、個人の好みがあろうと思います。わたしは工場とかの重機などの無機質な写真が好きなので、4とかの、カリカリとしたかためが好きですね。とはいえ、写真の雰囲気によって変えます。

 

フィルター選び。今日は本当にカリカリにしたかったので5です。0になると薄くなります。

 

フィルターを引き伸ばし機にセットしているところ。

 

4)写真の大きさと位置を決めます。スマホの写真の”編集”のところに、大きさを変えるための、「 と 」が重なったような、クロップという記号があると思います。それと同じ事を暗室でもやります。イーゼルで、引き伸ばす大きさを決めるのです。

 

印画紙をはさむイーゼル。

 

5)光を当てて、ピントを調整。専用のルーペで、ちゃんとピントが合っているか調整します。フォコマートの好きなところは、一度ピントを合わせると、大きさを変えてもピントが合ったままのところです。

 

ピント合わせをしているところ。

 

6)テストをして、何秒、光を当てるか決めます。厚紙で印画紙の上を覆い、まず一秒。それをずらし、また一秒、それをずらし、また一秒とやっていけば、一秒ごとに光の当たり具合が違います。それを見て、何秒にしようと決めるわけです。一秒でも濃さが違い、仕上がりはまったく違うものになるので面白いです。
ベテランの方は、ネガを見れば、大体秒数がわかるそうで、テスト用紙も小さく、四角く切って、自分の見当を確かめるというやり方だそうです。わたしはいまだに秒数の勘がつかめず、細長く切った印画紙で確かめるというやり方をとっています。
個人の暗室と、大人数の暗室があり、どちらにも良さがありますが、大人数だと、他の方のやり方を知ることができるのが面白いです。

 

印画紙を細長く切って、テストをしています。薄い所から1秒、2秒、3秒……今日は4秒で。

 

7)印画紙をセット。ここからは、光があると感光してしまうので、本当は赤い光の中でやっていると思ってください。さっき何秒光を当てるかを決めたたので、まずは一枚引き伸ばしてみます。

 

印画紙です。アドックスのイージープリント。光沢のある仕上がりになります。

 

8)光を当てた印画紙を、まず現像液に1分30秒、次に停止液に30秒、最後に定着液に一分入れて、洗浄バットに入れます。現像液の中で、じんわりと像がうきあがってきたりして楽しいです。

 

左から現像液、停止液、定着液です。一番右は水です。

 

9)テストでのできあがりを見てみると、このあたりはもうちょっと暗い方がかっこいいな、この真っ黒いところは薄くなった方がいいだろうなといろいろ考えます。そこで、薄くしたいところには、光をちょっとさえぎったりします。このやり方に職人技があり、うまい方はものすごくうまく、同じネガでもまったく違うようにできたりという、アナログならではの楽しさがあります。

 

とりあえず一枚焼きました。でもなんだか薄いような……?

 

ちょっと濃くしてみます。全然違いますよね。

 

いちど、プリンター(写真家のネガをプリントするのが職業の方)の有名な方にお会いすることができ、アドバイスをいただいたり、プロラボの名プリンターの方に話を伺ったりしましたが、やはりプロはすごい。一朝一夕には身につかない技だと思います。この、技術の奥深さが暗室の楽しみじゃないでしょうか。

 

濃すぎるところはこれで光を遮って薄くします。

 

いろいろ焼きました。たのしい。

 

11)できあがったら乾燥します。アウラ舎には乾燥の機械も揃っていて快適です。

 

最後に乾燥して引き伸ばしは終了。

 

12)できあがり。この写真を部屋に飾ったり、写真展に出展したり。楽しみはつきません。

 

できあがり。自分でプリントするのは本当に楽しいです。 

 

ざっと流れだけ書き出してみましたが、細かいコツなどはワークショップで楽しく学べますのでぜひ。暗室、面白いですよ。

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