top コラム柊サナカのカメラぶらり散歩第14話 URくらしとまちのミュージアム(赤羽)

柊サナカのカメラぶらり散歩

第14話 URくらしとまちのミュージアム(赤羽)

2023/12/19
柊サナカ

みなさんは昔の建物、好きですか。わたしも好きです。昭和の風情がある、味のある感じの集合住宅などを見ると、ああ撮りたいなあと思います。風に翻る洗濯物、使い古された郵便受け、遊ぶ子供達なんかもいいですよね。でも最近のご時世、人が実際に住んでいるところへは、なかなかカメラは向けにくくないですか? 
 

そんな中、集合住宅の写真を撮れるところがあると知り、リコーGR ⅢxとライカM4を下げて行ってまいりました。赤羽駅から徒歩5分の「URくらしとまちのミュージアム」。

 

わたしが行ったのが平日の、開始時間にはまだ早い時間だったからか、そびえ立つ集合住宅群には人の気配がまったくありませんでした。良く晴れた中、響くのは自分の足音くらいで、芝刈りロボットだけが黙々と動いている様子は、何かSF映画で人類が消滅した都市のようでちょっと緊張しました。

 

URくらしとまちのミュージアムでは、ツアーに参加することで、集合住宅の見学ができます。ツアーの人数は20人で、時間は大体90分ほど。最初に説明を受けて、靴にビニールのカバーを掛けます。

 

展示されているのは人が住んでいない住宅です。上から見たらYのようになっているスターハウスが美しいですね。

 

ベンチなども貴重な、彫刻家の流政之氏デザインのもの。座れます。

 

貴重な展示物を汚さないように、ビニールが配られます。

 

まず最初に、映像を見るURシアターに案内されました。七分間は長いかな、と思いきや、なぜ集合住宅が作られるようになったか、UR都市機構のなりたちや、まちづくりの凝った映像が、部屋の壁全体(床も)の大画面に映し出され、空を飛んでいるような感覚が味わえます。三半規管が弱い人は後ろへ、というアナウンスがあったほどです。

 

エレベーターで四階まで上がって、案内されたのが同潤会代官山アパートです。1923年の関東大震災後、住宅復興のために設立されたという、初期の鉄筋コンクリート作りの集合住宅で、移設された単身住戸、世帯住戸の見学ができます。

 

ごらんください、同潤会アパート、このエントランスの美しさを。わたしはなんとなく、時代も時代だし、住宅復興のために建てたのだったら、簡単に建てただろう、内装にはそれほどこだわっていないだろうという先入観がありました。実際に見てみると、中の壁すらも美しく面取りをしてあるのです。作り付けのベッドまであったとは。

 

同潤会代官山アパートのエントランス、美しい意匠。下のところが開いて受付できるようになっています。こんなにも凝ったデザインのマンションは今では珍しいのでは。

 

畳敷きですが、鉄筋コンクリートは通気性の問題から本物の畳だと痛むので、コルクの上に畳ござをひいて畳敷きとするなど、さまざまな暮らしの工夫がありました。こちら、実際にアパートとして使っていたものを移設したそうで、レプリカではないため、住んでいた人の生活の気配を感じることができるのもいいです。

 

実際にはどんな人が同潤会アパートに住んでいたかなどの、ガイドの方の説明も面白く、コンセントが少ない中、どう工夫して暮らしていたかなどの話も興味深かったです。

 

同潤会代官山アパート内部。壁面などもデザインされているのがおわかりでしょうか。

 

台所の様子。和と洋が混在していますね。 

 

気合いの入ったカメラ(キヤノンのフラッグシップ機)を下げている方が他にもいて、(わかる、これは写真撮りたいですよね……)と思いました。ただ、見学者が20人ほどいるのと、自由時間が限られているので、人の入っていない部屋の写真を撮るのは思いのほか難しいです。写真を撮りたい場合、まずは、自由時間になったら、人の流れと逆に動くのがいいかと思います。人が中を見学し始めたら、窓を外から撮る、人が外に出始めたら中に入って撮る、最後に移動するというふうにすると、多少は撮りやすいかと。

 

次に一階降りて蓮根団地へ。今では普通に使われている2DKという言葉、日本住宅公団由来だったのですね。ちゃぶ台からダイニングでのテーブルの生活を推進していたため、あらかじめテーブルが据え付けられているそう。

 

蓮根団地の部屋の様子。懐かしい雰囲気がします。

 

当時のインテリアも一緒に展示されています。昔のテレビ、足がついていましたね。

 

蓮根団地のテーブル。洋風に近づいてきています。

 

晴海高層アパートもいい。10階建てで、エレベーターが3階・6階・9階にしか止まらなかった時代があったなんて。エレベーターも当時のものをそのまま移設したようで、よくみたら昔の子供の落書きがそのまま残っています。

 

晴海高層アパートの案内図。当時のそのままのものです。

 

晴海高層アパートのエレベーター。落書きがそのまま残っていますね。

 

このように、住宅の構造をわかりやすく示してくれるのもいいですね。内側は木製、外側は金属のサッシです。

 

晴海高層アパートの部屋。和と洋の割合が、だんだん洋に傾いてきているのがわかります。

 

また一階降りて、今度は多摩平団地テラスハウスへ。専用庭のある長屋建てです。どんどん時代が移り変わって、より暮らしのニーズに合うように、いろんなところが改良されていくのがわかります。

 

多摩平団地テラスハウスへ。ずいぶんモダンになりました。

 

こちらのURくらしとまちのミュージアム、映像作品とパネルには著作権があるので写真撮影はできませんが、その他の写真撮影、動画撮影は自由です(※SNSなどの発表は、他の参加者の映り込みに気をつけることが条件でした)。
 

写真を撮る人はもちろん、昭和当時を題材に創作するクリエイター系の人たちにも強くおすすめできます。実際に建物の中に入ってみて、天井を見上げたり、窓枠に手をかけて、外を眺めたりしないとわからない肌感覚というものがあるものです。トイレの狭さや暗さなんかも、実際に行ってみてはじめて、(そうだったのか……)と思ったり、気づきがたくさんありました。

 

同時に、日本が本当に大変だったであろう時期に、レリーフやデザイン一つにしても、これほど美と住み心地にこだわったアパートが作られたのだなと。物はなくとも、未来への希望に満ちあふれていたころの日本の、心の余裕を目の当たりにするようで、うらやましさを覚えました。

 

なんと、このURくらしとまちのミュージアムは無料。無料でこんなに面白くてためになっていいの? というくらい楽しかったので、みなさんもぜひ。四階から一階までけっこう歩く(帰って歩数計をチェックしてみたところ4.1キロ)ので、歩きやすい靴をお忘れなく。

 

実際に使われていたものを、壁面から外して展示しています。デザインが古風で素敵です。

(すべてリコーGR Ⅲxで撮影。)

 

  • URまちとくらしのミュージアム
  • 〒115-0053
    東京都北区赤羽台1丁目4−50
  • 電 話:03-3905-7550
    (休館日を除く10:00~17:00)
  • 開館時間:10:00~17:00
    見学方法:事前予約制のツアー見学のみとなります。
    10:00~/13:00~/15:00~(各回90分程度)
    定員:各回20名
    休館日:水曜日・日曜日・祝日(年末年始・臨時休館あり)
  • https://akabanemuseum.ur-net.go.jp/

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