書き出しのタイトルから迷うなんて、今までに無かったことです。
今書くとしたら、キエフ4aなのか、キーウ4aなのかで迷いますね。カメラの固有名詞として、キエフとそのまま書くべきか、キーウと書くべきか……。
では今から、KIEV 4aと書きますので、どちら読みでも、読者のお考えに沿って読んでいただきたいです。
わたしのKIEV 4aは、どこで買ったかというと、2nd BASE by 三宝カメラさんで買ったものです。こちらの2nd BASE by 三宝カメラさん、若者向けのおしゃれカメラ店かと思いきや、あまり見たことのないようなカメラもたまに見かけたりして、面白いのでたまにのぞきに行きます。
このKIEV 4a、異彩を放っていました。塗装がちょっと変わっていて全部黒塗り、ちりめんの黒革も貼られていて、ちょっとした存在感があったのです。仲良しの知人はKIEV 4aとセットになっていたレンズ、ジュピター8Mのナンバーが気になり、レンズだけ欲しいと言う。わたしはボディのほうだけ欲しかったので、購入後、円満に分けっこしました。
知人によると、このKIEV 4a、もしかしたら中身はコンタックスで、それを上からKIEV 4aに表示だけ変えたもの、という可能性もなきにしもあらず――ということで、外側にある銘板を外してもらいました。せーので銘板をひっくりかえした結果、正真正銘のKIEV 4a。まあ、ロシアカメラやレンズ好きのわたしには、このKIEV 4aはぴったりだなということで、喜んで使っていました。
作りはさすがにライカ等と同じとはいかず、ギシギシしたり、たまにフィルムをガッキと噛んでしまったり、光漏れしたり、ちょうど右手で持つ、まさにその指のところにわざわざ距離計窓があって、指で隠れて距離が合わせられなかったりと、操作のクセに慣れるまで少しかかりました。
それでもKIEV 4a、使ってみると、とても愛着の湧くカメラでした。商店街のシャッターのように開く鎧戸シャッターも、ジャッとか、チュイーンという独特の動物的な音がして可愛い。なんだい、鳴いているのかい? と、ほのぼのします。
ジュピター8Mの写りも、油彩の絵のようにこっくりとした色彩で写り、とても好きでした。
途中から譲っていただいたジュピター12に付け替えたりしながら、楽しんで使っていました。このジュピター12は後玉がキワキワまでせり出ていて、取り回しに緊張します。
レンズ、Jupiter12。後玉がせり出ています。
このKIEV 4aには、あるエピソードがあります。わたしのSNSで、何気なくこのKIEV 4aのことを書いたときのことです。その投稿に、外国語のコメントが付きました。わたしは基本、外国語のコメントは疑ってかかることにしています。
外国の美女のコメントに返信して、大変な目にあった人も実際知っているので、外国からの怪しげなコメントやDMには特に用心しています。なぜ日本に住むわたしのところへ、石油王的な人がわざわざDMするのか。油田をくれるというなら喜んで二、三、いただいてもよろしいですが、そういう話は疑ってかかった方がいいですよね?
その外国語のコメントはロシアからで、「そのカメラはわたしが手を入れたものだよ」という意味の言葉が英語で書いてありました。
またまた。嘘だろう? と思っていましたが、どうやらわたしのKIEV 4aは、本当にそのロシアのカメラ職人の方の改造した、KIEV 4aそのもののようでした。改造していた当時の写真も見せてもらいました。彼は、他にも同じようなカメラをいくつも改造なさっていたのです。
SNSってすごいですね……。彼も投稿を見て、(あっこれ、見おぼえのあるカメラだな。自分が手がけたものだ。今は日本にあるのか)と思ったのに違いありません。偶然にしてもすごい偶然です。
ロシアからそのカメラがどうやって海を渡り日本へ、10年以上かけてはるばる2nd BASE by 三宝カメラの棚まで。そしてわたしが「欲しいな」と思うまで、カメラはロシアからはるばる、どういう旅をしてきたのか。実際のところを辿ることはできませんが、想像をめぐらせると面白いなと思います。
特徴的な鎧戸シャッター。
これだけ世の中にカメラがある中で、なぜロシア人のカメラ職人の方が、すぐ自分の手がけたカメラだとわかったのには理由があります。彼の手がけたものは、外観の加工に特徴があるのです。(慣れれば、これはあの人の加工だ、とわかるくらいの個性があります)
その彼の手がけたカメラを追う、熱心な日本の愛好家もいて、その方が仲介役として日本でも頒布(あくまで協力、販売とは違った形態)なさったりと、日本とロシアをつなぐカメラのよいご縁は続いていました。(その後、スメナ8Mなども送ってくださいました。ありがたいことです)
それがここにきて、こういうことになろうとは――。まあ、政治的なことはできるだけ、SNS等や記事で触れないようにしていますので、これ以上は書きません。
現在2022年5月、カメラを改造していた職人の彼もそうですし、ロシアのカメラ好きな人たちも、きっとわたしたちと同じようにカメラが好きで、(やっぱりシャッターの音いいなあ)などと思いつつ暮らしていたことでしょう。ウクライナでも同じように、次の休みはどこに撮りに行こうかな、と思っていた人もたくさんいたに違いありません。悲しいことです。
ウクライナのキエフにあるカメラ店、ARAX(araxfoto.com)は、戦火の中でも、世界中のカメラ好きのためにお知らせを出していました。フェイスブックのアカウントをお持ちの方は、ぜひチェックしてみてください。→ Fasebook.com/araxfoto/
5月16日から約一ヶ月、店を閉めるとありましたが、閉店の二日前にも、世界のカメラを愛する皆さん、今ある在庫カメラを発送できますよ! と気丈にもお知らせしていました。状況が落ち着いたら、ARAXからまとめて何か購入したいと思っています。みなさんもいかがですか。ホームページはこちら→https://araxfoto.com/
どうかまた、世界中のカメラ好きが趣味でカメラを手にできるような、平穏な日々が戻りますように。
いちょうの葉。(KIEV 4a、Jupiter12、f2.8、1/100、フジC200)
ランチ。(KIEV 4a、Jupiter8M、F4、1/60、フジC200)
壁のタイル。(KIEV 4a、Jupiter8M、f4、1/60、フジC200)
ウクライナのフィルム、アストラムのフィルムとともに。
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