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本日のマイカメラ

第17話 HOLGA(ホルガ)120S

2023/02/14
柊サナカ

みなさんは、安くて良いフィルムカメラがないか聞かれること、ありませんか。そんなとき、みなさんはどう答えていらっしゃるのでしょう。わたしは、聞かれたら陰気に押し黙り、しばらく、うーん……。と地面を眺めたりしています。まず、「安い」の定義からはじめなければなりません。安いと言ってもどの程度の安さなのか。読者の皆様の中には、もう金銭感覚が完全にお亡くなりになっている方も多いので、えっホロゴン二百万? 安い! なんていう方も多いかと思います。


「お試しなので、一万円以下でいいカメラを」と言われたら、ますます困ってしまいますよね。とりあえず、レンズ付きフィルムを薦めてみると、それはもう撮ったことがあるという。難問です。

 

そんなとき、頭をよぎるのは、あのカメラのことです。


フリマサイトでは中古品が1,200円くらいで取引されていて、新品でも5,000円台、有名写真家にもたびたび使われ、あのマイケル・ケンナも、そのカメラの名前を冠する写真集を出しているというカメラ――


ホルガ。


でもこのホルガ、中判カメラです。フィルムがブローニーフィルム。巻物のようになっているフィルムで、6×6の正方形写真なら、たったの12枚しか撮れません。なので、おしゃれだなあと思って買ったらしき、フィルムカメラのライトユーザーが完全に持て余し、フリマサイトに大量に中古が並ぶことになっているのでしょう。


わたしはこのホルガが好きで、ホルガ120Sは二台、ホルガ120ワイドピンホール、ホルガのポラロイドパックである、ポラホルガも持っています。

 

でも正直、フィルムカメラがはじめてという方には、すすめにくいカメラではあります。わたしのホルガは、撮影中、弁当の蓋が開くみたいに、パカッ! と豪快に開いたことがあるので、髪の毛をしばるゴムでぐるぐる巻きにしてあります。後ろの、フィルム残数を見るための赤窓、そこから感光してしまうので、パーマセルテープで遮光してあります。正直、トイカメラのなかでも、プラスチックの質感が限りなく軽く、作りのチャチさでは群を抜いています。愛用している本人ですら、(なんか、わたしのホルガ、ボロボロだなあ……)と思いながら撮影しています。

 

レンズはプラスチックレンズ、距離は山マークなどの絵で合わせて、絞りは晴れとそれ以外のざっくりとした二択があります。シャッター速度などは概念すらありません。ただ、構図を決めてシャッターを押すだけの簡単なカメラ。

 

裏面です。遮光してあります。

 

内部もいさぎよいほどにシンプルな作りです。

 

絞りと距離。絵がかわいい。


光漏れもするし、周辺光量はびっくりするくらい落ちます。撮り終わったあとのフィルムの巻きが甘かったりするので、謎の光の帯が出来たりも。


それでも。わたしはこのホルガのことを手放したりはしないのです。旅行にどのカメラを持っていくか決めるときに、迷いに迷って、最後に(そうだ、ホルガも入れておこう)という感じで、旅行や帰省の度に持っていったりしています。

 

なんでこんなにボロボロのホルガを持っていくのか、と言う理由なのですが。


まず軽い。スマホより余裕で軽いです。全部プラスチックですから。一台増えたところで支障ありません。軽いカメラは正義です。


繊細な蛇腹のカメラなどは、持っていく場所にも気を遣ったりしますが、作りが単純なので、海辺などにも気軽に持ち出せます。


そしてなにより、一番の理由が、写りが予想外なこと。十枚に一枚くらい、すごい写りをすることがあります。


普通に綺麗に写るカメラも、もちろんいいものですが、どんな写りをするかわからないカメラもまた、良いものですよね? 若い人の間で、わざとフィルムカメラの裏蓋を一瞬開けて、その光漏れをエモいとする動きがあるようですが、(エモ……?)と思いつつも、気持ちはわかるような気がします。スマホのカメラはとても高性能で、暗いところから明るいところまで、写りすぎるくらいにくっきり写ります。それが当たり前になってきている今、不確定さがあるカメラは楽しい。しかも、機材のそれぞれの個体差もすごいので、どこかにストラディバリウスみたいな名機のホルガもあるのではないかと想像しているのです。


落ちた周辺光量は、どんな加工フィルターよりも面白いし、単焦点プラスチックレンズのピント範囲のせいか、被写体より離れて写すと、ちょっとしたミニチュア感も出ます。


ピント合わせもゆるいので、適当に写すと全部が夢の中のようにピンボケとなり、まあ、それでも、これはアートだと言い張ればいいかなというような質感に写ります。


ブローニーフィルムも高くなった今、几帳面な人なら許せないカメラだと思いますが、賭けみたいな感じで、サブ機として持っていくと思わぬ描写が楽しめます。普段の景色を非日常にしてみませんか。

 

 

ホルガで撮った写真です。巻きが甘くて光が入りました。

 

ホルガで撮った写真。念写のような謎の光。

 

ミニチュア感が出たこいのぼり。(HOLGA120S,KODAK portra160)

 

冬の木。(HOLGA120S,KODAK portra160)

 

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