愛用するべセラー・トプコン・スーパーD。カクカクした直線的なカメラ。
トプコンが好きです。
あなたの風邪はどこから。みたいな言い方をしてすみませんが、わたしのトプコンはレンズからです。
あれは忘れもしない三葉堂写真機店で、「このレンズすごいんですよ」とおすすめされた、M42マウント改造済みの、REオートトプコール58ミリf1.4。
わたしはそのときちょうど、アサヒペンタックスSPを提げていたので、そのレンズを借りて、ちょっと試し撮りをさせてもらいました。店頭のいろいろを撮り、さっそく現像してみると。
(わっ、これ絶対欲しいな……)というような写りでありました。さすがおすすめされることはあります。
それでも、まだ大丈夫だろう、そうすぐには売れないだろうと悠長に構えていて、お金を作り、さあ買いに行くかと思って再び行ったら、もうそのレンズは売り切れて、影も形もなくなっておりました。
それもそのはず、REオートトプコール58ミリf1.4は、名作の誉れ高い名玉。それを汎用性の高いM42マウントに改造してある。そんなものを見たら、息もしないで、その場ですぐに財布を出して買わなければならなかったのです。
実らなかった恋ほど思い出に残る――みたいに、買えなかったレンズほど切なく記憶に残ります。
とうとう念願叶って、レンズの方、REオートトプコール58ミリf1.4を先に手に入れました。それを、アダプターを介して他のカメラで使おうと思っていたところ、「レンズは、当時使われていたカメラと一緒に使ってこそ、その真価を発揮するのでは?」と、ある人から言われ、(それもそうだな)と深く納得したのでした。もちろん、アダプターをかませて、デジカメで使っても面白いレンズだと思いますが、その前に、カメラ本体の方も、トプコンを使ってみたいなと。
正直、わたしは軽くて小さなカメラに興味が移っていたこともあり、それまでまったくトプコンに対しては興味がなく、何かカクカクした、超合金ロボットめいた形のカメラだな、としか認識がありませんでした。
「今、ベセラー・トプコン・スーパーDのいいのが出てるから、オークションサイト見てみる?」と言われたその場で入札し、闘いの後に競り落としたのが今の愛機です。
純正フードとキャップを付けたところ。
背面から。とても見やすいファインダー。
ベセラーとは? というと、機能は変わりませんが、輸出用モデルとして、トプコンにベセラーの名を冠したということです。(個人的に、ハネウェルペンタックスとかの、輸出用モデルがなんだか好きです、ちょっと一味違ってかっこいいですよね)
最初見たときは、本当にカクカクだなあ……と思い、レンズ使いたさに前のめりで買ったけど、使いこなせるのか、と心配になるくらいの、無骨で堅牢なボディ。曲線を取り入れて、手に馴染ませようとか、1ミリもないところが逆に潔い。
それでもこのカメラを使えば使うほど、使う人のためを思って凝らされた工夫のほどが見えてきます。顔とかも岩のようで、筋肉隆々の厳つい人が、実は可愛いお菓子作りが得意だった、みたいなギャップに、すっかりやられましたね……。
ファインダーの露出計表示が独特です。このT字が真ん中に来るとヨシ、という親切設計。これはこち亀で知られる秋本治先生のカメラ漫画、「ファインダー ―京都女学院物語―」でも記述があり、深く頷いたところです。
まず、わたしがしくじりがちなフィルム装填。見てくださいこのピン。このピンがひとつあるだけで、フィルムの穴にがっちり噛み、「巻いた気になっているけど実はひとつも巻けていなかった」という、ありがちな失敗をすることがありません。小さいですが助かる工夫です。
裏蓋を開けました。巻き取り部分のピンにもご注目。(赤枠)
そして、このOPENのボタン。わたしが今まで使ったカメラで、こんな風に、裏蓋を開けるタイプのボタンを観たことがありません。最初、OPENって書いてあるけれど、これどうすれば? と迷いに迷って、普通にウンウン言いながら押していっこうに開かず、先人のブログを探したりして大騒ぎでしたが、これ、この矢印の方向(斜め)に軽く指先を回すように押し込めば、すぐ開くようになっているのです。初見殺し。癖がありますが、間違って不用意に触ってしまい、裏蓋がパカッと開いてしまった、などという悲しい事故を防げます。
底面。Openの文字がありますが、この向きに回すようにして開けます。慣れればとても開けやすい。
あと特徴的なのがシャッターボタン。多くのカメラは、シャッターボタンが上にありますが、トプコンには前面に付いています。これだけはいまだに慣れず、不用意に側面を掴んでしまっては、シャッターを間違って切っています。というわけで、36枚撮りのうち、ただの真っ黒なコマがいくつかあります……。
ななめ上から。レンズの脇にあるものがシャッターボタンです。
いや、トプコンだけ巻き上げしないでおけばいいのですが、癖で、つい一枚撮り終わったら巻いてしまうのです。ほら、猫とかが急に現れたらサッと撮りたいじゃないですか。
わたしは、このベセラー・トプコン・スーパーDがたいそう気に入り、気に入ったカメラにはつける、ウエストレベルファインダーまで譲っていただいて、愛用するようになりました。
ウエストレベルファインダーをつけたところ。
ウエストレベルファインダーの眺め。
先日、日本カメラ博物館の、「特別展 暗い箱からデジタルまで 一眼レフカメラ展」(https://www.jcii-cameramuseum.jp/museum/2022/12/14/32659/)にも行ってきましたが、多少大きくて重くとも、音もファインダーの眺めも、やはり一眼レフっていいなあと思います。日本カメラ博物館から帰ったら、すぐにベセラー・トプコン・スーパーDを取り出して、フィルムを入れました。
あまりに好きになったので、トプコン生誕の地、板橋にも行ってきたくらいです。その様子は来週のコラム「カメラぶらり散歩」でお知らせします。
癖はあるけどいい人。仲良くするうちに有能さが見えてくるみたいな、ベセラー・トプコン・スーパーDみたいな人を目指したいものです。この文章を書いているうちに、また撮影したくなったので、フィルム入れてどこかへ出かけてきます。
こちらはべセラー・トプコン・スーパーDの写真。いずれも来週紹介する、トプコン生誕の地板橋の、板橋区郷土資料館での写真です。
藁の束。(Beseler TOPCON SUPER D, Re Auto-Topcor F1.4 58mm, Kodak gold 200, f2.8, 1/250)
光の縁側(Beseler TOPCON SUPER D, Re Auto Topcor F1.4 58mm, Kodak gold 200, f2.8, 1/250)
台所(Beseler TOPCON SUPER D, Re Auto Topcor F1.4 58mm, Kodak gold 200, f2.8, 1/250)
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