top コラム本日のマイカメラ第3話 ASAHI PENTAX SP

本日のマイカメラ

第3話 ASAHI PENTAX SP

2022/01/18
柊サナカ

アサヒペンタックスSP。このカメラからわたしのカメラ趣味に加速がつきました。

 

わたしのカメラの買い方には流儀があって、長らく、カメラは部門別に買おうと決めていました。レンジファインダー部門に一台のみ、一眼レフ部門に一台、コンパクトカメラ部門に一台というように。これはカメラの増えすぎを防ぐための主婦の知恵であり、家族に何か言われようとも、「一見多そうに見えるけど、部門別に一台だから」と、それ以上の小言を防ぐ効果があります。

その一眼レフ部門の一台は、ニコンF3と前から決めており、マウントも増やさずFマウントのみと、自らの決めたルールを厳格に守っていました。F3の性能はご存じの通りすばらしく、レンズも主となるニッコール50ミリF1.4と、あと数本で満足でしたし、一眼レフ部門の一台にふさわしいと思っていました。人間、足るを知らなければなりません。

 

ところがあるときに、「M42マウント」のことを教えてもらいました。ご存じない方にマウントとは何かと簡単に説明すると、レンズを交換できるカメラにはレンズマウントという規格があり、その規格が合っていればレンズが合うという仕組みです。(別マウントのレンズを使いたいときには、マウントアダプターという輪っかみたいな部品を噛ませると、別マウントのレンズでも使えるようになります。カメラ好きの家にはこの謎の輪っかがたくさんあります)

 

ニコンFマウント一筋だったわたくし、(そんなことを言っても、うちにはもうFマウントがあるのだから、これで充分ですよ)などと思って、最初は「へえ」と聞いていたのですが、それでも知人は「M42マウント、楽しいですよ。一台くらい使ってみれば良いじゃないですか」と、誘ってきます。
それはまるで、エデンの園で蛇が知識の実を「この木の実、美味しいですよ。一口くらいかじってみたら良いじゃないですか」というような調子でございました。そうして誘われるがままに、ふらふらとカメラ店へと……。
そこにあったのが、アサヒペンタックスSPです。

 

アサヒペンタックスSPは、60年代に一世を風靡した一眼レフで、ものすごい台数が売れたようですね。なので中古カメラ店にも在庫がけっこうありまして、わたしは五台のうちから、じっくりと考えて、整備済みでブラックの、比較的綺麗なものを、お財布と相談して買いました。レンズはタクマーの50ミリがついていました。カメラの中ではスタンダードなものであるらしく、「買いました」と言うと、年配の皆さんは「懐かしい」「これ使ってた」「自分で買った最初のカメラだった」と、お声がけくださる方も多かったです。

 

だいたい作家なんて言うものはへそまがりが多く、わたしも例外なくへそまがりに生まれついたもので、スタンダードなものよりも、誰も持っていないようなマニアックなものが好きだったりします。みんなが持っていそうな多数派のものを持つのは、何かに負けたようでもあり、「普通だね」と言われたら「そうですか?」と涼しい顔をしながらも、内心、地団駄を踏んでいたり。やっぱり、「えっ何それ見たことない」みたいなリアクションの方が好みです。
(余談ですが、筆者はこれで何度も失敗してきております……暖房器具も見た目を優先して使いどころがなかったり、子供の抱っこ紐も、意識高めの個性派抱っこ紐にして、ものすごく着脱しにくかったり)

 

しかしながら、カメラに関しては――このペンタックスSPに関しては、やはり先人のアドバイス通りに買って良かったですね。
全体の大きさにしろ、持った感覚にしても露出計にしても、過不足無く整っている感じがして、使ってみるとすべてが扱いやすい。わたしの買ったものは露出計に少し癖があり、そのままだと合わないので調整しながら使っています。それでも露出を示す針が上下に動いてとても見やすいです。

 

ストラップはグレーのロープストラップを付けましたが、小ぶりなボディも扱いやすく、小さいからと言ってチャチだったりすることもなく、操作感も良くて、持つよろこびがあります。世にたくさん出回ったこともあって、お値段も無茶に高騰することも無く、すべてにおいて案配が良いカメラです。少し地金が削れて金の下地が出ているのも個人的にかっこいいなと思えます。個性も大事ですが、多数派に支持されたという実績のある大ヒットには、大ヒットたる理由がちゃんとあるのだなあと……。

 

エデンの園で、蛇が知識の実を「この木の実、美味しいですよ。一口くらいかじってみたら良いじゃないですか」と勧めて、かじってしまったがために人間は知識を得てしまったらしいじゃないですか。わたしもこのペンタックスSPをかじってしまったために、ついに知ってしまいました。M42マウントのレンズが、めちゃくちゃ多いということを――

 

M42マウントのレンズたち。それぞれ個性があって楽しい。

 

今までニコンFマウント、レンズは数本のみで満足していたわたくし、タクマー全般のこなれた値段を知ってしまい、50ミリから買い足して135ミリ、そしてマクロタクマー50ミリF1.4。皆さん参考書だって薦めてくださいます。「オールドレンズ・ベストセレクション」澤村徹(玄光社)、写真工業のバックナンバーもそれぞれ面白く。

 

参考文献「オールドレンズ・ベストセレクション」澤村徹(玄光社)


カメラ市でもM42マウントのレンズは本当にいろいろとあり、世界各国の特色のあるレンズがよりどりみどり。背景ぐるぐるからシャボン玉ボケ、虹のようなフレア、正統派から魅惑のクセ玉まで……ああ。中でもロシアレンズの楽しいこと。インダスターで星のボケを出したり、ジュピターを持って、そのこってりした写りにニヤニヤしたり。ジャンク棚をあさって千円のレンズを買ったりと、際限なくM42マウントのレンズを探してしまいます。


一眼レフカメラは、レンズ交換するたびに、新しいカメラに生まれ変わったようになるのも面白いですね。ペンタックスSPは数あるM42マウントレンズの母艦として、今も大活躍しています。


ひとたび禁を破ってマウントがひとつ増えてしまえば、一眼レフカメラを他に増やすことにもまったく抵抗がなくなってしまい、あれよあれよという間にコンタックスマウントなり、トプコンエキザクタマウントなりが増えていってしまいました。レンズはまだ買っていないのに、マウントアダプターだけ先に抑えるなどの奇癖も。


一部門、一カメラの主婦の知恵は、M42マウントの前に四散しました。ペンタックスSP、なんという禁断の果実……。

 

三角コーン(アサヒペンタックスSP、インダスター2.8/50、f8、1/1000、アドックスシルバーマックス100)

 

ソテツ(アサヒペンタックスSP、スーパータクマ―1:1.8/55、f8、1/1000、アドックスシルバーマックス100)

 

イチョウ(アサヒペンタックスSP、ジュピター9、f2、1/1000、フジC200)

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