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本日のマイカメラ

第13話 スメナ8Mと、今振りかえるトイカメラブーム

2022/10/25
柊サナカ

カメラ市で購入したスメナ8M。気に入っています。

 

スメナ8Mの裏面。プラスチックの可愛いカメラです。

 

距離表示も、シャッターボタンもいい味です。

 

スメナ8MをPCT主催「Jカメラポップアップショップ『中古カメラバーゲン2021』で購入して、思い出したことがあります。

 

そういえば2000年前後、トイカメラがブームでしたよね。そのころわたしはちょうど就職したころで、初めての一人暮らしが始まったあたりでした。
カメラ愛好家の語る、トイカメラブームは、すでにどこかに詳細にまとめられていると思いますが、当時カメラにまったくこだわりのなかった人間の、思い出の中のトイカメラブームというのも、ここにひとつ書き残しておきたいです。

 

兵庫県の田舎なので、一般的と言えるかどうかはわかりませんが、80~90年代は、今みたいに一人一台スマホという時代ではなく、写真というと、よっぽど家族にカメラ好きな人がいないと、各家庭で一眼レフ(フィルムカメラ)までは持っていないという雰囲気であったように思います。
わたしの祖父はキヤノネットを愛用していた一方で、育った我が家では写真へのこだわりはまったくなく、主に使い切りカメラである「写ルンです」や、プラスチックのカメラ(機種が曖昧なのですが、キヤノンのオートボーイ的な位置づけのカメラ)で、旅行の時に写真を撮っていました。

 

そのわたしが2000年ごろ、突然カメラを買おう! と思い立ったきっかけが、女性誌に載ったLomo LC-A+でした。カメラ特集でも何でもなく、おしゃれ雑貨のひとつとしての紹介でしたね。決め手は、その記事で、「シャッターをバルブにして長時間露光し、満月でハートを描くこともできます」という作例が、なんだか可愛かったからです。もう記憶は定かでないのですが、カメラマンの人が愛用するカメラとして紹介しているのではなく、おしゃれな人の持ち物紹介のようなコーナーでした。

 

当時わたしは勤務先が韓国だったので、Lomo LC-A+を買うため、旅に出るような感じで、カメラ購入のために高速船に乗って博多港まで行ったのを覚えています。調べて出向いたのは、カメラ店でなく、博多のおしゃれ書店にあった雑貨コーナーの中です。
Lomo LC-A+は、おしゃれ書店のおしゃれ棚に、小粋な雑貨みたいな顔をして、箱の中で売られていました。当時は取説が英語のみで、ざっくり斜め読みしたために、フィルムをうまく入れられず、お店の外でカメラ片手に困っていたら、通りすがりの人に、「ここを引くんですよ」と教えてもらって、ようやく裏蓋を開けることができました。

 

それまで、写真というと、カメラの前で整列して家族で写真を撮ったり、どこか旅行へ行って、背景に記念になる何かを入れて撮ったりという、記念の意味あいが多かったです。Lomo LC-A+をきっかけにして、わたしは、記念写真以外の写真を撮ることになりました。錆びた鉄の板とか、細い路地とか、猫とかをよく撮ったものです。

 

Lomo LC-A+の当時の写真がないかな、と探してみました。データになっているものはこれくらいでした。ネギ畑。 

 

そのうちにLomo LC-A+を持つ人が周りに増えてきて、数人で集まって写真を撮り合ったり見せ合ったり、部屋の床にずらっと写真を並べて、良いものに印を置いて、一番を決めるという、自主品評会みたいなことをするようになりました。それは「よい写真とは何か」とか「有名写真家について」などを語るような真面目な会ではなく、どれがかっこいいか、どれが良い感じか、というのを仲間うちで見つけるといった、遊びのようなものでした。(なんだか今思えば、アナログ判インスタみたいですよね……)
 

好きな映画は、ウォン・カーウァイの「恋する惑星」、ヴィンセント・ギャロの「バッファロー’66」というような系統、ちょっとしたおしゃれなことを自分でも表現してみたいといった層に、ロモグラフィのLomo LC-A+の佇まいが、しっくりはまった気がします。

 

真面目なカメラ人が見たら怒ってしまう、周辺光量落ちも、ただの電線と夕焼けを撮ってもおしゃれっぽく見えましたし、夜に人を撮ってブレブレになっても、それがまた「かわいい、良い感じ」みたいに言われて仲間うちで褒められたり。
たぶんですが、あの街角撮影会、品評会等の遊びは、まっとうなカメラ趣味の人たちとは、まったく離れたところの流れだったのかなと思います。毎週のようにカメラ遊びをしていながら、いわゆる正当なカメラ趣味の人とは会ったこともありませんでしたし、話したこともありませんでした。カメラ雑誌、カメラ店とも縁がなく、生活圏自体、まったく重ならなかったのです。(この構造は、今もあるのかもしれませんね……)

 

その後、Lomo LC-A+が気に入り、ホルガ、ポラロイドアダプターがついたポラホルガと買い足していきました。四連写するカメラとかも買いましたね……。その後トイカメラブームに乗って、いろいろな後発のプラスチック素材のカメラも出ましたが、そちらにはなぜか、食指が動きませんでした。わたしにとって、Lomo LC-A+が一番”映えた”写真が撮れる”いい感じの”カメラでした。(そこからニコンFM3を買うようになったりして今に至るのですが、それはまた後の話)

 

そこで冒頭のスメナ8Mに戻るのです。このスメナ8Mは、Lomo LC-A+に慣れた人が、もう一台買うなら、というようなカメラであったので、わたしも名前だけは知っており、先日のカメラ市で見つけたときは、旧友と再会したような気になりました。青春よもう一度。
 

意外と言ってしまえば、スメナ8Mに悪いのですが、日中はきっちり写りますし、ちょっと褪せたような青空の色も個人的に好きです。やっぱり暗いところでは豪快に手ぶれしたり、フィルムを巻き忘れ、図らずも多重露光になってしまって、不思議な写真になってしまったりということはありますが、そういう面も含めて好きですね。

 

 

土手の木。よく写ります。(スメナ8M、富士フイルム C200)

 

たまに巻き上げを忘れて多重露光。(スメナ8M、富士フイルム C200)

 

ぶれた商店街。(スメナ8M、富士フイルム C200)

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