先日、ポートレートギャラリーにて行われた、「手作りピンホールカメラで巡る 四季の記憶 金武治写真展」に行ってきました。
写真展は、四季折々の風景が、金武さんの手による手作りのピンホールカメラで写されており、うっすらと発光するようなミツマタや桜、滝も、ピンホールカメラならではの、どこか夢の中のような景色に写っており、とても見応えがありました。
わたしはピンホールカメラがとても好きです。気がついたら、自作カメラも含めて四台持っていて、自分でも驚きました。
ピンホールカメラは何か、という説明は、カメラに詳しい読者にとっては必要の無いものですが、一応。
ピンホールカメラは、カメラとはいえ、レンズはありません。箱に、ただの針で突いたような小さな穴があるのみ。なので「ピンホール」。これできちんと写真が写るのだから驚きです。
わたしがまだカメラを持っていない頃のことになります。神戸~三宮の高架下に行くのが好きで、休みのたびにうろうろしていました。当時の神戸の高架下は、ありとあらゆるジャンルの小さな店が連なっており、古道具屋の隣にはミリタリーショップ、あやしい光が灯ったハ虫類屋に、みっしりと古本が塔のように積まれた古本屋、剥製のある薬局、立ち飲み屋のとなりにお座敷のカフェもあったりと、怪しかったり珍しかったり、新旧も国籍も入り乱れた独特な雰囲気が大好きでした。(現在はコロナ禍、老朽化もあり昔の賑わいは無い様子。寂しいです)
その日もうろうろと高架下を歩いていたら、ギャラリーがあり、そのギャラリーでは何かの催しをやっているとのこと。好奇心にかられて、ふらっと入ってみることにしました。薄暗い部屋に入ると――何かが動いています。見れば表の景色が、逆さに壁に投影されているのです。人が歩くと、逆さのままスッスッと移動していきます。真っ暗な部屋で見たその奇妙な光景は、ずっと頭に残っていました。
箱(もしくは部屋)に、針で突いたような穴をあける。中を暗くする。そうすれば、表の景色が逆さに写る。その写ったものをネガで写し取れば、写真ができるというのが、ピンホールカメラの原理です。
最初のピンホールカメラは、ピンホールカメラを専門的に取り扱っている、エーパワー(http://www.doctor-and.com/)で購入したZERO2000です。見た目は完全におしゃれ木箱、どう見てもカメラには見えませんが、シャッターもきちんとついています。
最初に買ったのがこのZERO2000で良かったな、と個人的に思います。ZERO2000は作りがとても丁寧で、木目もネジも美しく、中も反射を抑えるためにつや消し塗料が塗られ、フィルムの逆戻りや、巻き太りを防いだりする工夫もあって、ピンホールカメラの中でもとても使いやすいピンホールカメラです。ただ部屋に置いていても綺麗で、スライド式のシャッターも使いやすい。
裏面もいい。
内部はこのようになっています。丁寧な作りです。
シャッターがあるとはいえ、蓋を開け閉めするような感じで動かす、手動のものです。ピンホールカメラですので、1/1000秒とか、1/500秒などはまったく使わず、短くて1秒とか4秒、だいたいは52秒とか1分20秒とかの長時間露光となるので、シャッターをのんびり開けて、時計を見ながらぼんやりして、閉める、というようなのんびりした挙動で撮影します。
シャッターの秒数を割り出すのに、針穴露出計というアプリを使っています。このアプリもとても便利なので、ピンホールカメラと合わせて愛用しています。
https://apps.apple.com/jp/app/針穴露出計/id501893760
針穴露出計。これのおかげでベストな露出を計れますのでぜひ。
なぜ、こんなにピンホールカメラが好きなのかというと、長時間露光自体が面白くないですか?長時間露光では、光が徐々にフィルムに染みこんでいくような趣があります。やろうと思えば、シャッターを開けて、前で踊って、閉める、ということもできます。(ぼんやりとした自分が写ります)
全体がふわっとした写りになるのも面白い。とは言え、わたしの場合、ずっとピンホールカメラばかりで撮り続けるということはあまりなく、波のようにピンホールブームが自分の中に来て、おさまり、また来るという感じです。久しぶりに撮るとやっぱり楽しいので、撮らない時期が来ても、手放そうと思ったことは一度もありません。
ピンホールカメラの良い点は、ちっともカメラらしく見えないところ。まあ、木箱ですし……。わたしは一度、一眼レフで船着き場を撮っていて「何を撮っているんだ」と、通行人とトラブルになりそうになったことがあるのですが、町並みを撮るときには、今だにちょっと気にしているところがあります。
それでもこのカメラなら、まずカメラに見えないので、誰かに気にされることもありませんし、動いているものはブレて風のように写るので、特定の人物がくっきり写るということもありません。それでも街の賑わいや、人の動きはしっかり撮ることができます。ビルなどの建造物は鮮明に写り、人や動くものが抽象的になっている分、街のざわめきをも写せるような気がします。
ZERO2000は、中に赤外線フィルターを入れることができたので、赤外線ピンホール写真にも挑戦してみました。夢幻の感じで撮れるかな、とワクワクしながら現像、暗室にも行ってみましたが、どうやっても柳の木がめらめらと燃えさかっている山火事のようにしかならず、参りました。
ZERO2000で撮れた写真はこのような感じです、雰囲気までよく写ります。場所は写真好きが集うバー、ペーパープール。
山火事ではありません。ZERO2000赤外線ピンホール写真で撮った柳の木です。
ZERO2000ですっかり気をよくしたわたしは、次に、HOLGA 120WPCという、ピンホールはピンホールでも、6×12のパノラマピンホール写真が撮れるというカメラを購入しました。ワイドな表現と、ピンホールならではの描写がなかなか楽しいです。
こちらはホルガ同様、プラスチックで軽く、何かの撮影のついでに持ち運んでも楽しいカメラです。
HOLGA 120WPC
HOLGA 120WPCで撮れた写真。カラー暗室で印画紙に焼いてみました。
モノクロでも撮ります。遠近感が不思議な感じに写るのもお気に入り。(HOLGA 120WPC)
次に自分でもピンホールカメラを作ろうと思って、箱を何か加工しようと思ったのですが、元来不器用で雑に生れついたもので、ぜったいに”明るい暗箱”を作ってしまうだろうし、うまい加工もできそうにない。何か暗い箱はないかとネットを探し回っていたら、暗い箱、ありました。カメラ屋さんの店頭にある、あの箱です。とてもお安くオークションで出ていたので落札し、腕を入れるところの一カ所をピンホールに加工しました。
もう一つの腕を入れる場所はそのままにしておきます。なぜなら、撮った写真を中で現像もできるようにするためです。(お弁当パックに現像液・停止液・定着液を入れて持ち運び、自作ピンホールカメラの中に手を入れて、屋外で皿現像しました。姿勢が妙になり、たいへん疲れました)
印画紙は、ピンホール用に開発されたらしい、イルフォード・フォト製品である、HARMAN ダイレクトポジティブペーパー 4”×5” バライタ FB 光沢紙を、おなじみのTHE BASE POINTで買いました。
http://www.thebasepoint.jp/
この印画紙は優れもので、撮ると、ネガじゃなくて、なんとポジのモノクロ像がそのまま写るのです。ポジとはいえ、現像はいつもの現像と同じく、一回で済みました、不思議ですね。
https://www.cybergraphics.co.jp/ILFORD_ITEM.html
これを4×5のホルダーに入れて設置、写すとなかなか面白い感じに写りました。この印画紙も、可能性がまだまだありそうです。
自作のピンホールカメラ。
内部で現像もできます。(お弁当箱を使います)
自作ピンホールカメラで撮れた写真。HARMAN ダイレクトポジティブペーパー 4”×5” バライタ FB 光沢紙。
ピンホールカメラが好きだと公言していると、カメラは集まってくるものです。ある方からピンホールの名品、MOMBETUを譲っていただきました。こちらも細工がとても美しく、触っているだけでもこう、満足感があります。こちらも併せて愛用していきたいです。
ピンホールカメラは、今の高解像度、カリカリの描写に慣れた目には、逆に新鮮に映ると思うので、ぜひおすすめしたいですね。
MOMBETSU65
MOMBETSU65で撮った写真。不思議な雰囲気です。
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