top コラム本日のマイカメラ第5話 ローライ35T

本日のマイカメラ

第5話 ローライ35T

2022/03/15
柊サナカ

愛用しているローライ35T

 

ローライ35は、私がいわゆるクラシックカメラにはまる、きっかけとなった一台です。
「谷中レトロカメラ店の謎日和」を書く前にも、カメラは好きで撮っていましたが、デジタル機はGRデジタルⅡとニコンD300、あとフィルム機はニコンFM2、ロモLC-Aと、写真を撮る行為は好きでも、カメラ自体にはまったく詳しくなく、カメラがこれ以上増えるなどとは、つゆほども思っていませんでした。


谷中レトロカメラ一巻が出たら、クラシックカメラを何か一台買おうと決めており、関西に帰省の折、大阪の老舗写真機店さんに寄りました。予算は五万から七万くらい。写りの良いもの。小ぶりで鞄に入るもの。あと大事なのは見た目が可愛いこと。
実は当時、ローライ35以外に別に欲しい某カメラがありました。写りがすばらしいと有名なカメラです。ブロガーの人も使っていて、その写真が実に雰囲気があって良かった。
最初、その某カメラはないですか、とお店の人に尋ねました。そうすると、別館にあるかどうかも探してくださって、在庫があると教えてもらったのですが……。

 
「このカメラはですね、中に電子部品が使われておりまして、その在庫がもう生産されていないものですから、電子部品が壊れると、もう使えなくなってしまうんです」 
とおっしゃる。
そんなことをまったく知らず、なんとなく雰囲気とか写りで、ボンヤリいいなと思っていたわたしは驚いて、(何万もかけて買うフィルムカメラが壊れて、ある日突然、ただの文鎮になったら嫌だな……)と思いました。
当時もそのカメラは、ローライ35よりも高い価格帯のカメラでした。

 
今思えば、お店の方からしたら、カメラのことをよく知らない初心者丸出しの女が一人でやってきた。できるだけ高いものをどんどん売りつけてやれ、となってもおかしくないところですし、売り上げの面から言えば、黙っておいてそのカメラを売ったほうが儲かるに違いないのですが、それでもきちんとデメリットについても説明してくださった。
ネットの中で、だましに近いような商売をする個人売買の人もいる中、ずいぶんと真面目な商いだと今でも思います。さすが老舗の誉れ。店員の方もカメラを愛していらっしゃるのでしょう。
わたしも当時はカメラ関係の仕事はまだ何もやっておらず、谷中レトロカメラだって発売されたばかりで、わたし自身の知名度は皆無でした。カメラに限らず、最初に行った店って大事です。このお店との出会いがあったからこそ、わたしもこんなにカメラにはまったのではないかと思います。

 

本革のケースは昨日カメラさん製。

 

そこで勧めていただいたのがローライ35でした。
・予算は五万から七万くらい。→○ 当時、美品が五万円台でした。
・写りの良いもの→○ 素晴らしきテッサーの写り! 
・小ぶりで鞄に入るもの→○ ローライ35はレンズを沈胴させることができ、びっくりするくらいコンパクトになります。厚みはそれなりにありますが、大きさで言うとスマホより小さいくらい。手乗りサイズです。
・あと大事なのは見た目が可愛いこと→○ クラシカルでいてメカ感もあって可愛い。
予算も要望もばっちりです。

 

ローライ35には、やってはいけない禁止事項(巻き上げた状態で沈胴させること。無理に沈胴させると壊れる)があるのですが、それも店頭で説明してもらい、何度か手順も見せてもらい、自分でもやってみて、操作をしっかり覚えてから買って帰りました。

 

あれからカメラはたくさん増えましたが、このローライ35Tは最後まで手放さないだろうと思います。格好は小さくても、ローライ35には撮る喜びがあります。ピントが目測なので、たまに大はずしということもありますが、ぴったり決まると驚くほどにいい写真が撮れます。あと、首から提げていてもゴツくなくていい。だいたいf5.6くらいで置いておいて、歩いていていいなと思ったらサッと撮る、みたいな感じで使っています。
山登りでは、すべてのもののかさを、極限まで減らしてパッキングするそうですが、その山登りをするときに持っていく、という方も居るくらいのコンパクトさです。
(その方は、ローライ35に赤外線フィルターを付けて、山で赤外線写真を撮るのだそうです。写真を見せてもらいましたが、幻想的ですごくよかった)

 

 内部の、パズルのように収められた部品。電池室も最初どこにあるのか探しました。


小柄な人が持っても似合うし、大柄な人が手のひらの間に持っている様子も可愛いものです。
ドイツの天才設計者、ハインツ・ヴァースケ氏の手による、奇跡のパズルのようにぎゅっと凝縮されたメカ感もいい。わたしはこのローライ35が気に入って、その後ヴァースケ氏のファンとなり、ローライA26、ローライ110とヴァースケ氏設計のカメラが増えていきました。あとローライマチック35も欲しいです。子にヴァ助と名付けても良いくらい好きです。
使ってみて何もかも気に入って、「谷中レトロカメラ店の謎日和」でも、店主今宮が赤ん坊の時に掴んで離さなかったカメラとして作中に出しました。

 

そういういきさつもあって、ローライ35は帰省と旅行のたびに絶対に持っていくカメラとなりました。
(とはいえ、わたしはフィルムカメラがまったく初めてではなく、それなりにニコンFM2やトイカメラの経験があったためか、わりにすんなり慣れましたが、カメラまるきり初心者の方に勧めるには、ローライ35は禁止行為があったり、フイルムの巻き戻し方法に少し癖があったりします。わたしも最初の頃はよくフィルムをちぎってしまいました……。目測ピント合わせと、フィルムの巻き戻しにさえ慣れれば、生涯を通して、すごくよい相棒になることだろうと思います)

 

その後「ローライ35のススメ」展などの展示にご一緒させていただいたり、レンズもテッサーだけでなく、クセナーのついたB35も、トリオターがついたのもいいな、珍しいC35もかっこいいな、チタンのローライ35クラシックもいいな、などと思いつつ、今に至ります。

 

その大阪のカメラ店さんは一体どこだろう? と気になっている方にこっそり。

大阪の八百富写真機店さんです。その節はお世話になりました。おかげさまでローライ35は愛用中です。最近コロナで帰省できていませんが、いまでも帰省のたびに寄る、大事な場所となりました。

 

喫茶店の本棚(ローライ35T、f2.8、1/60、フジC200)

 

コテージ(ローライ35T、f8、1/500、フジC200)

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