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top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第46回 犬も歩けば被写体に……③

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第46回 犬も歩けば被写体に……③

2026/01/21
なぎら健壱

SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・8.8mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/500秒・‐0.3EV補正・ISO125・AWB・RAW[撮影日 2026年1月17日]

 


地下鉄日比谷線を上野駅で降り、地上に出てみる。上野駅(昭和通り交差点)から隅田川に架かる駒形橋に向かってまっすぐの道があるが、これが浅草通りである。その下を地下鉄銀座線が通っており、上野から稲荷町、田原町、終点の浅草へと続いている。

 

今回も歩くかと、入谷神社の前までやって来て、まずはこの辺りを探索する。さて、「遠ざかる町」にふさわしい、なくなりつつあるもの、あるいはなくなってもらいたくないもの、そうしたものを発見できるであろうか。

 

入谷神社の側に銅板で囲まれた民家をいくつか眼にする。この銅板の家は、下町ではよく見かける建造物である(①②)。

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・35mmで撮影・絞りF6.3・1/60秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/500秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

これを看板建築とする人がいるが、看板建築とはいささか違うだろう。

 

関東大震災(1923年)の時、飛び火で多くの家屋が焼けた。つまり火の粉が降り注いだというわけである。東京ではその震災の教訓から、防火性の高い銅板建築が数多く建てられることとなった。要するに木造住宅の外壁や屋根に銅板を張り、火災による延焼を防ぐ目的で普及したのだが、当時は細部に工夫、細工などに凝った職人技が注がれたという。当初は新しい10円玉のように、キラキラと輝いて、きっと竜宮城のようだったに違いない。それが経年とともに、緑青(ろくしょう)に覆われ、青銅色に変化してしまったのである(③④)。

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・41mmで撮影・絞りF6.3・1/160秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・55mmで撮影・絞りF6.3・1/400秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

また④の写真の正面(⑤)

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/160秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

――これをなんというのだろう? シャッターでいいのかな?――を久しぶりに眼にしたような気がする。この名前、調べたら横引き折り畳みシャッター「フォールディングゲート」ということであった。これって昔はよく眼にしましたけど、最近見ませんよね。あたしの気のせいかな?

 

どうでもいいことなのだが、子供の頃、緑青は猛毒だと教わりませんでした? 理科の教科書や百科事典にも「緑青は有毒」と記載されており、舐めたりするとえらいことになると言われてきた。今でも多くの人がそう思っているに違いない。ところがどっこい、緑青は無害だと科学的に証明されているのである(1984年に動物実験と東京大学医学部の研究で発表された)。ベロベロ舐めても平気ってことですよ――そんなヤツはいないだろうけどね。

 

話が横にそれたが、この銅板の家があるということは、戦災を受けなかったことになる。ということは、関東大震災が1923年(大正12年)だからにして、単純計算で築100年以上になるということである――凄い!

 

しかし前述のように、この辺り戦災を受けなかったのであろう、旧(ふる)い建物が点在している。そうだ、あの長屋はどうなっているだろうか?

 

あれっ、確かここだよな? 人伝えに聞いたので確かなことは分からないが、多くの芸人さんが住んだという長屋があった。あれれ、駐車場になっている(⑥)。

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/500秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

去年、仕事でこの辺りを訪れた際、間違いなく撮影をした。電話でマネージャーに確かめると、奇しくも丁度一年前、去年の今日、1月16日にここで撮影している――帰ってその写真を探すのだが、どうしても見つからなかった。

 

おっと、これですよ、看板建築というのは。瓦屋根を隠すように前面を洋風に見せている壁。もっともあたしは看板建築という呼び方が嫌い。というのも、看板ではありませんからね。あたしはこうした建物を偽壁(ぎへき)建築と呼んでいる。しかしこのお宅、右側が階段なんでしょうが、屋根に出られるようになっている。物干し台があるわけでもなく、なんのためにでしょうか?(⑦)

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・44mmで撮影・絞りF6.3・1/100秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

前回、前々回も書いたが、庭を持たない下町の人たち、植木鉢を家の前に置いて愛でている(⑧⑨)。

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・70mmで撮影・絞りF6.3・1/80秒・+0.3EV補正・ISO640・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・8.8mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/30秒・‐0.3EV補正・ISO200・AWB・RAW[撮影日 2026年1月17日]

 

 

ここいらもご多分に漏れずってことですな。おっと前回書いた、不要になった火鉢を植木鉢代わりにしているのが見て取れます(⑧の右端)。

 

あれっこのお寺の壁、こりゃなんだい。噺家の名前や寄席の名前、はたまた放送局の名前まである(⑩)。

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/60秒・ISO500・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

だがNHKを『日本放送協会』、TBSラジオを『ラジオ東京』、文化放送を『日本文化放送』とは相当古いぞ。また、かなりの多くの噺家の名前がある(⑪)。

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/60秒・ISO320・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

で、お寺の名前は本法寺とある。

 

かっぱ橋まで歩いてきた(⑫)。

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・52mmで撮影・絞りF6.3・1/400秒・‐0.3EV補正・ISO100・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

そろそろ取って返すか。と上野まで歩いて戻った。途中気になったのは、長屋風の建物(⑬)である。

 

SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・8.8mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/500秒・‐0.3EV補正・ISO125・AWB・RAW[撮影日 2026年1月17日]

 

 

こうした建物、改装されたら決して同じようなものは建たないだろう。またこの景観も消えていく運命のあり、いずれ遠ざかっていくのであろう。

 

そして上野駅近くにある、比留間歯科医院の建物、いい佇まいですな~(⑭)。

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・28mmで撮影・絞りF5.6・1/60秒・+0.3EV補正・ISO125・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

で、あたしと歳が凸凹の方はご存じであろうが、かつて病院の入り口には、必ずこの赤い灯かりがあった(⑮)。

 

 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・70mmで撮影・絞りF5.6・1/80秒・+0.3EV補正・ISO200・AWB・RAW[撮影日 2026年1月16日]

 

 

覚えていますか? そうだよ、いつの間にか見なくなってしまった。でもここ以外でも、まだきっと残っているに違いない。

 

とまあ、今回の遠ざかるもの探しはこれで終わり、電車に揺られて帰ることに。しかしあの噺家や寄席、放送局の名前が刻まれた壁、あれは一体なんだったんだろう? と気になって、帰りの電車の中で調べてみた。

 

本法寺のホームページにこうあった(要約)。

 

【戦時中、その演題のなかには、遊里・酒・妾・廓噺も多く、この厳しい戦時中にこうした演題をだすことが憚(はばか)られ、落語界では国策に沿っていち早く自粛方を協議し、演題について落語界幹部が種々検討して、噺五十三種(遊里・酒・妾・廓話等)を禁演落語として発表し自粛をしました】

 

なるほど、そうだったのね。で、どうした? さらに見ると、

 

【昭和16年10月31日、当時の講談落語協会、小噺を作る会、落語家講談家一同、落語常席主が発起人となり、落語界の人々の信仰を集めていた熊谷稲荷のある、本法寺の境内に「はなし塚」を建立し、時局に相応しくない53種の台本をこの塚に納め、併せて落語界の先輩の霊を弔いました】

 

ということは、あの塀の文字は昭和16年のものなの? 多少風化しているけれど、85年前? こりゃ凄いよ。 文中に「この塚」とあるが、調べると、境内に今も『はなし塚の石碑』があるという。おとっと、知らなかった。なぜ境内まで入らなかったんだろう? まっいいか、その写真がなくとも――いやいや、なんだか釈然としないものがある。写しに行くか……。

 

ということで翌日、行ってきましたよ、はなし塚を写しに!(⑯) 

 

 

SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・14.3mm(35mm判換算39mm)で撮影・絞りF5.6・1/40秒・‐0.3EV補正・ISO500・AWB・RAW[撮影日 2026年1月17日]

 

それだけのためにですよ、偉いな~あたしは!

 

 

 

 

◉今回のお供は…… 

Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary・SONY Cyber-shot RX100Ⅲ

撮影日は、2026年1月16日・1月17日

 

 

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

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