どこか知らない町の戸外で、テーブルを前に座っている。遠くに眼をやると、昔何かの劇場だったのか、様子のいいアールデコ調の建物が見える。被写体に絶好である。
今まで何度となく同じような夢を見てきた。多分、いつもそうした建物や景観を探して歩いているからであろう――そんな夢を20、30回は見たか? その都度「ああ、今回は夢ではない。やっと現実に遭遇できた」と思うのだが、夢と分かり町は遠ざかっていく。
しかし今回は夢ではない――なぜか確信があった。椅子から立ち上がって商店街を歩くと、そこにも古い商店が並び、昔ながらの雑貨屋や朽ち果てようとしている民家、その先には、昔遊郭だったと思われる建物が……。それをコンパクトカメラでバチバチ撮るのだが、28mm固定レンズのはずが、70mmぐらいの画角になってしまい、狙ったものがまともに画角に収まってくれない。カメラの設定だろうかとメニューを探るのだが分からない――そこで眼が覚めた。
前述のように、幾度となく同じ夢を見ている。地方都市の場合もあるし、都内の場合もある。そうした琴線に触れる景観を求めて、町を歩いている。それを義務感のようにはしたくないのだが、いずれそうなってしまったのだろうか? それが課せられてしまったような案配になってしまえば、自分の中の捨てがたい町も見えてこなくなる。
理想は「ふさわしいものを求めて」ではなく、歩いている時、そうしたものに遭遇、発見できるということである。そうは言っても、狙って歩いていてでさえ、そうしたものに遭遇できることなど稀である。それもアンテナを張っていないと、通り過ぎてしまっても気がつかない――あたしなんぞでもそうなのだから、興味のない人はまるで見えてこないはずである。
で、今回の写真だが、友人のK君からの情報であり、場所を教えてもらった。K君の写真の二番煎じではあるが、あたしの琴線に触れたのである。場所が分るかな? と雑司ヶ谷の駅で降り、聞き及んでいた道筋を歩き、「さてこの辺りか、果たして見つかるかな~」と10mも行かない内に発見できた。
ここの名前を『雑二ストアー』という。その昔、この路地には何軒か商店が並んでいたに違いない。今は八百屋さんだけが商いをしている。お年寄りが店番をしているが、なんともいい風情である。早晩なくなるに違いない。そうすれば、この路地も消えるのか。思わず「頑張れ!」と声をかけてやりたくなった。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12〜40mm F2.8 PRO(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF5.6・1/60秒・ISO3200・ー0.3EV補正
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12〜40mm F2.8 PRO(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF5.6・1/60秒・ISO4000・ー0.3EV補正
1952年、東京生まれ。1970年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。
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