これは全国的だと思うのだが、ちょっとした歓楽街を持つ都市には、飲み屋横町なるものが存在するのではなかろうか? 横町という名称とは限らないが、飲み屋が軒を連ねるエリアのことである。
当然東京にもある。思いつくままに名前を挙げてみよう。新宿「思い出横町」「ゴールデン街」、渋谷「のんべい横丁」、大井町「東小路飲み屋街」、三軒茶屋「三角地帯(俗称)」、門前仲町「辰巳新道」、大森「地獄谷(俗称)」、立石「呑んべ横丁」、浅草「初音小路」、北千住「ときわ通り」、池袋「美久仁小路」「栄町通り」もうやめておこう、きりがない。
その何カ所かが、戦後間もない頃の闇市から発祥して、今日にいたっている。しかし昔のままの形を残しているところはほとんどない。改築したり、立て直ししたり――おそらく多くの店がそうであろう。代が変わった店も少なくはない。受け継ぐ人がかつての雰囲気を知っていれば、おのずとその風情は継承されることとなる。そうでなければ、新しい店主の嗜好となり、まるで違った店になってしまうことは必至であろう。またその飲み屋街に思い入れがなければ、その場所の歴史も息吹も関係なくなってしまう。ある飲み屋横町などは、まさに歴史も息吹も関係ないとばかりに、アジア圏のお姉さんたちが権勢を見せつけている。
そんな中、昔ながらの飲み屋が並んでいたのが、王子の「さくら新道」である。どの店も、最後まで往年のお嬢さんが相手をしてくれていた。2012年に火災があり、その大部分を消失したのだが、数軒は営業を続けていた。しかし、やがて更地となり「さくら新道」の面影は寂滅してしまった①②。
①さくら新道(旧)[東京都北区王子]
Panasonic LUMIX DMC-L1・LUMIX D VARIO-ELMARIT 14-50mm F2.8-3.5 ASPH.・38mm(35mm判換算76mm)で撮影・絞りF3.4・1/25秒・ISO400(撮影日時 : 2006.08.21)
②さくら新道(新)[東京都北区王子]
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO320(撮影日時 : 2020.11.30)
話は変わるが、あたしはそんな飲み屋横町の昼の顔が好きなのである。以前写真展で、飲み屋街の昼の景観を撮った写真を並べたことがある③。昼の飲み屋街は睡っていると言う方がいるが、あたしは死んでいるとは言わないまでも、息をしていないように思われてならない。息をしていない=死んでいるなのだが、生きてはいるのだ、しかし息をしていないのである。
③東小路飲み屋街[東京都品川区大井町]
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-42mm F3.5-5.6 EZ・28mm(35mm判換算56mm)で撮影・絞りF5.6・1/200秒・-0.3EV補正・ISO200(撮影日時 : 2016.05.23)
先日静岡へ行った折、仕事の前に昼の町をぶらつき、以前行った2大飲み屋街「青葉横丁」と「青葉おでん街」の前を通りかかった。「青葉横丁」は入り口に鎖が張られていて入ることは叶わなかった。で、「青葉おでん街」の写真を撮ってきたのだが、夜の様子とあまりに違うことに驚かされた。まさに昼間は息をしていないのである④⑤。
④「青葉おでん街」昼①[静岡県静岡市葵区]
RICOH IMAGING RICOH GR III・18.3mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/200秒・+0.3EV補正・ISO200(撮影日時 : 2022.10.16)
⑤「青葉おでん街」昼②[静岡県静岡市葵区]
RICOH IMAGING RICOH GR III・18.3mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/100秒・+0.3EV補正・ISO200(撮影日時 : 2022.10.16)
夜の「青葉おでん街」は、島倉千代子の『東京だよおっかさん』の1フレーズではないが、「♪お祭りみたいに 賑やかね」である。ホント、お祭りみたいである⑥⑦。
⑥「青葉おでん街」夜①[静岡県静岡市葵区]
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/50秒・+1EV補正・ISO6400(撮影日時 : 2018.03.13)
⑦「青葉おでん街」夜②[静岡県静岡市葵区]
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/40秒・ISO6400(撮影日時 : 2018.03.13)
いずれ全国のこうした飲み屋横町が淘汰されていくのか、あるいは残っていくのか。飲兵衛としては、時代が変わろうとも、是非残って――いや、残していただきたいのだが……。
- ●CD発売情報
- なぎら健壱 レコードデビュー50執念記念ALBUM
「ぐるり万年床~あれから50執念~」(ROOTS-016)
12/14(水)より全国CDショップにて発売!同日デジタル音源配信開始!- ●書籍発売情報
- 『アロハで酒場へ ~なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ~』
10/20(木)発売・判型四六判・1,815円(税込)・双葉社- ●LIVE SCHEDULE
- ・11/26(土)吉祥寺マンダラ2
- ・12/10(土)横浜サムズアップ
- ・12/29(木)大阪サンケイホールブリーゼ(高石ともや年忘れコンサートゲスト出演)
- ※「なぎらチャンネル」
- https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
- ※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html
1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。