本日も歩きました。
Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・+0.3EV補正・ISO500・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
さて『遠ざかる町』、今回は何を載せよう? 前回やったように、どこかの町で遠ざかるモノ探し求めるのも面白いよなぁ。そう考えるのはいいのだが、どこの町にする? 前回は、かつてよく足を運んだ押上から京島方面を目指した。今回はその延長線上でもいいのだが、やはり違う場所を選ぶことにしましょうか。
そこで思いたったのが、谷根千(やねせん)である。谷根千とは谷中、根津、千駄木の略称である。この谷根千を下町と記述することがある。なるほどそうした下町の匂いが色濃く残ってはいる。路地から路地へと入り組み、昔ながらの住宅が並んでいるというのが今でも見受けられる。そんな風情が下町の趣を醸し出しているのであろう。ところがどっこい、谷根千は下町ではなく山の手である。上野の西郷さんの銅像が高台にあるのはご存じであろう。階段を上がった上野のお山。つまり上野台地の上ということになる。上野のある台東区の名前、この台地の東側にあるので台東区というわけである。
上野台地が飛鳥山の方まで繋がっていて、さらに西側の牛込、神楽坂の方まで大地は連なっていく。これを武蔵野台地と呼ぶ。この台の上はお山の上、すなわち山の手に繋がるということになる。谷中・根津・千駄木は、まさにこの武蔵野台地の高台に位置する地域なのである。
そして谷根千を縫うようにはしるのが不忍通りである。上野の不忍池の主要な水源だったのが藍染川(忍川)で、関東大震災の頃を境にして暗渠化され、不忍通りの大半は河道に沿って作られ、従って不忍通りはまっすぐではなく、クネクネと川の蛇行のようである。
あたしは地下鉄千代田線の千駄木駅に降り立ち、直ぐ側の団子坂の交差点から出発しようとしている(①)。

①Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/125秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
ちなみに、江戸川乱歩の短編小説『D坂の殺人』のDとは、この団子坂のことである。
さて、眼の前の不忍通りを上野方面に向かうのだが、不忍通りに沿って右手の奥の道を行こうか、はたまた左側の奥を行くのか、あまり土地勘がないので頭をひねる。闇雲に歩くのだからどちらでもいいようなものだが、より被写体に出会える方がいい。上野に向かって不忍通りの右側の裏手にある路地を行ってみよう。
『文京区立 須藤公園』とある(②)。

②Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/80秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
「へぇ~こんなところに公園が」と立ち止まるが、かなり立派な公園である。もっとも名前すら知らなかったのだが。
歩き出す直ぐ側に『講談社発祥の地』なるプレートを発見(③)。

③Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO125・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
えっ、講談社って本社のある音羽(文京区)が発祥の地だとばかり思っていたけれど、実はここだったのね(千駄木3丁目)。今はその地は講談社の社宅になっていた(④)。

④Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/160秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
いつもとはいささか趣が違うが、町歩きの発見マップということでご勘弁を……。
しばらく歩くが、なかなかこの『遠ざかる町』にそぐう被写体に出くわさない。これはこのまま進んでも期待できないかと思い、不忍通りを渡って、反対側の路地を行く。しばらく歩くが、こちらにも被写体らしいものは一向に見受けられない。どうする? もう行くしかないだろうと歩みを進める。
しかしこの辺り、やたら路地が多い。ほほ~、この路地をご覧ください。真ん中に排水溝がある(⑤)。

⑤Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
この、路地の真ん中に排水溝がある景観は下町で頻繁に眼にする――東銀座あたりでも見かける。これは近年までこの路地が舗装されていなかった証拠。舗装されていなければ雨水は土に吸い込まれていく。しかし舗装されていれば、水の逃げ場はない。そこで道の真ん中に排水溝を作った。道の両端に排水溝を作るより簡易で手間がいらない。
そして庭を持たないお宅の家の前には、必ずと言っていいほど植木鉢やプランターが置かれている(⑥)。

⑥ Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3.2・1/60秒・ISO250・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
まさにこれも下町の風景である。前回の京島でも「このあたりのお宅は庭を持たないので、路地などに植木鉢を置いている」と書いた。
先ほど通りかかった店舗の前に、無料で「根津千駄木下町イラストまっぷ」なるものが置かれていた。う~ん下町か、まあいいでしょう。確かに不忍通りに面した根津と千駄木は大地の下の谷間であるからにして、下町と呼んでもいいのかな。谷根千の谷中が入っていないが、谷中は大地の上ですもんね。
緑に囲まれた長屋形式の店舗を見て、さらに進む(⑦)。

⑦Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・18mm(35mm判換算27mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・+0.3EV補正・ISO500・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
昔は本当に住居で長屋だったんですかね?
おっと、 遠ざかる町にふさわしい日の丸ですぞ!(⑧)

⑧Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3.2・1/160秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
こういうことですよ、かつて祝日には多く見かけられた日の丸ですよ。しかし昨今こうした家は少なくなってきている。そう言えば死語に近いが、祝日のことを旗日と呼んでいましたっけ。いいぞいいぞ、まだこうした風習がちゃんと残っている。待てよ、それにしても今日は祝日じゃないぞ。すると、どんな理由で日の丸を掲げているの? 右の人? それともちょっとオツムがご陽気な人? 眼の前まで来て分かった。ゲスト・ハウスとある。外国の方の利用が多いので、日の丸を目印にしているというわけですな。ということは遠ざかる町とは無関係ということですよ、納得。
しかし本当に琴線に触れるものが何もありませんな~。とは言え、歩く内に何かあるだろうと路地を縫って行く(⑨)。

⑨Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF5.0・1/100秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
朽ち果てたお稲荷さんだかの鳥居(⑩)。

⑩Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3.5・1/60秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
そして戦時中防火のために使われたと思われる、植木鉢代わりの用水(⑪)。

⑪Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3,5・1/60秒・ISO200・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
これも下町ではよく見かけるのだが、使わなくなった火鉢を植木鉢代わりにというのも眼にする――もっとも今回は見当たらなかったですけどね。
唐突に眼の前に都電が現れる。池之端児童遊園に設置されている都電7500形(7506号車)、である(⑫)。

⑫Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3.5・1/100秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
ここは、かつて池之端七軒町(後に池之端二丁目に改称)停留場があった場所ということである。ということは、さして写すものもなく歩き、池之端まで来てしまったということかい? 近いな~千駄木と池之端って。そうだ、旧忍旅館(現・上田邸 池之端3丁目)はまだあるのかな? 行ってみよう。上野動物園の通用口正面まで歩いてみた。「おっと、ありましたよ、旧忍旅館(⑬)。

⑬Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF3.5・1/80秒・ISO100・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
昭和4年(1929年)に建設されたというから歴史がありますよ。かつてはモダンな建物だったんでしょうな。
いやいやそれよりも、どうするのよ、特出するモノがちょっとしかなくて、終わっちゃったよ……。まっいいか、湯島天神まで歩くとしましょうか。
旧岩崎邸の裏手にある無縁坂を上がるのだが、結構息があがる(⑭)。

⑭昔撮ったアップの写真です。雷紋や柱の装飾がいいですな!
RICOH GRⅢ・GR LENS 18.3mm F2.8・18.3mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・-0.3EV補正・ISO200・WBオート・RAW[撮影日 2020年8月5日]
それにしても、ここのレンガ塀っていいよな。レンガの建物や外壁ってなんとなく好きなんですよ(⑮)。

⑮Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・17mm(35mm判換算25mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・+0.7EV補正・ISO400・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
だが、もしこれが建て直しされるとしたら、レンガ塀ではなくなってしまうんでしょうね。
いや~結構歩きましたけど、今回はほとんど遠ざかるものに出会えませんでしたな(⑯)。

⑯Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN・10mm(35mm判換算15mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・+0.7EV補正・ISO320・WB晴天・RAW[撮影日 2025年12月11日]
つまりすでに遠ざかるものは、遠ざかってしまったってことですかね? いやいや、まだ間に合いますよ。しかし、早くしないと……。

◉今回のお供は…… Panasonic LUMIX DC-S5・SIGMA CONTEMPORARY 10-18mm F2.8 DC DN
- ●CD発売情報
- なぎら健壱 NEW ALBUM
- 「下町ブギウギ」ROOTS-017 発売中!
- ●なぎら健壱 写真集発売中!
- タイトル : 「Tokyo In a Moment」
- 価格 : ¥2,200 (税込)
- ※ライブ会場にて発売中!
- ●LIVE SCHEDULE
- 12/20 (土) 大岡山Goodstock Tokyo
- 12/27 (土) 吉祥寺マンダラ2 ※年末恒例オールリクエスト大会
- 【2026年】
- 1/31 (土) 吉祥寺マンダラ2
- 2/7 (土) 大岡山Goodstock Tokyo
- 3/14(土) 横浜サムズアップ
- ※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。


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