立石すずらん通りにて。この店もよく通ったっけな。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・42mm(35mm判換算84mmで撮影)・絞りF5.6・1/640秒・ISO200・RAW[撮影日時 2023/09/19]
葛飾区中西部に位置する立石には、京成押上線がはしる(①)。
①やがてこの踏切も高架線になり、なくなる運命にある。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・32mm(35mm判換算64mmで撮影)・絞りF6.3・1/250秒・ISO200・RAW[撮影日時 2023/09/19]
何年ぐらい前からだろうか、その立石駅を中心とした近辺が酒飲みの聖地のように言われている。昔からの様子のいい飲み屋も結構あるが、新しい飲み屋も増えて「センベロ」の町としても名を馳せている。センベロとは千円でベロベロになるという意味で使われるが、さすがに千円でベロベロは無理があろうとしても、安くていい飲み屋が多くあるのでそう呼ばれていることには間違いないだろう(②)。
②この店も立石の名店として有名。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・14mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF6.3・1/60秒・ISO2500・RAW[撮影日時 2023/09/19]
20代の頃、そんな立石であたしは飲み屋をやっていた。確か音楽を聴かせる店をやりたくて、というのが理由だったと思うが、10坪ほどの小さな店であった。5年ほどやって、結局閉めてしまった。
立石の駅から直ぐのところに『呑んべ横丁』なるいい飲み屋街があった。「のんべい」でもなく「のんべえ」でもなく「のんべ」である。(③)
③どうですこの看板、いいよな~!
RICOH GXR・GR LENS A12 28mm F2.5・18.3mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/90秒・ISO200・RAW[撮影日時 2010/01/27]
『呑んべ横丁』、これがなんともいい雰囲気を出していた。1954年の創業時は飲み屋だけではなく、用品店や雑貨店もあり『立石デパート』と名乗ったそうである(④)。
④こうしたもので、かつて飲み屋だけではなかったというのがうかがえる。
RICOH GXR・GR LENS A12 28mm F2.5・18.3mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/15秒・ISO200・RAW[撮影日時 2010/01/27]
あたしが店をやっている頃はまだデパートが隣接して営業をしていた。高度経済成長期の頃に、町工場で働く人たちがこの飲み屋街を支え、次第に飲食が中心のエリアとなっていったとのことである。ところで、「『呑んべ横丁』なるいい飲み屋街があった」と前述したが、そう、実はこの飲み屋横丁、なくなってしまったのである――当然看板も撤去された(⑤)。
⑤ ③の看板の現在である。看板はすでにない。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・21mm(35mm判換算42mmで撮影)・絞りF6.3・1/200秒・ISO200・-0.7EV補正・RAW[撮影日時 2023/09/19]
立石駅の北口は再開発により消滅してしまったのである。ここで14年前と去年の写真を見比べてみよう(⑥⑦)。
⑥かつての「呑んべ横丁」の路地である。いいでしょ?
RICOH GXR・GR LENS A12 28mm F2.5・18.3mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/50秒・ISO200・RAW[撮影日時 2010/01/27]
⑦その路地の今である。何にも変わっていないように見えるが、あたしはフェンス越しに撮っている。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・14mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF5.6・1/60秒・ISO800・-0.3EV補正・RAW[撮影日時 2023/09/19]
何ら変わりないというのも凄い。
数年前から、京成電車の高架化に向けて立ち退きが始まり、やがて工事が入るようになった。次の写真を撮った2023年9月には北口エリアの立ち退きが完了して、いたるところが背丈のある白い壁に囲まれていた(⑧⑨)。
⑧こうして壁に囲われ、工事が始まった。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・14mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF7.1・1/1000秒・ISO200・RAW[撮影日時 2023/09/19]
⑨こちらも壁に囲われて、中がうかがい知れない。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・14mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF6.3・1/800秒・ISO200・RAW[撮影日時 2023/09/19]
それが当時の町の景観をついにシャットアウトしてしまった。
昨年の9月から10か月あまり経った今、さらに町が変貌を遂げているに違いない――写真撮りに行かなくてはいけないんですがね。そうか、そうだよ、あの様子の良かった飲み屋の『江戸っ子』もなくなってしまったんだ――なんとも残念(⑩)。
⑩『江戸っ子』も閉まってしまった。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・20mm(35mm判換算40mmで撮影)・絞りF6.3・1/60秒・ISO250・RAW[撮影日時 2023/09/19]
立石駅北口再開発事業とは、京成立石駅の北側に隣接する約22万平方メートルに及ぶ敷地が対象であるというから、かなり広い範囲である。
駅前には広場ができ、それを囲むように地上36階建ての高層ビルが建ち、大型商業施設となるという。その中には約650戸のタワーマンションや葛飾区新庁舎も入るというのだが、完成した想像図を見ても想像すらできない。やがて景観は昔の町並みを頭に描いても、それが一掃されることになろう。
しかし再開はそれだけではない。さらに線路を挟んだ南口西地区、南口東地区までにも及び、まるで違った町となる(⑪)。
⑪この、立石仲見世もいずれはなくなってしまう。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6 EZ・14mm(35mm判換算28mmで撮影)・絞りF6.3・1/60秒・ISO1000・RAW[撮影日時 2023/09/19]
町の案内に「高架になり、北口だけでなく南口も車で駅前まで乗り入れることができるようになれば、交通利便性は飛躍的に高まるだろう」とあるが、利便性だけでいいのであろうか?
またひとつ、下町の情緒を残した町がなくなる。町が変わったとしても、人情だけは持って行かないでくれよ!
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1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。
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