top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第22回 いつの間にか見かけない

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第22回 いつの間にか見かけない

2023/12/20
なぎら健壱

亀戸にて

 

時が経ち忘れ去られていくもの、あるいは時流の変化に置いて行かれるものと言えば一体なんであろうかと考えてみた。その最たるものと言えば死語と呼ばれるものであろうか? 死語というものは近代以前からあったであろうが、さすがにそこまでは追従できない。戦後だけでも相当な数の死語があるに違いない。
 

あたしなんぞはつい死語とおぼしき言葉を発してしまう。衣紋掛け、運動靴、トレパン、洋モクなんぞと口走り、「衣紋掛け? 今時衣紋掛けなんて言うの? ハンガーでしょうよ」などと笑われる。
 

まあ、掃いて捨てるほどある死語だが、それと同じように世間から消えてしまった景観もある。イヤ違うな、忘れ去られたものもある、が正しいかな? おっと、これはちょっと説明をしておかなければいけませんな……。

 

消えると忘れ去られるとは同じように思われがちだが、実際は違う。消えるとは現れていたものが、そうでない状態になることである。一方、忘れ去られるは、存在するのだが、見向きもされなくなるもの。記憶が薄れて関心がなくなり、風化するもののことである。つまり「消えてしまった」ありきで、やがて「忘れ去られる」が正しいのであろう。いや、逆もあり得ようか。忘れ去られた挙げ句、消え去ってしまうと言うようなことも。
 

今回はそんな景観を紹介いたしましょう。死語という言葉があるならば、いつの間にか見かけなくなった、というような景観をなんと言おう? 死景? 待てよ、死景は語感が悪いか。ならば忘景はどうだ。あまりピンとこないが、まっ、それはどうでもいいか。
 

①の写真だが、昔は大きな駅前や、繁華街あたりでは当たり前のように見かけた靴磨きである。絶滅したわけではあるまいが、とんと見かけなくなってしまった。需要がないからなのかどうかは分からないが、いつの間にか消えてしまった――いや、消えてしまっていたのである。

 


①NIKON D100・52mm(35mm判換算78mm)で撮影・絞りF5.6・1/640秒・ISO200(撮影日時 : 2004年5月25日/新宿駅にて)

 

そして②はこちらもどこのデパートの屋上でも見かけることができた簡易遊園地である。今都内でこうした遊園地が残っているのは、JR蒲田駅前にある東急プラザの屋上だけではなかろうか?

 


②NIKON D3・35mm・絞り8・1/500秒・ISO200(撮影日時 : 2008年6月1日/渋谷区・東急東横デパートにて)

 

あたしが子供の頃はデパートに出かけるというのは、一大イベントであった。余所行きの服を着て、買い物をして、屋上の遊園地で遊んで、大食堂で食事をする。これは我が家だけに限ったことではなく、多くの家庭がそうであったに違いない。つまり今日、デパートへ行くということが顕著なイベントではなくなってしまったということであろう。昔と比べてデパートの店内を歩いている人の数は俄然減ったし、子供連れを見なくなってしまっている。となれば、屋上の遊園地はいらない、そういうことであろう。
 

③④も見かけない。氷屋さんが飲食店の前で氷をノコで挽いている姿にはかなりご無沙汰である。銀座の夕方などでは当たり前にあった風景である。④に写っているのはオートバイのサイドリアカーとでも言うのか、正式名称は知らないがこれも昔は良く眼にしたが、今は見かけない。主に畳屋さんだとかガラス屋さんが商売物を運ぶのに使っていたと記憶する。

 


③Panasonic LUMIX DMC-L1・14mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.0・1/15秒・−0.3EV補正・ISO100(撮影日時:2006年9月19日/江東区・門前仲町にて)

 

④OLYMPUS PEN E-P2・17mm(35mm判換算34mm)で撮影・絞りF9・1/13秒・ISO100(撮影日時:2010年5月21日/中央区・銀座にて)

 

⑤は担ぎ屋さんと呼ばれるおばさんである。あたしが銀座に住んでいる頃、毎朝のようにおばさんが現われた。かなり大きな荷物を背負って千葉方面からやって来ていたが、その労力だけでもかなりのものだったことであろう。その頃、京成線には千葉方面と高砂駅を結ぶ路線には、〇(マル)に荷と書かれたおばさんたちの専用列車がはしっていた。荷物を置きやすいように椅子が工夫された座席がある列車であった。

 


⑤SONY NEX-5・55mm(35mm判換算82mm)で撮影・絞りF5.6・1/125秒・ISO200(撮影日時 : 2010年12月6日/江東区・亀戸)

 

⑥はドブである。懐かしいのは、横に渡してある両壁の補強のためのコンクリートの桁である。子供の頃、近所(葛飾区)にはこうしたドブがかなりあった。このほそい角材を渡るというのが子供達の中では勇気を試す材料となっていた。さらに長ずると角材から角材へと飛んで渡るという子供の姿もあった。あたしも何度かやった記憶があるが、これには相当な運動神経が要された。と、お思いでしょ? ところが運動神経より、度胸がある方が勝ったんですよ。

 


⑥RICOH GXR・5.10mm(35mm判換算12mm)で撮影・絞りF4.1・1/133秒・−0.3EV補正・ISO200(撮影日時 :2010年2月19日/北区・神谷にて)

 

さて最後に⑦⑧⑨の写真だが、この建物、なんだかお分かりかな? 分かれば相当ですが、まず分からないでしょうね。正解は、もと遊郭の建物です。今都内ではほとんど見かけられなくなってしまった遊郭跡地。またそうした建物を見ても遊郭の建物と分かる人も少なくなってしまいましたがね。

 

⑦NIKON D80・20mm(35mm判換算30mm)で撮影・絞りF5.6・1/50秒・ISO100(撮影日時 :2006年9月19日/江東区・洲崎にて)

⑧NIKON D80・12mm(35mm判換算18mm)で撮影・絞りF5.6・1/80秒・ISO100(撮影日時 :2006年9月19日/江東区・洲崎にて)

⑨NIKON D80・12mm(35mm判換算18mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO100(撮影日時 :2006年9月19日/江東区・洲崎にて)

 

いや~しかし我ながらよくこうしたものを撮っておいたと思いますよ。これは第2弾ありですな。

 

●CD発売情報
なぎら健壱 CD ALBUM
「あれからずっと…」 ROOTS-015
「ぐるり万年床~あれから50執念~」 ROOTS-016
全国CDショップにて発売中!& デジタル音源配信中!
 
●書籍発売情報
『アロハで酒場へ ~なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ~』
判型四六判・1,815円(税込)・双葉社
 
●LIVE SCHEDULE
・12/23(土) 大岡山Goodstock Tokyo
・12/30(土) 吉祥寺マンダラ2
・2024年 2/25(日) CP+2024 @ パシフィコ横浜 ※トークショー出演

※「なぎらチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

 

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