top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第10回 気が気ではない樹!

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第10回 気が気ではない樹!

2022/12/20
なぎら健壱

『東京都目黒区八雲・氷川神社/呑川支流緑道』(2022年12月16日)


あたしの家から歩いて20分ほどの所にあるのが、目黒区八雲に鎮座する氷川神社である。境内の掲示によると、【創建の年代は詳らかではありませんが、内陣に文化14年(1817)奉納の記載があり、また社殿の改築が安政2年(1855)に行われているところからみて、かなり古いことがわかります】とある。また【この神社は昔から「癪(しゃく)封じの神」として広く信仰され、遠く下総や相模からも参詣人がつめかけ、栄えた神社です】ということで、かつてはかなりの人が行交ったことであろう。
 

最寄駅は東横線の都立大学駅であり、徒歩数分の距離である。奥ノ宮に続く参道の途中に、枯れたアカガシの巨大な根本が置かれている①。この旧ご神木のアカガシには、古くから癪封じのご利益があると信じられていた。煎じて薬にするためにアカガシの皮を剥ぐ参詣者が跡をたたなかったため、枯れてしまったと伝えられている。

 

①14mm(35mm換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO500・−0.3EV補正

 

 

社殿の右手を見ると、こちらもご神木なんだろう、老木が見られる②。

 

②12mm(35mm換算24mm)で撮影・絞りF7.1・1/80秒・ISO200・−0.3EV補正

 

樹齢何年なんだろうか、支えの添え木がなければ倒れてしまうだろう。側に寄って見ると、根に近い部分はかなり痩せてしまっている③。

 

③12mm(35mm換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO250

 

神社の人がいたらそのあたりを詳しく訊いてみたかったのだが、あいにく人影はなかった。またこの老木に関する説明もどこにもなかったが、かなりの時代を生きてきたことには間違いなかろう。
 

帰り道、呑川支流緑道を歩いてみた。呑川は四つの川を上流に持っており、昭和45年(1970)頃から暗渠化され、昭和53年(1978)頃までに緑道や道路に改修された④。

 

④12mm(35mm換算24mm)で撮影・絞りF7.1・1/640秒・ISO200・−0.3EV補正

 

普段は気にもせず歩いている緑道だが、先ほどご神木を眼にしていたもので、桜並木に眼がいく。季節ともなるとこの緑道の多くの桜が開花して見事な景観となる。ところが無下に根本付近で伐られてしまっている樹が結構あることを知った⑤。

 

写真左上から時計まわりに

⑤−1 13mm(35mm換算26mm)で撮影・絞りF4.0・1/125秒・ISO200

⑤−2 17mm(35mm換算34mm)で撮影・絞りF4.0・1/1250秒・ISO200・−0.7EV補正

⑤−3 18mm(35mm換算36mm )で撮影・絞りF5.6・1/250秒・ISO200・−0.3EV補正

⑤−4 16mm(35mm換算32mm)で撮影・絞りF5.6・1/250秒・ISO200・−0.3EV補正

 

なんで? 咄嗟に考え着いたのは3つの事例である。

 

1・老木で倒木する危険性があるから。
2・病気にかかっているから。
3・枝が通行や電線などの妨げになるから。
 

1は伐られてしまっている樹よりよほど古いと思われる大木が多く残っている⑥。

 

⑥23mm(35mm換算46mm)で撮影・絞りF5.6・1/800秒・ISO200・−0.7EV補正

 

2は専門家ではないので分らないが、元気そうに見えるのだが。3は通行や電線に影響する枝は伐採されている⑦。
 

⑦14mm(35mm換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/400秒・ISO200・−0.3EV補正

 

以前、駒沢通りにふた抱えではすまないぐらいの立派な桜の木があった。しかし幹が曲がって歩道の方にせり出していたもので、注意をうながす黄色と黒のテープでグルグル巻きにされていた。春には見事な花が咲いた。だが粗忽者が頭をぶつけたのか、ただ見た目で「危ない」と余計なことを言い出した人間が陳情したのか、立派な、町のシンボル的な存在だった桜の木は伐採されてしまった。駒沢通りが出来る前からあった大桜は、駒沢通りが出来る時も残されたのだが、軽率な人間のお陰で命を絶たれてしまった。
 

さて、緑道の桜の木はいかなる理由で伐られてしまったのだろうか――心ない人間のエゴでなければいいのだが……。

 

[共通撮影データ]OM Digital Solutions OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ

 

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

 

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