top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第8回 自由学園 明日館 ─ふたつの重要文化財に出逢えた日─

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第8回 自由学園 明日館 ─ふたつの重要文化財に出逢えた日─

2022/10/20
なぎら健壱

『自由学園 明日館(みょうにちかん)』東京都豊島区西池袋(2022年10月8日)

 

豊島区西池袋に所在する自由学園明日館(みょうにちかん)の講堂で、高石ともやさんの「小さなコンサート」と銘打ったステージがあり、そのゲストに呼ばれた。実はあたし、この自由学園明日館の存在を全く知らなかった。アールデコ調と言っていいのか、なかなかに趣のある建物である。1997年5月29日に国の重要文化財に指定されたが、当時建物の老朽化が進み、その荒れ具合は惨憺たるものだったらしい。1999年1月より38カ月かけて建物全体の補習、補強の保存修復工事を実施したらしいが、当時の資料が乏しく、建具などの色を竣工時の文献に合わせて復元したとある。

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・13mm(35mm換算26mm)で撮影・絞りF7.1・1/800秒・ISO200

 

記文によると、自由学園明日館は、1921年(大正10年)に、羽仁吉一、もと子夫妻により女学校として設立された。当時、帝国ホテルの設計のために来日していた、フランク・ロイド・ライトが、夫妻の自由学園の理念に共鳴し、校舎の設計を引き受けたということである。後に敷地が狭くなったことから、1925年(大正14年)頃より現在の東久留米市学園町に移転したというが、自由学園の校地として使用されたこの敷地は「明日館」と名付けられ、もっぱら卒業生による事業などに利用されていたらしい。

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・13mm(35mm換算26mm)で撮影・絞りF6.3・1/200秒・ISO200

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・21mm(35mm換算42mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・ISO 6400・−1.0EV補正

 

なんだか解説が長くなってしまったが、高石ともやさんとは久しぶりであった。よく覚えているのは、確か、ともやさんが古希を迎えたコンサートでご一緒させていただいた時のことである。それ以来一度か二度会ったような記憶もあるが、よく覚えていない。というのも、前後が混ざってしまっているからである。その高石さんだが、80歳を回ったのよ。つまり傘寿(さんじゅ)ってことですな。思い返せばまだあたしが高校生の頃、このともやさんに出合わなければ、あたしは違った方向へ行っていたかもしれない。傘寿を迎えたともやさんと一緒のステージを踏めることなど、当時としてはとても考えられませんでしたよ。1921年に建てられた自由学園明日館も凄いが、80歳を迎えて歌っているともやさんも凄い。なんだかふたつの重要文化財に出遭えたような気がする。

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・12mm(35mm換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO2000

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・23mm(35mm換算46mm)で撮影・絞りF2.8・1/60秒・ISO1600・−1.0EV補正

 

しかし、まだまだ知らないこうした建物ってのはあるもんですな。ここのように保存修復工事が入れば生き延びていくだろうが、そうでない物、時代の経緯や文化的価値から漏れていってしまった物。そうした建造物等、重要文化財にも指定されずになくなっていった物というのは結構あるんでしょうな。ということは、もう少し頑張れば文化財になりえたかもしれないが、そうでない時間の狭間で消えていった物ってことか……。

 

OM Digital Solutions OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・15.mm(35mm換算30mm)で撮影・絞りF5.6・1/60秒・ISO2000

 

 

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

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