top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第16回 記憶から遠ざかる町 その1

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第16回 記憶から遠ざかる町 その1

2023/06/20
なぎら健壱

東京は目まぐるしい変貌を遂げている。いや、これは何も東京だけにとどまらず、どこの都市でも同じようなことが起こっている。とは今までさんざん書いてきたことであるが、都会であればあるほど大規模な市街地再開発が行われ、あるエリア全体が消滅してしまうということなども珍しいことではなくなってきている。
 

東京でいえば日本橋界隈などはかつての面影など全くなくなってしまった。ここ何年も日本橋を歩いていて大規模な工事が行われていないのを目にしたことがない。常に現在進行形で街が変わっていっている。現在進行形と言えば、今の渋谷がそれであろう。もし何年も渋谷を訪れず突然街に置かれたとしたら、戸惑うどころではすまないのかも知れない。
 

我が町でも大規模ではないが、マイナーチェンジが行われている。新しくオープンした店舗等を目にして、「あれっ? ここ、前は何があったんだっけ?」と首をひねることもたびたびである。
 

街を歩いては景観をカメラで切り取っている。別に残しておこうだとか、いずれこの景観はなくなるであろう、などと思ってではない。気が向いたというか――大仰に言えば心が動いたとでも言おうか――そうしたものを写しているだけである。それが後日その前を通ってなくなっていることに気づく。不思議なことに写真に納めた場所というのは忘れないものである。常にその写真を見ているから忘れないのではなく、写真を撮ったその日から見返すことがなかったとしても、である。しかし、その写真を探すのが大変で、何年頃のどのフィルムに収まっているのか、あるいはデジカメのデータだとすると、どのフォルダに入っているのか思い出せず、頭を抱えることもある。
 

今回はそうした変わってしまった景観を定点で写した物を紹介しておこう。

 

①は日本カメラ誌に連載していた『町の残像』第1回目に登場した都内某所の旧遊郭の建物である。②は①の建物が取り壊された後に建った住宅である。前述を翻すようだが、①の建物は早晩なくなると思って撮ったと記憶する。2012年のことであるが、②はその翌々年の2014年に撮ったものである。

 

①Leica M9-P・ヘクトール28mmF6.3・絞りF11・1/30秒・ISO160(撮影日:2012年3月1日)

 


②OLYMPUS OM-D E-M1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mmで撮影・絞りF5.6・1/160秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2014年11月4日)

 

③は東京市内52箇所に設置された関東大震災復興公園のひとつである、中央区の京橋公園のすべり台である。震災後、小学校と小公園を併設させることにより防火帯と避難施設の役割を持たせようとしたものである。ということはこのすべり台は震災後直ぐに作られたものだが、写真からお分かりのように、ロープで囲われ使用は禁止されていた。実はあたし、公園に併設された京橋小学校(現在は統合されて京橋築地小学校)が母校であり、よくこのすべり台で遊んだ覚えがある。それが老朽化で使用禁止になり、やがて取り壊され、④のような味気ないすべり台になってしまった。

 


③Leica M9-P・レンズ不明・絞りF5.6・1/125秒・ISO160(撮影日:2010年7月3日)

 

④OLYMPUS OM-D E-M5・ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ・13mmで撮影・絞りF5.6・1/800秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2012年5月28日)

 

お次は三原橋にあった少女の銅像である(⑤)。いつまであったか記憶にないが、いつの間にか地下鉄の駅になってしまっていた(⑥)。⑥の右後ろに見えるのが晴海通りをくぐるように存在した三原橋地下街。『銀座シネパトス1・2・3』などの映画館や飲食店などが入居したが、2014年に地下街は閉鎖された⑦。よって今はこの景観とも違う。
 

⑤Epson  RD-1・レンズ不明・絞りF4・1/90秒・ISO200(撮影日:2007年3月23日)

 

⑥Nikon D3・レンズ不明・15mmで撮影・絞りF6.7・1/90秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2011年3月13日)

 

 ⑦Panasonic DMC-L1・レンズ不明・36mmで撮影・絞りF6.3・1/4秒・ISO100・−07EV補正(撮影日:2015年2月10日)

 

⑧は王子の飛鳥山公園下の脇道にあったさくら新道であり、好きな景観であった。できたのは、昭和20年代。往時は20軒以上の店が営業していたのだが、2012年に火事があり、3軒あった長屋のうちの2軒が焼けてしまい、そのため景色が一変してしまった。その影響で店もほとんど閉店を余儀なくされ、2019年に最後の店の灯りも消えた。2000年の3月に更地となり、一部は飛鳥山公園になる予定だという(⑨)。

 


 ⑧Panasonic LUMIX DMC-L1・レンズ不明・36mmで撮影・絞りF6.3・1/4秒・ISO100・−07EV補正(撮影日:2006年8月21日)

 

⑨Olympus  PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mmで撮影・絞りF6.3・1/80秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2020年12月1日)

 

さて、最後は三ノ輪にあった酒屋さん⑩。知った時にはすでに商売はやっていなかったが、なんともいえない好い佇まいである。電話番号も局番なしの4桁で、その上の雷文もいいですな(ラーメン丼じゃあありませんからね、万物を潤す雷雨から「不断長久」の意味)⑪。

 

⑩Sony NEX-5・E18-55mm F3.5-5.6 OSS・18mmで撮影・絞りF7.1・1/600秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2011年2月1日)


⑪Sony NEX-5・E18-55mm F3.5-5.6 OSS・18mmで撮影・絞りF7.1・1/25秒・ISO200・−0.3EV補正(撮影日:2010年12月11日)

 

で、⑫が取り壊されて住宅になった写真であるが、この住宅を見て冒頭にあるように「あれっ? ここ、前は何があったんだっけ?」となるんでしょうか? いくらなんでもこの酒屋は通る人みんな覚えているでしょう? でも⑪を撮ったのが11年前、今では酒屋の存在すらおぼろげになっているかもしれない。

 

⑫Nikon 1 V1・1 NIKKOR 10mmF2.8・10mmで撮影・絞りF5.6・1/100秒・ISO100・−0.3EV補正(撮影日:2012年1月14日)

 

●CD発売情報
なぎら健壱 レコードデビュー50執念記念ALBUM
「ぐるり万年床~あれから50執念~」 ROOTS-016
全国CDショップにて発売中!& デジタル音源配信中!
 
●書籍発売情報
『アロハで酒場へ ~なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ~』
判型四六判・1,815円(税込)・双葉社
 
●LIVE SCHEDULE
・6/24(土) 吉祥寺マンダラ2
・6/25(日) 100万本のアジサイ音楽祭@多摩あきがわLIVE FOREST
・7/1(土) Goodstock Tokyo
・6/10(土) 横浜サムズアップ
・7/15(土) 酒場巡礼ライヴ@そら豆(福生)
 
※「なぎらチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

 

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