top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第17回 記憶から遠ざかる町 その2

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第17回 記憶から遠ざかる町 その2

2023/07/20
なぎら健壱

古い写真を整理していたら①(撮影年・2007年)の写真が出てきた。写っているのは銀座松坂屋と街の景観である。しかしなぜこの写真を撮ったのか、まるで覚えていない。果たして何かの意図があったのだろうか? 松坂屋も頭の「M」の字は切れているし、銀座の町並みを狙ったのならば構図が悪い。いったい何を撮りたかったの?

 


①Nikon 1 V1・1 NIKKOR 10mmF2.8・絞りF7.1・1/800秒・ISO100・−0.3EV補正

 

松坂屋が閉店するから記録にということであろうか。撮影日は2012年(平成24年)2月3日とあるが、松坂屋の閉店は2013(平成25年)6月30日であるからにして一年以上の開きを考えても、そうではなかろう。もっとも今となっては松坂屋の姿も懐かしい。松坂屋跡地周辺は再開発によって大規模複合施設GINZA SIXとなり、2017年4月20日にグランドオープンとなった。
 

②(撮影年・2012年)の写真はGINZA SIX建設敷地の一角にあったBAR『TARU』である。③は店頭の貼り紙であり、【ありがとう。さようなら。そして、ラブ。】とあり、下方には【TARUは、平成25年(2013年)2月28日をもちまして、閉店させていただくことに、なりました。長年にわたるご愛顧、ありがとうございました。】と書かれている。巨大な商業施設が構える今、『TARU』の定点位置すら分らなくなってしまった。

 


②SONY Cyber-shot DSC-RX100・28mm(35mm判換算)で撮影・絞りF2.8・1/100秒・ISO125・−0.3EV補正

 

③SONY Cyber-shot DSC-RX100・28mm(35mm判換算)で撮影・絞りF1.8・1/60秒・ISO125・−0.3EV補正

 

こうしてつい見過ごしてしまうような情景を切り取った写真は、いずれ生きてくると思うのである。桑原甲子雄氏の写真が凄いのは、どこにでもある市井の景観や、日常の中にある人々を写したことにあると思う。つまり被写体は常に人々の眼の前にあるがため、みなの眼には留まることがなかったのに、あえてそこに視点を置いたことではなかろうか。ということは、その当時は被写体そのものが平凡であり、さして気にも留まらないものであったのではなかろうか。それゆえに経時と共に価値が生まれる――生まれた、ということだと思う。
 

都市は目まぐるしい勢いで変化しているとは前回書いたが、当然桑原氏の撮った時代よりそれはより遙かに加速している。何気なく撮っている写真にそれが顕著に現われるのではなかろうか。
 

④(撮影年・2007年)の写真はどこだと思いますか? どこあろう、現在東京スカイツリーが建っている場所である。で、⑤(撮影年・2009年)は工事中の写真で、当たり前にあった工事中の風景はさして人々の気持ちを引くものではなかったが、あたしはスカイツリー工事中の写真をかなり撮っている。もう撮ろうとしてもそれは叶わず、記録は記憶になってしまっている。

 


④NIKON D200・30mmF1.4・絞りF5.6・1/3秒・ISO800

 

⑤LEICA M8・レンズ不明・絞りF4・1/1000秒・ISO160

 

そして⑥(撮影年・2004年)は『赤坂サカス(東京都港区赤坂5丁目に所在する再開発複合施設)』の工事中の写真である。TBSラジオの収録の時眺めた風景であるが、今の赤坂サカスからはとても信じ難い眺めである。⑦(撮影年・2007年)はオープン前の景観である。

 


⑥NIKON D200・40mm・絞りF2.8・1/250秒・ISO100

⑦NIKON D3・24mm・絞りF5.0・1/160秒・ISO500

 

そうした何でもない写真だが時を追って見ると失われたものを写し取っており、よくぞこれを撮ることができたとほくそ笑むことになる。⑧(撮影年・2005年)と⑨(撮影年・2011年)との比較は池袋にかつてあった飲み屋街の人生横町であり、信じられないと思うが定点撮影である。

 

⑧RICOH GR Digital・絞りF2.4・1/20秒・ISO100

 

⑨RICOH GXR・A12 28mm F2.5・絞りF8・1/73秒・ISO200

 

⑩と⑪の比較は上野の駅前。

 


⑩EPSON R-D1・レンズ不明・絞りF4・1/832秒・ISO400

 

⑪OLYMPUS E-M5 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6 Ⅱ・14mmで撮影・絞りF5.6・1/800秒・ISO200

 

⑫(撮影年・2005年)と⑬(撮影年・2011年)は巣鴨新田だが、「15階反対」の幟がむなしく見える。

 

⑪NIKON D80・18mm・絞りF5.6・1/100秒・ISO100・−0.7EV補正

 

⑬SONY NEX-5・18mm・絞りF7/1・1/80秒・ISO200・−0.7EV補正

 

みな、その時はなんでもなかった写真である。しかしそれを時の流れが変える。定点で撮った時、それを如実に感じるのである。
 

写真愛好家のみなさん、都市の変化はおちおち出来ませんよ。明日撮ろうでは遅いですからね、今撮らなきゃ!

 

●CD発売情報
なぎら健壱 レコードデビュー50執念記念ALBUM
「ぐるり万年床~あれから50執念~」 ROOTS-016
全国CDショップにて発売中!& デジタル音源配信中!
 
●書籍発売情報
『アロハで酒場へ ~なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ~』
判型四六判・1,815円(税込)・双葉社
 
●LIVE SCHEDULE
・7/15(土) 酒場巡礼ライヴ@そら豆(福生)
・7/23(日) のら天音楽フェスティバル@江東区高橋のらくロード歩行者天国
・7/29(土) 吉祥寺マンダラ2
・8/27(日) 新宿南口フォーク集会@こくみん共済coopホール
 
※「なぎらチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する