top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第23回 公衆電話よどこへ行く

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第23回 公衆電話よどこへ行く

2024/01/21
なぎら健壱

日本カメラに連載していた『町の残像』の「赤電話」の章に登場した、喫茶店の前に置かれた懐かしい委託公衆電話である。なんとこの時、都内に2カ所しかないと聞いたが、今でもこの赤電話は健在である。

NIKON Df・SIGMA24〜70mm F2.8 DG HSM・絞りF2.8・1/15秒・ISO100・−0.3EV補正(撮影日時:2014年10月24日/東京都千代田区神保町にて)

 

公衆電話を見かけなくなってしまった。いや、実は見かけてはいるのだが、携帯電話やスマートフォンの普及で必要性がなくなり、眼の端に入ってこなくなったからなのかも知れない。確かにそうした要因もあると推測されるが、実際その数はドンドン減っている。80年代中頃には93万台ちょいあった公衆電話だが、携帯電話の普及によって利用者は減少。22年6月にNTT東西がまとめた資料では、設置場所の問題などもあり2031年度末までに約3万台まで減らすことになっているという。なんとピーク時の30分の1である。そんな〝今〟なのである。

 


なんのためにこの写真を撮ったのか皆目見当がつかない。撮影年月日を見ると、もう20年も前なんですね。Konica  KD-500Zは、確か3台目のデジタルカメラである。このカメラでデジカメに目覚めたと記憶しております。

Konica KD-500Z・39mmで撮影・絞りF2.8・1/73秒・ISO100(撮影日時 : 2003年4月11日/東京都渋谷区代々木八幡駅ホームにて)

 

あたしはたまにこんな夢を見る。事件現場に遭遇する――殺人事件かなんかである。急いで警察に通報しなくてはと思い、傍らの公衆電話に駆け寄り電話をする。震える手で慌てて110番にダイヤルをするのだが、最後の0番を間違えてしまうのである。1、1、ときて、最後の0番を遣損じて9と回してしまう。何やってんだよと叱咤し、再びダイヤルを回す。1、1、7、ああ~時報を聞きたいわけじゃないんだよ、警察だよ警察。ところが何回ダイヤルを回しても間違ってしまう。あるいは、1と1とダイヤルを回し最後の0を無事回し終えるのだが、ダイヤルの戻るのが異常に遅い、ジィ~~~~~~~~~ってなもんである。そのどちらかである。   

 

そういった夢に出てくるのはダイヤル式の公衆電話なのである。つまりプッシュ式の公衆電話にはあまり馴染みがなかったからなのかも知れない。つまり、自分が利用した公衆電話の経緯は、ダイヤル式なのである。

 


昔はどこの飲食店にもあったピンク電話。「ちょっと今日は仕事の都合で遅くなる」と奥さんに電話して、ついつい電話が店の音を拾ってしまって飲んでいるのがバレてしまう。これまたついぞ見かけない。
RICOH GR Ⅲx・絞りF5.6・ 1/30秒・ISO6400(撮影日時 : 2024年1月20日/東京都目黒区中目黒にて)

 

しかし携帯がない頃には往生した。飛行機に乗るべくタクシーで羽田へ向かう。高速道路は大渋滞であり、遅々として進まない。空港では多分、イライラしながらマネージャーが待っているはずである。高速から下りて一般道で公衆電話を捜せばいいのだが、その時間も勿体ない。気は焦るのだがどうにもならない。そんな時、今のように携帯を持っていればコミュニケーションが取れるのだが、携帯が流通し始めた頃は双方が携帯を持っているとは限らなかった。すなわち、タクシーの中のあたしが携帯を持っていても、マネージャーが持っていなければどうしょうもならなかったのである。やがて皆が携帯を持つようになり、公衆電話を利用する人が減ってしまった。

 

この写真は某誌にエッセイを連載していた時、東京駅八重洲口ことを書いた。写真もあたしが撮った写真を採用していてもらっており、その時の一枚である。何も考えずに撮ったのだが、公衆電話がなくなった今となっては貴重な一枚である。
Panasonic DMC-L1・32mmで撮影・絞りF2.8・1/80秒・ISO400・−0.7EV補正(撮影日時 : 2006年12月8日 /東京都千代田区東京駅八重洲口にて)

 

そうなると人は多くのことを携帯に委ねるようになった。最たるものが、電話番号を覚えていないということであろう――携帯が電話帳である。昔はそらで幾つかの電話番号を言うことができたが、今や自宅と自分のスマホの番号ぐらいしか覚えていない。 で、あたしはよもやの時のため頭に入っていない電話番号を手帳に書いてある。
 

というのも、ここ2、3年でよもやという時が2回ほどあった。1回はスマホの充電切れ、そしてもう1回はスマホを自宅に忘れての外出であった。2回とも、とにかく待ち合わせの相手に連絡を取らなければならなかった――待ち合わせの時間にどうしても間に合わないのだ。運良くその二人の電話番号は手帳に書いてあったもので、それは良かったのだが、どこかで電話をしなければならない。

 

これはどうした意図で撮ったんだっけ? 昔はこうした物あったよな、と懐かしい思いで撮ったのか、あるいは多分こうした物も早晩なくなると思って撮ったのかのどちらかであろう。母親の住宅が工事で、仮住まいの母親を訪ねた帰りである。その母親ももういない。
OLYMPUS PEN E-P2・45mm・絞りF6.3・1/30秒・ISO200(撮影日時 : 2010年5月10日/東京都江東区洲崎にて)

 

そこで捜したのが公衆電話である。ところが、ところがである――公衆電話が全く見当たらないのである。平素BOXの所在を気にしていなかったもので、あそこにあるという確信すらない。道ばたにBOXは見当たらないし、店頭にもない。どうする、焦ると共に時間は刻一刻と過ぎていく。

 


今でもよく見かける緑の公衆電話である。そうですよ、今でも見かけると思ってしまうんですが、実は見かけることが少ない。昨日まであった物がすでに遠ざかっているんですよ。嘘だと思うんだったら、町で探して見てください。
RICOH GR Ⅲx・絞りF5.6・1/640秒・ISO6400・−0.3EV補正(撮影日時:2024年1月7日/東京都足立区西新井大師にて)

 

結局駅に行けばどうにかなるだろうと、駅を目指した。さすがに駅には公衆電話がある。そこでことなきを得たのだが、実はことなきを得なかった。10円玉が凄いスピードで落ちていくので、話の途中で10円玉がなくなってしまった。今時、テレフォンカードなど持ち歩いていない。近所のコンビニに駆け込んで10円玉を調達。それ以来あたしはテレフォンカードを持ち歩いている。

 


これはつい先日の写真である。カラーだと色に締まりがなかったのであえてモノクロで撮った。さて、この公衆電話、一週間で何回使われたのであろうか? 多分あたしは一度も使われなかったのではなかろうかと思うのだが、果たして……。
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・絞りF2.8・1/800秒・ISO65535・−0.3EV補正(撮影日時 : 2024年1月15日/東京都世田谷区駒沢オリンピック公園にて)

 

公衆電話を知らない、使ったことがないという子供たちは8割を越えているそうである。その子供達が大人になった時、公衆電話を眼にすることがあったら、なんと言うだろう。最近は固定電話の解約数も増えているという。町からも家からも電話が消えてしまう時代が来るのであろうか?

 

●CD発売情報
なぎら健壱 CD ALBUM
「あれからずっと…」 ROOTS-015
「ぐるり万年床~あれから50執念~」 ROOTS-016
全国CDショップにて発売中!& デジタル音源配信中!
 
●書籍発売情報
『アロハで酒場へ ~なぎら式70歳から始める「年不相応」生活のススメ~』
判型四六判・1,815円(税込)・双葉社
 
●LIVE SCHEDULE
1/27(土) マンダラ2
・2/16(金) 三重県松阪市 LIVE HOUSE M’AXA
・2/17(土) 名古屋市TOKUZO
・2/25(日) CP+2024 @ パシフィコ横浜 ※トークショー出演
・3/9(土 横浜サムズアップ
・3/16(土) 大岡山Goodstock Tokyo

※「なぎらチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

 

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