top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第25回 早晩失くなる物

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第25回 早晩失くなる物

2024/03/20
なぎら健壱

この場所に、スカイツリーが建った。

Nikon D200・SIGMA 30mm F1.4 EX DC HSM/EX DC・30mm(35mm判換算45mmで撮影)・絞りF5.6・1/3秒・ISO800・JPEG(撮影日 2007年11月9日)

 

 

今年で17年になるだろうか、『東都寫眞團(とうとしゃしんだん)』なる写真好きの士が集まる会を主催している。『東都寫眞團』とはいささか大袈裟な名前だが、やっていることはたいしたことではない。2、3か月に一度会合を持ち、その都度作品を持ち寄る。提出作品は毎回お題が変わって、例えば「階段」というお題なら、それに準ずる写真を撮ってきて発表する。誰が撮ったかは名前を伏せて写真を並べる。そして各々が気に入った、琴線に振れた作品に投票する。投票数が多い人が発表される。とまあ、それだけのことなんですが、一位を取ることが出来ればやはり嬉しい。選ばれるにはそれなりの感性や技量がいるわけで、なかなか一位を取るのは難しい。

 

そして今回のお題が「早晩なくなる物」である。早晩とは「遅かれ早かれ」という意味であるからにして、被写体となり得るのはその内なくなってしまうだろう、と思われる景観や品物ということになる。

 

それでふと、「早晩なくなる物」はなんとなくこの「遠ざかる町」の連載にも当てはまるのではないかと思ったのである。ならば、なくなるであろう物を探してどこを歩こうか?――しばし考えていたのだが、東京スカイツリーの下あたりから、京島(墨田区の地名)を目指そうと思ったのである。以前は足繁く通ったエリアであるが、最近ちょっとご無沙汰である――コロナ以来足を向けていないかな? このあたりは下町色が色濃く残っている場所でもあるのだが、かなりの勢いで町が変わりつつある。よし、久しぶりになくなるであろう物を探しに行ってやろう。

 

スカイツリーは元々東武鉄道の、旧業平駅の資財置き場に使われていた場所に建てられた。建設が開始されたのは2007年で、5年後の2012年5月に開業を見た。ついこの間という感覚があるのだが、もう足掛け12年も経っているのである。(①)の写真は2010年11月26日に撮影した工事中のスカイツリーである。

 


①SONY NEX-5・E18-55mm F3.5-5.6 OSS・18mm(35mm判換算27mmで撮影)・絞りF5.6・1/100秒・ISO400・RAW

 

そして(②)は今のスカイツリーである(2024年3月14日撮影)。

 


②Panasonic LUMIX S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary・31mmで撮影・絞りF7.1・1/200秒・ISO100・RAW

 

スカイツリーを中心に放射状に町は変化を遂げている――言い換えれば、かつて町で見かけた昭和を彷彿とさせてくれるものがどんどん消えているということでもある。

 

待てよ、これだけ変わってしまっているということは、「早晩なくなる物」を紹介するよりも、「すでになくなってしまった物」を紹介する方がいいな、そうしよう。

 

ということで、かつては早晩なくなると思って写真に押さえておいたのだが、今は消えてしまったものをランダムに紹介していこう。とにかくスカイツリーの真下、押上の駅前は大きく変わってしまった(③2009年9月20日撮影)はかつての押上通り商店街である。

 


③OLYMPUS PEN E-P1・M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8・17mm(35mm判換算34mmで撮影)・絞りF8.0・1/250秒・ISO100・RAW

 

やがて工事が入った(④2011年12月5日)。

 


④LEICA M9・ズミクロンM35mmF2 ASPH.・35mmで撮影・絞りF5.6・1/360秒・ISO160・‐0.3EV補正・RAW

 

この時点ですでにアーチはない。(⑤2024年3月13日撮影)は今の景観である。

 


⑤Panasonic LUMIX S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary・53mmで撮影・絞りF6.3・1/160秒・ISO100・‐0.3EV補正・RAW

 

歩道も道路も広がった。緑の看板の不動産屋さん「ピタットハウス」は3枚共に写っている。

 

ふらふらと京島まで足を伸ばす。このあたりの道程、そして京島エリア、これまでかなりの枚数の写真を撮っているのだが、その変わり様に定点がつかめない。以前は目標とする建物があったのだがその目標も消えてしまっているのである。

 

ありゃ~長屋がない。いい感じの家屋だったが、消えてしまっている――このあたりだっけ? いい佇まいの長屋だったけど(⑥2006年6月26日撮影)、

 


⑥Nikon D200・17-50mm F2.8 EX DC OS HSM・22mm(35mm判換算33mmで撮影)・絞りF8.0・1/80秒・ISO100・RAW

 

それがありゃりゃりゃりゃってな景観である(⑦2024年3月14日撮影)。

 


⑦Panasonic LUMIX S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary・28mmで撮影・絞りF6.3・1/80秒・ISO100・RAW

 

前述の「以前は目標とする建物があったのだが」という言葉が分ってもらえますよね。

 

並んで別棟の長屋もあったのだが、ええ~っと、ここいらあたりだよな(⑧2003年11月23日撮影)。

 


⑧Nikon D100・AI AF Nikkor 28mm f/2.8D・28mm(35mm判換算42mmで撮影)・絞りF6.7・1/160秒・ISO100・RAW

 

ええ~っ、こちらもまるで面影がない。なんという変わりよう!(⑨2024年3月13日撮影) 

 


⑨Panasonic LUMIX S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary・47mmで撮影・絞りF5.6・1/500秒・ISO100・‐0.3EV補正・RAW

 

えっなんですって、これはいくらなんでも同じ場所じゃないだろう、ですって? ならば逆方向から見てみましょうか。ねっ、遠くのビルを見てみなさい、同じ場所でしょ(⑩2003年11月23日撮影)(⑪2024年3月13日)。

 


⑩Nikon D100・AI AF Nikkor 28mm f/2.8D・28mm(35mm判換算42mmで撮影)・絞りF6.7・1/180秒・ISO100・RAW

 


⑪Panasonic LUMIX S5・SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary・37mmで撮影・絞りF6.3・1/160秒・ISO100・‐0.3EV補正・RAW

 

待てよ、これって同じ人が住んでいるのかな? 現代の長屋なのかな? 次回までに調べてみるかな。

(👉続く)

 

 

 

 

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

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