クルーズ船から日本橋を見る。左手には船着き場の「滝の広場」があり、頭上には無粋な高速道路がはしる。
OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・12mm(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF5.6・1/100秒・ISO200・-0.3EV補正・RAW[撮影日時 2020/10/13]
4年前のことになるが、日本橋のたもとにある船着場「滝の広場」から神田川クルーズに参加したことがあった。あたしは東京の東側の案内には、まあちょっとは明るいと自負しているのだが、この日、始めて耳にすることをガイドさんから色々教えてもらい、なるほどとうなってしまった。
その日のガイドさん、以前あたしが江東区で「下町を識る」というような講演をやった時、会場でそれを聴いていたという。「今日はやりにくいなぁ」と言っていたが、なんのなんの、あたしにとってみれば知らないことだらけで、いい勉強になりましたよ。
船上からの見える風景は普段我々が眼にしている風景とは視線が異なり、平素見えないものが見えてくる。視線が違うだけで、こうも見えるものが違ってくるのかと、感心することしきりである。また普段水上交通を意識していないもので、水上を往くと、いかに東京は狭いことかと、これまた関心を強いられる。江戸の頃、府中に水路を張り巡らせて陸運よりも水運を重視したというのもうなずける。その水路も1964年の東京オリンピックの時、多くが埋め立てられてしまった。また日本橋川の上に高速道路を設えてしまった。日本の中心で、しかも象徴でもある日本橋が無残な姿になってしまったのは周知のごとくである。
乗船してしばし時間が経ち、後楽園の側に架かる後楽橋に差しかかった(①)。
①OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mm(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF6.3・1/200秒・ISO200・RAW[撮影日時 2020/10/13]
で、橋をくぐる時、ガイドさんの「橋の下から見ますと、アメリカ軍の爆撃による、その跡が見られます」という説明に、ボ~っと写真を撮っていたあたしは咄嗟にそちらにカメラを向けた。
「えっ? あからさまにこんな形で残っているんだ」あたしは驚かされた(②)。
②OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・13mm(35mm判換算26mmで撮影)・絞りF5.6・1/60秒・ISO10000・RAW[撮影日時 2020/10/13]
この時、戦後75年であった。戦後75年、あの時の傷跡がいまだにクッキリと刻まれていることは、驚き以外の何ものでもなかった。多分これは銃弾跡ではなく、焼夷弾ではなかろうか? 待てよ、焼夷弾であったらならば穴は開かず、焼け焦げが残っているはずだが、すると銃弾か?(日本橋にはこの焼け焦げがいまだに残っている)
建物、特にビルなどはまだ十分にビルとしての機能を全う出来るだろうと思われるのに取り壊されて、そこに新しいビルが建つ。都市開発などで、あるエリアが消える時、それをあからさまに眼にすることとなる。しかし橋となるとその限りではなく、川がある内はその存在を確かめることができる。川が消える時は橋も消える(全てではないが)。それでない限り橋は残る。ということは橋の架け替えとは容易ではないということであろう。架け替えるにはその隣に仮の橋を造り、道路を迂回させる。当然、そこにある建物等もどかさなければならない。
この後楽橋の弾丸跡も取り壊されることなく、そうして残ったのであろう。
そしてもうひとつ、神田川に架かる橋に残る弾丸跡を紹介しよう。鎌倉橋(東京都千代田区)である(③)。
③OM Digital Solutions OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ・16mm(35mm判換算32mmで撮影)・絞りF6.3・1/250秒・ISO200・-0.3EV補正・RAW[撮影日時 2024/5/14]
ここにある案内板には「1944年11月の米軍による爆撃と機銃掃射の際に受けた大小30個ほどあり」と書かれている。さすがに30か所は確認できなかったが、確かに修復されてはいるが、銃弾の跡を幾つか発見することができた(④)。
④OM Digital Solutions OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II・20mm(35mm判換算40mmで撮影)・絞りF6.3・1/1000秒・ISO200・-0.3EV補正・RAW[撮影日時 2024/5/14]
しかし言われなければそれが銃弾の跡かどうかは分からないだろう。都会の、それも往来が激しいこの場所にこうした傷跡が残っているのだ。
お次は、皇居を挟んだ反対側、千代田区平河町にある平川天満宮(⑤)。
⑤OM Digital Solutions OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・18mm(35mm判換算36mmで撮影)・絞りF5.6・1/200秒・ISO200・+0.7EV補正・RAW[撮影日時 2024/5/14]
入り口には銅板で囲まれた鳥居があり、そこにある案内板には「左右の柱木には丸く銅板が欠損し、内部の石が露出している部分があります。これは戦時中、空襲の際の機銃掃射によるものです」とある。鳥居の横に回って見ると、確かに銃弾の跡があるのが発見できた(⑥)。
⑥OM Digital Solutions OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROⅡ・20mm(35mm判換算40mmで撮影)・絞りF2.8・1/60秒・ISO200・RAW[撮影日時 2024/5/14]
ここもか! この神社は戦火で焼失したが、銅板で囲われた鳥居だけは残った。
今度は、ちょっと場所が離れた、目黒不動尊である。目黒不動尊(滝泉寺・目黒区下目黒)の境内に立って右手を見ると、子守延命地蔵尊が眼に入る(⑦)。
⑦SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS Vario-SonnarT* 8.8-25.7mmF1.8-2.8・19.5mm(35mm判換算53 mmで撮影)・絞りF2.8・1/60秒・ISO125・RAW[撮影日時 2024/5/10]
お地蔵さまとしてはかなり大きい方だと思う。延宝年間(1673~80年)本海、山海、暁海の木喰三上人が願主となって、鋳造されたものとある。木喰(もくじき)とは、米殻を断って、木の実などを食べて修行することを言う。
左側からお地蔵様の右腕を見ると、確かに銃弾とおぼしき跡が見られる(⑧)。
⑧SONY Cyber-shot RX100Ⅲ・ZEISS Vario-SonnarT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・25.7mm(35mm判換算70 mmで撮影)・絞りF2.8・1/80秒・ISO125・RAW[撮影日時 2024/5/10]
しかしお地蔵様に機銃掃射とはバチ当たりな……。この時、一般市民の何人かが銃撃を受け、亡くなったと聞いた。是非バチが当たっていてもらいたい。
最後は沖縄である。旧中城御殿(なかぐすくうどぅん)は琉球王国時代の世子(せし・国王の世継ぎのこと)の邸宅であった。16世紀前半に建設された中城御殿は、二百年以上にわたって世子殿(せしでん)の役割を担ったが、沖縄戦で御殿は炎上してしまい、現在は弾痕のある石垣だけが残っている(⑨)が、その跡が生々しい(⑩)。
⑨OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mm(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF5.0・1/160秒・ISO200・RAW[撮影日時 2019/2/5]
⑩OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO・12mm(35mm判換算24mmで撮影)・絞りF5.0・1/125秒・ISO200・RAW[撮影日時 2019/2/5]
足早に先の太平洋戦争の傷跡を幾つか紹介してきたが、まだまだこんなものではないはずである。戦後79年、「戦争を忘れるな」の戒めであるのかもしれない。それならば、こうしたものからは、遠ざかってはいけないと思わざるを得ない。だんだん消えていくかも知れないが、あなたの心からは風化させるなよ!
●CD発売情報
なぎら健壱 CD ALBUM
「あれからずっと…」ROOTS-015
「ぐるり万年床~あれから50執念~」 ROOTS-016
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●LIVE SCHEDULE
5/25 (土) マンダラ2
6/1 (土) 吉祥寺スターパインズカフェ
6/8 (土) 横浜サムズアップ
6/13 木曜日&6/14金曜日 静岡 風の街※2DAYS
6/15 (土) Goodstock Tokyo
6/22(土) 秩父ホンキートンク
6/29 (土) マンダラ2
8/31(土) 新宿スペースゼロ(新宿南口フォーク集会)
※「なぎらチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html
1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。
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