なぎら健壱の「遠ざかる町」

第37回 朽ち果てる

2025/04/18
なぎら健壱

西品川(東京都)

SONY Cyber-shot DSC-RX100・ZEISS バリオ・ゾナーT*10.4-37.1mmF1.8-4.9・10.4mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF5.6・1/13秒・ISO100・RAW[撮影日 2012年6月25日]

 

 

 

朽ち果てるという言葉がある。朽ち果てるとは、ボロボロになって尽きるということである。それだけでなく、経時とともに腐って廃れるとか、耐えて忘れ去られるなどいろいろな解釈がある。

 

 

行田(埼玉県)

OLYMPUS OM-D E-M5・M.ZUIKO DIGITAL ED12-50mmF3.5-6.3 EZ・15mm(35mm判換算30mm)で撮影・絞りF5.6・1/500秒・ISO200・RAW[撮影日 2013年3月4日]

 

 

人間に対する朽ち果てるとは、虚しく人生を終える。世に知られずに生涯を終える。衰えて忘れ去られる、と、こちらも様々であるが――どの解釈も哀れを通り越して、あまりにも切ないですけどね――朽ち果てたくない。

 これを家屋などに例えると、老朽化にともない風化すること、ということになろうか。まあ、風化して朽ちるより先に、人為的に取り壊される運命にあるとは思いますがね。

 

 

行田(埼玉県)

OLYMPUS OM-D E-M5・M.ZUIKO DIGITAL ED12-50mmF3.5-6.3 EZ・15mm(35mm判換算30mm)で撮影・絞りF5.6・1/400秒・ISO200・RAW[撮影日 2013年3月4日]

 

 

今治(愛媛県)

OLYMPUS STYLUS XZ-10・4.7-23.5mmF1.8-2.7・4.7mm(35mm判換算26mm)で撮影・絞りF5.6・1/200秒・ISO100・RAW[撮影日 2013年3月7日]

 

 

現在全国で住む人もなく、朽ち果てていくのを待つばかりの家屋が増えていると聞く。家屋は人が住まなければ、どんどん劣化していく。何が理由なのかは知らないが、昔からそう言われている。風通しの悪さ、それに伴うカビなどの発生、雨漏りの放置といろいろ考えられるが、すべて正しいのかもしれないし、他の理由があるのかもしれない。

 

北品川(東京都)

LEICA M8・絞りF5.6・1/90秒・ISO160・RAW[撮影日 2009年11月16日]

 

 

北品川(東京都)

LEICA M8・絞りF5.6・1/90秒・ISO160・RAW[撮影日 2009年11月16日]

 

 

朽ち果てていくのを待つばかりのそんな家屋が多いのは、大きな都市から離れた地方の農村地区にそれが顕著だと聞いた。

 


そうした家屋というのは、当然住む人を失ってしまったからに他ならないが、家人が老年とともに絶え、それを受け継ぐ人がいないのが現実ではなかろうか。家人が絶えてしまう理由は家主の老年化以外にもあるだろうが、諸々の事情でもって過疎化を生む。少子高齢化や地域で生まれ育った子どもたちの都市部などへの人口流出、地域コミュニティの衰退などが考えられる。最近では都市部からの出戻りの人たちも増えているとは聞くが、全体から見れば大した数ではないだろう。

 

 

玉島(岡山県)

Panasonic LUMIX GX7 MarkⅢ・LUMIX G VARIO 12-32mm/F3.5-5.6 ASPH./MEGA O.I.S.・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.0・1/200秒・-0.66EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2018年3月27日]

 

 

ちなみに日本の過疎化進行は、全国の半数近くの市町村が過疎化となっており、日本の面積で言えば、なんと国土全体の6割弱だという。これはゆいしき問題である。大きな都市から離れた地方の農村地区にそれが顕著他で、と書いたが、都市の商店街おけるシャッター通りなどという問題もある。

 

 

コザ(沖縄県)

OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL ED 12‐40mm F2.8 PRO・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/40秒・ISO1600・RAW[撮影日 2019年2月5日]

 

 

家を建てた時、新築の家に対して家主はそこに夢や希望を見出したに違いない。商店などの場合は、野望さえもあったかもしれない。新しい家に、そこに暮らせることに夢を託し、これからの生活に家族との楽しみを思い巡らせていたに違いない。

 

 

等々力(東京都)

RICOH GRⅢx・GR LENS 26.1mmF2.8・26.1mm(35mm判換算40mm)で撮影・絞りF4.5・1/100秒・ISO100・RAW[撮影日 2021年4月8日]

 

 

日比谷公園(東京都)

OM Digital Solutions OLYMPUS OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12‐40mm F2.8 PROⅡ・20mm(35mm判換算40mm)で撮影・絞りF6.3・1/100秒・-0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年1月15日]

 

 

やがて当初の思いも希薄になってしまったその頃になると、修繕、リフォームなどが必要になるだろう。家はそれを繰り返して永らえていく。「老朽化なんだ」とため息の先にあった家は伊吹を取り戻し、この先さらに何年か頑張れる。そうした家が朽ち果てていく。住人も――住人だった人も、家自体も寂しさの中にいることだろう。夢が、野望があった家は風化し、朽ち果てる。さぞかし口惜しいことだろう。

 

 

本庄(埼玉県)

OLYMPUS OM-D E-M1MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mmF4.0 IS PRO・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/125秒・ISO200・RAW[撮影日 2018年6月5日]

 

 

今回紹介した写真はランダムに選んだ過去に撮り続けた写真である――すでに姿を消しているかもしれない。こうした写真はまだまだある。いずれ折があれば紹介しよう。

 

 

長野市(長野県)

SONY Cyber-shot DSC-RX100 MarkⅢ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・8.8mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/30秒・ISO1600・RAW[撮影日 2023年10月6日]

 

 

長野市(長野県)

SONY Cyber-shot DSC-RX100 MarkⅢ・ZEISS バリオ・ゾナーT*8.8-25.7mmF1.8-2.8・8.8mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/30秒・ISO2500・RAW[撮影日 2023年10月6日]

 

 

で、話は変わるが、実は、我が家でもこうしたことが深刻な問題なのである。カミさんの実家なのだが、誰も住む人がいない。両親が亡くなった今、カミさんも兄姉も実家から遠ざかってしまった。よって実家の面倒を見ることができない。そこで、もらってくれる人がいれば喜んで土地も家屋も進呈しよう(畑も山もある)。しかもタダ同然である。これは冗談ではなく、まぎれもないまじめな話なんです。どうか朽ち果てる前に……。誰かに住んでもらわないと、固定資産税がたまらないのよ。場所は島根県の農村地帯です。PCTの編集部、移転を考えましょうよ。ちょっと不便ですが、家賃いらないんですよ。しかしその家屋の写真が残念ながらないのよ。

 

 

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

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