top コラムなぎら健壱の「遠ざかる町」第4回 『雑司が谷駅近くにあった蔵』─ 16年間の定点観測記録 ─

なぎら健壱の「遠ざかる町」

第4回 『雑司が谷駅近くにあった蔵』─ 16年間の定点観測記録 ─

2022/06/20
なぎら健壱

『雑司が谷駅近くにあった蔵』東京都豊島区雑司が谷             (2006年8月13日〜2019年10月30日)

 

都内唯一のチンチン電車、都電荒川線(現・東京さくらトラム)の沿線の写真を一冊にまとめたのが、拙著『町のうしろ姿』(岳陽舎)である。発売が2006年の12月とあるので、まもなく16年の歳月が経たんとしている。しかし早いですよ。
 

今回は雑司が谷駅近くにあった蔵に触れてみようと思う。この蔵のことは、以前『日本カメラ』に連載していた『町の残像』においても筆をとっている。
 

雑司が谷と言えば、雑司ヶ谷墓地の最寄りの駅ということとなり、その頃は今よりもかなり緑に恵まれていた。その時の写真が①であり確かに緑が多く、その先には蔵が写っている。なんとなく池袋から近いこの場所に似つかない景観だと思ってシャッターを切った。

 

①Nikon D80・NIKKOR AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-135mm F3.5-5.6G(IF)(18mm[35mm判換算27mm]で撮影)・絞りF8.0・1/60秒・ISO100(撮影日 2006年8月13日)

 

ところが近寄って、唖然とした。遠目でも蔵の全面が蔦に覆われているのは分かったのだが、蔦は青々としていない。近づいていって撮影したのが、②の写真である。確かに蔵全体が蔦に覆われてはいるが、枯れて色を失っている――撮影は8月である。見ると蔦は下のほうで見事にバッサリ切られている。しかも切られたのは最近ではなかろう、かなり時間が経っているように見て取れた。ということは、この蔵は早晩取り壊されるのではなかろうか、そんな思いがした。

 

②Nikon D80・AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-135mm F3.5-5.6G(IF)(18mm[35mm判換算27mm]で撮影)・絞りF5.6・1/50秒・ISO100・+0.3EV補正(撮影日 2006年8月13日)


 

この場所を通るたびにそれを感じていたのだが、どっこい蔵は取り壊されることもなく、ただ周りの景観が変わるごとに、その佇まいに違和感を覚えるようになっていった。堂々としていた蔵は、何かちんまり身をすくめているように感じたのである。
 

③の写真では目の前にフェンスが立てられている。これは新しく道路が作られるためで、このあたりの風景は道路工事一色になっていく。最初の①②の写真を撮った時、すでに、いたるところにフェンスが張られて、通行を拒むようになっていた。時間とともにそれは顕著になり、永い時間をかけての工事が始まった。

 

③SONY NEX-5・E 18-55mm F3.5-5.6 OSS(37mm[35mm判換算55mm]で撮影)・絞りF7.1・1/80秒・ISO200(撮影日 不明)

 

そして④の写真ではカメラ側から見ると、それをシャットするように青いシートが張られ、前に建物が建つような按配である。蔵はその存在を否定されるようになり、ついには⑤の写真のように横に回らなくてはその佇まいに気が付かないようになってしまった。

 

④Nikon Df・35mm F1.4(35mmで撮影)・絞りF5.0・1/500秒・ISO200(撮影日 2014年4月22日)

 

⑤OLYMPUS OM-D E-M10 MarkII・OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 9-18mm F4.0-5.6(9mm[35mm判換算18mm]で撮影)・絞りF6.3・1/200秒・-0.3EV補正・ISO400(撮影日 2015年1月5日)


あたしは都電沿線の写真を撮っている頃から、ここを通るたび、蔵の存在が気になって仕方がなかった。そして存在を目にする度、なぜかほっとさせられるのである。「頑張っているな!」と。

 

そして⑥の写真である。蔵がなくなっていることに愕然とした。半年ほど前には確かにあった。その写真も撮っている。ついにその日が来たかと、力が抜けたようになり、⑦のシャッターを切った次第である。

 

 

 


OLYMPUS PEN-F・OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 EZ(17mm[35mm判換算34mm]で撮影)・絞りF5.6・1/200秒・ISO200・-0.3EV補正(撮影日 2019年10月30日)

 

 


OLYMPUS PEN-F・OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 EZ(14mm[35mm判換算28mm]で撮影)・絞りF5.6・1/80秒・ISO200・-0.3EV補正(撮影日 2019年10月30日)

 

 

 

  • ◉写真展
    なぎら健壱 写真展「偶然に出遭えること!」
    会期 2022年7月6日(水)〜7月23日(土) 15:00〜21:00 ※最終日7月23日は18:00閉館
  • 会場 Kiyoyuki Kuwabara AG(http://kkag.jp)
     
  • ◉書籍
    「なぎら健壱 バチ当たりの昼間酒 その4」(思い出食堂コミックス)
    なぎら健壱(著)  魚乃目三太(イラスト)
    只今絶賛発売中!
  •  
  • ◉LIVE SCHEDULE
    6月25日(土) 吉祥寺マンダラ2 (https://www.manda-la2.com)
    6月26日(日) ポプルス ガレージ ライブ2022June
  •         (https://www2.popls.co.jp/pop/garage/schedule.html)
  •  
  • 「なぎらチャンネル」
  • https://www.youtube.com/channel/UCFCz3lDO-hXCb1NnVwTsgpA
  • ※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

 

Profile

なぎら健壱

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する