なぎら健壱私家版「Tokyo In a Moment」
2023年のCP+の会場でトークショウを行った。その時モニターに投影した写真が「偶然をとらえる」というものであり、それに沿った話をした。
あたしの私家本『Tokyo In a Moment』の巻頭に「瞬間を捉えた、あるいは偶然と遭遇する写真が好きなのである。その時カメラを持って居られたこと、またその瞬間にシャッターを切れたことに対して、「よし」と自分を納得させることができる。(中略)瞬間そして偶然は作ろうとしても作りようがなく、創出すればそれはやらせになってしまう。しかしその瞬時をカメラが抑えていれば、そこにそれは留まっている。瞬間は記憶のかなたにあったとしても、その時間はそこに残っている。確かに、瞬間がそこにあるのだ」と書いた。
まさにそうした写真が好きなのである。三脚を構えて何分も、あるいは何時間も粘る写真は好きになれない(自分は、である。他人様がどう撮ろうと勝手です)。
前掲のように「チャンスに恵まれて、よく撮れましたよ」「カメラを持っていてよかった」が自分の狙うべき写真であり、醍醐味だとも思っている。当然すべての写真がそうではないが。
このフォトエッセイはなくなりつつある、あるいはなくなってしまった景観や建物を中心に紹介している。タイトルにある「遠ざかる町」にのっとって案内をしている。主に過去の写真からそうした写真をチョイスしているのだが、今回色々物色していたら、「よくぞこれを写した」というか、「写せた」という写真が何枚か眼に入った。そこで今回はちょっと通常とは違った趣向で、番外編として、「よくぞこれを写せた」という写真を紹介しましょう。
①RICOH GR ・18.3mmF2.8・18.3mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF8.0・1/400秒・-0.3EV補正・ISO100・RAW
[撮影日 2014年7月2日]
まずTOP(①)の写真だが、これは拙著『町の残像』(日本カメラ社)の中でも紹介しているが、あたしがローアングルで東京駅の駅舎を狙っていたら、女性が偶然眼の前を横切った、という予期せぬ写真である。普通、地面すれすれでカメラを構えていたら、眼の前を通らないと思うんですけどね。しかし被写界深度もバッチリで、よくこれが撮れましたよ。
②OLYMPUS PEN-F・M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 EZ・19mm(35mm判換算38mm)で撮影・絞りF6.3・1/1250秒・-0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2016年8月11日]
(②)の写真も白い壁にカメラを向けていたら、見事なアングルで3人が横切ったという意図としない写真であるが、自分で言うのもなんだが見事な写真である。写そうという意思があったのなら、壁に正対するんですがね。いかんせん偶然ですので、壁に対して真っ直ぐではないのが残念。この①と②はCP+のトークショウで紹介した写真である。
③Nikon D200・AI AF-S Zoom Nikkor ED 28~70mm F2.8D(IF)・52mm(35mm判換算78mm)で撮影・絞りF5.6・1/5秒・ISO100・RAW[撮影日 2006年3月12日]
さて(③)の写真ですが、喧嘩か何かしているとお思いですか? いえいえ、無銭飲食をした人物が捕り抑えられているところです。この後どうなったかは知りませんが、多分お巡りさんが駆け付けたんでしょうな。
④Nikon D7000・SIGMA 30mmF1.4 EX DC HSM・30mm(35mm判換算45mm)で撮影・絞りF4.5・1/40秒・-1/3EV補正・ISO1600・RAW[撮影日 2011年4月6日]
④の写真は皇居ですが、よく見ると白壁が損傷しております。全く報道されませんでしたが、東日本大震災(2011年3月11日)の時、皇居も被害を受けていたんですね。車の中から咄嗟にカメラを向けたもので、ピンは甘いしアングルは悪いしで、ひどい写真ですがそこはご愛嬌ということで。
⑤OLYMPUS PEN E-P1・M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6・22mm(35mm判換算44mm)で撮影・絞りF5.6・1/640秒・ISO100・RAW[撮影日 2009年7月30日]
(⑤)は隅田川にかかる新豊橋(しんとよはし)。北岸は東京都足立区新田(しんでん)、南岸は北区豊島ということで、両岸の地名にちなんで新豊橋。2007年(平成19年)3月24日に開通で、この写真を撮った時にはすでに開通しているわけである。「ただの橋の写真じゃないか。この橋がどうかしたのか?」ですって? よく見て下さいよ、橋の上を……。アップの写真で見てみましょうか(⑥)。
⑥OLYMPUS PEN E-P1・M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6・42mm(35mm判換算84mm)で撮影・絞りF5.6・1/800秒・ISO100・RAW[撮影日 2009年7月30日]
ねっ女の子がアーチを歩いているでしょ? さらにアップをするとピースサインをしている(⑦)。
⑦OLYMPUS PEN E-P1・M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6・21mm(35mm判換算42mm)で撮影・絞りF6.3・1/400秒・ISO100・RAW[撮影日 2009年7月30日]
凄いな~女の子ですよ。
今、都会から煙突がなくなっている。銭湯も煙突から煙をモクモクやっていると、洗濯物が汚れるとかでクレームがつくらしい。以前、と言っても10年ぐらい前のことですかね、煙突の写真を撮りに歩いたことがある。あたしが主催している東都寫眞團なる会がある。毎回お題を出し合ってそのお写真を撮ってみんなで評をするという会なのだが、ある時のお題が「煙突」であった。安易に選んだお題だったが、とにかく煙突を撮ろうにも都内に見当たらず往生したことを覚えている。
⑧SIGMA dp2 Quattro・30mm F2.8・30mm(35mm判換算45mm)で撮影・絞りF7.1・1/160秒・-1/3EV補正・ISO100・RAW[撮影日 2014年11月4日]
そして(⑧)の写真だが、銭湯だと思うが煙突の解体作業である。あたしはそれまで煙突を建てる時の様子も解体する時の様子も見たことがなかったので、しばし足を止めて眺めていた。
眺めていたといえば、「セーラー服おじさんに眺められていたのが、スカイツリー下のサテライトスタジオでの写真(⑨)。
⑨FUJIFILM X-Pro1・フジノンレンズXF18-55mmF2.8-4 R LM OIS・32.9mm(35mm判換算49mm)で撮影・絞りF5.6・1/25秒・ISO200・RAW[撮影日 2012年12月16日]
このおじさん、小林秀章さんと言ってかなり有名な方で、2011年からセーラー服を身にまとうようになったというから、この写真を撮った1年ほど前ということになる。アップで(⑩)。
⑩FUJIFILM X-Pro1・フジノンレンズXF18-55mmF2.8-4 R LM OIS・32.9mm(35mm判換算49mm)で撮影・絞りF5.6・1/25秒・ISO200・RAW[撮影日 2012年12月16日]
セーラ服にミニスカート、ヒゲをオサゲにとかなり傾(かぶ)いている格好だが、顔出しOKなの? とご心配の貴兄、平気です。インターネット上に数多く登場しております。「セーラー服おじさん」で検索して見て下さい。興味あるプロフィールが展開しておりますよ。
さて、こちらは顔出し不味いでしょう。お酒に酔って大の字。よく見ると股間が濡れております(⑪)。
⑪Nikon D100・36mm(35mm判換算54mm)で撮影・絞りF2.8・1/10秒・ISO1600・RAW[撮影日 2004年5月24日]
そしてこちらのおじさんは、側溝の蓋を開けて中を物色中(⑫)。
⑫SIGMA DP1・16.6mm F2.8 ・16.6mm(35mm判換算28mm)で撮影・絞りF9.0・1/200秒・ISO100・RAW[撮影日 2008年7月5日]
場所が凄いですよ。旧新宿アルタの向かい側。車道に身体を投げ出しているけど、車平気なのって状態。自分が落とした硬貨を拾っているわけではなくて、「落ちていないかな?」って願望で探しているんでしょうな。
そしてもう1枚おまぬけ写真。こいつのズボンどうしちゃったの?(⑬)
⑬iPhone 3GS・3.9mm (35mm判換算約35mm)で撮影・絞りF2.8・1/15秒・ISO613・JPEG[撮影日 2010年6月5日]
ギャングファッションでもないし。一時若者がズボンを腰骨の下で履くのが流行った。だらしなくてみっともなかったが、あれがギャングファッション。アメリカで刑務所に入る時、自殺防止等の理由でベルトを取り上げられる。そんでもってズボンがずり下がる。それがギャングファッションと呼ばれ、日本にも飛び火してきて若者が模して、だらしないズボンの履き方が流行った。このズボンを腰骨の位置で履くファッションスタイルが「腰パン」とも呼ばれた。日本の若者はわけも分からずアメリカの真似をしていた。しかしこの若者のズボンは腰パンではなかろう。それとも腰パンなのかな? この半ケツが腰パンだったら、最低だな。
最後は猿回しの猿とコンビを組むお姉さんとの抱擁(⑭)。
⑭Nikon D200・AF-S DX VR Zoom-Nikkor 18-200mm F3.5-5.6G IF-ED・130mm(35mm判換算195mm)で撮影・絞りF5.6・1/90秒・ISO100・RAW[撮影日 2010年6月5日]
心温まる写真です。昔は動物虐待と言ってもいいほど残酷な方法で芸を教えたと言いますが、この写真を見る限りそうではなさそうですね。
やはり瞬間は面白い! 今は万人がスマホで写真を撮る時代。ニュース番組などでも一般人が撮った映像画面が流されている。スマホもいいけど、カメラ持って歩きましょうよ。Googleなんぞ、写真の編集を売り物にしているが、あれじゃ写真じゃありませんよ。邪魔なものが写っているのも写真ってこと分からないのかね? スマホの写真はやっぱりスマホの写真。どうしても写真の重みが違いますよ!
- ●CD発売情報
- なぎら健壱 NEW ALBUM
- 「下町ブギウギ」ROOTS-017
- 11月26日 発売決定!
- NEW ALBUM先行配信シングル「Downtown Boogie」配信中!
- https://ultravybe.lnk.to/downtown-boogie
- ●なぎら健壱 写真集発売中
- タイトル : 「Tokyo In a Moment」
- 価格 : ¥2,200 (税込)
- ※ライブ会場にて発売中!
- ●LIVE SCHEDULE
- 9/20 (土) 南浦和 宮内家
- 9/27 (土) 吉祥寺マンダラ2
- 10/11 (土) 大岡山Goodstock Tokyo
- 10/25 (土) 吉祥寺マンダラ2
- 11/1 (土) 亀戸文化センター カメリアホール
- なぎら健壱コンサート2025 下町情歌part 20
- 11/21 (金) 京都 磔磔
- 11/22 (土) 愛知県岩倉市 かがよひ
- 11/23 (日) 三重県四日市 GALLIVER
- 11/29 (土) 吉祥寺マンダラ2
- 12/13 (土) 横浜サムズアップ
- 12/20 (土) 大岡山Goodstock Tokyo
- ※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html
1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。
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