OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF7.1・1/320秒・+0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
墨田区押上1丁目1-2、さてこの住所にあるものと言えばなんでしょう? 勘のいい方はもうお分かりだと思いますが、そう、東京スカイツリーの所在地である。元々この場所には、東武鉄道の貨物列車ヤードと貨物駅跡地があった。周辺は商店やら住宅やらが立ち並ぶ、つまり人が息吹いている生活の場であったわけだ(①)。

①OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/125秒・+0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
東京タワーが増上寺の一部と、そこに隣接していた能楽堂『紅葉館』などの跡地に建ったことを考えると、まるで立地条件が違っている。生活空間と片や緑地である。
昔、40年以上も前の話なのだが、知人に頼まれ某政党の機関誌を配って歩いたことがあった。それを墨田区の広範囲に渡る家々のポストに入れて回った。そしてこの押上近辺にまで足を延ばして、見知らぬ場所に足を踏み入れたのである。結構な広い敷地に同じ形式の木造の一戸建てがズラ~っと並んでいた。昔はよく見かけた、平屋の公共住宅であった。3階4階建ての鉄筋の公共住宅が多く見受けられるようになる以前の話である。道の真ん中に消火栓だかがあり、車が往来出来ない作りであった。東京の郊外でよく見かけた住宅だが、こうした住宅がまだ残っていたんだと妙な関心をさせられた。その時、「おっと、こうした住宅、しばらく眼にしていないよな。これは早晩なくなるに違いない。よし、近い内に写真を撮りに来よう」と思ったのを覚えている。
でもまあ、急ぐことでもないだろう。今日明日でなくなるわけでもあるまいし。写真を撮って歩いたことのある方ならお分かりであろう。こうした隙を見せると、あっという間に風景は失われてしまう。結局撮らずじまいであった。今はその場所すら分からない。返す返す残念でならないのだが、こうして取り損ねた被写体の方が、シャッターが巧く切れた写真よりも、残念さを覚えているというのも不思議なものである。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回はその東京スカイツリーがある押上駅から気ままに歩いて、遠ざかる町にそぐうようなものを探してシャッターを切ってみようと思う。
普段あまり歩かないコースを行ってみようと、歩みを進めていると、「あれ? 踏切がなくなっている」そう、踏切があった場所は高架線になっている。ということは、かなり長い間この辺りを歩かなかったということになる(②)。

②OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・15mm(35mm判換算30mm)で撮影・絞りF6.3・1/320秒・‐0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
「そういえば、なぜかこの方向にはしばらく足を向けていなかった」と、景観の変わりようにも納得がいく。踏切があった頃と現在の場所を定点で比べたいのだが、この踏切の写真など撮っていないよな~、とあきらめる。待てよ、ここって以前、列車の通過待ちをしている猛暑の中の女性の写真を撮ったっけ。帰って探してみよう。それが(③)の写真である。

③OLYMPUS OM-D E-M1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO ・40mm(35mm判換算80mm)で撮影・絞りF5.6・1/2000秒・‐1.7EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2014年7月25日]
ちょっと歩くと、まだ高架線は工事中であった(④)。

④OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・23mm(35mm判換算46mm)で撮影・絞りF6.3・1/1000秒・‐0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
ということは、直ぐそばにある踏切もいずれはなくなるということですな(⑤)。

⑤OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/400秒・‐0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
その踏切を渡って京島を目指す。
途中写真に収めたい景観とは、まるで出くわさなかった――カメラを手に歩いているあたしを見て、何をしているのかといぶかしがるのだろう、何人かの人に「なぎらさんですよね、今日はどうしたんですか?」と声をかけられた。こうして声をかけてくる人が多いというのも、下町エリアの特徴でもある。
おっと、この『京城料理 食堂園』、もうかなり前から営業をしていない(⑥)。

⑥OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/200秒・‐0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
何年ぐらいになる? 20年以上前からやっていないよな――ずっとこの姿である。壊すわけにもいかないのかな。帰って以前の写真と比べてみた。ほとんど変わっていないのだが、よく見るとひさしであるテントの鉄パイプがなくなってしまっていることが分かる(⑦)。

⑦SONY Cyber-shot DSC-RX1・ZEISS ゾナーT*35mm F2 ・35mmで撮影・絞りF5.6・1/500秒・‐0.3EV補正・ISO100・RAW[撮影日 2014年10月14日]
そしてこちらのお宅、何の変哲もないお宅に見えるが(⑧)、

⑧OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/160秒・‐0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
アップにすると、ドアの上の紋やコンクリートで作られた西洋の柱を模した施しが時代をうかがわせて素敵である(⑨)。

⑨OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/80秒・-0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
お次は空き地に置かれている屋台なのだが、なんのために放置されているのであろう? またなんの屋台だったのだろうか?妙に気になった(⑩)。

⑩OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・40mm(35mm判換算80mm)で撮影・絞りF6.3・1/80秒・+0.3EV補正・ISO400・RAW[撮影日 2025年11月15日]
その道を挟んだ逆側には、なんだか分からないが、大きな手の形をしたものが置かれている。とてもオブジェには見えないし、芸術性はまるで感じられない(⑪)。

⑪OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・19mm(35mm判換算38mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO1600・RAW[撮影日 2025年11月15日]
これこそ何のために置かれているのだろうか? よく見ると、指は折れないように、なのだろうか、クランプのようなもので止められており、また倒れないようにパイプで固定されている(⑫)。

⑪OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・19mm(35mm判換算38mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO1600・RAW[撮影日 2025年11月15日]
何で出来ている? コンクリート? モルタル? まさか土ではあるまい。おいおい、本当にこりゃなんなのよ? 「遠ざかる町」ではなく「遠ざかっちゃっている物体」である。
橘キラキラ商店街にあるそば屋の『五福屋』さん、閉っちゃったのね。いい様子のそば屋だったんですけどね。貼り紙に「10月で閉めました 御自由にお持ち帰りください」とある。店で使っていた備品を置いてあったんでしょうな。みんなが持ち帰り、すでに何もなかった(⑬)。

⑬OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・15mm(35mm判換算30mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO2000・RAW[撮影日 2025年11月15日]
京島界隈、ちょっと路地に入れば、こうしたブルーのトタンに囲まれている住宅が多くあったが、ここ10年でほとんどが姿を消してしまった。今やほんの数件しか残っていない(⑭)。

⑭OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
そしてこのあたりのお宅は庭を持たないので、路地などに植木鉢を置いている。また洗濯物の物干し台はこうして家の前にあるのが普通であった(⑮⑯)。

⑮OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・23mm(35mm判換算46mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO500・RAW[撮影日 2025年11月15日]

⑯OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・17mm(35mm判換算34mm)で撮影・絞りF6.3・1/125秒・+0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
しかし未だにこれを使っているのであろうか?
で、この写真は共同アパートである(⑰)。

⑰OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/80秒・+0.3EV補正・ISO200・RAW[撮影日 2025年11月15日]
昔はそれこそいたるところで見かけた、懐かしいアパートである。トイレも洗面所も共同であった。当然風呂はなく、銭湯を利用したものである。アパートの名前を書いた木札も今や風化してよく読めない。眼を凝らして見ると、「みやこ荘」とある(⑱)。

⑱OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO500・RAW[撮影日 2025年11月15日]
一体何年ぐらい前のモノなのだろうか?
けれども、今回紹介した景観は東京の西側にはまず残っていない(最初からなかったのか?)。しかし東京の東北側にはまだまだこうしたものが残っている。もっとも、足を踏み入れるたびに遠ざかってしまっている。今なら間に合う……いや、どうですかね?
押上駅から出発して京島、文花と歩き再び押上駅まで戻った。結構歩いたな、と歩数計を見るとあらら……(⑲)。

⑲OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ・12mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF6.3・1/60秒・+0.3EV補正・ISO800・RAW[撮影日 2025年11月15日]

◉今回のお供は……
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO Ⅱ。撮影日は、2025年11月15日
- ●CD発売情報
- なぎら健壱 NEW ALBUM
- 「下町ブギウギ」ROOTS-017
- 11月26日 発売決定!
- NEW ALBUM先行配信シングル「Downtown Boogie」配信中!
- https://ultravybe.lnk.to/downtown-boogie
- ●なぎら健壱 写真集発売中
- タイトル : 「Tokyo In a Moment」
- 価格 : ¥2,200 (税込)
- ※ライブ会場にて発売中!
- ●LIVE SCHEDULE
- 11/21 (金) 京都 磔磔
- 11/22 (土) 愛知県岩倉市 かがよひ
- 11/23 (日) 三重県四日市 GALLIVER
- 11/29 (土) 吉祥寺マンダラ2
- 12/13 (土) 横浜サムズアップ
- 12/20 (土) 大岡山Goodstock Tokyo
- 12/27 (土) 吉祥寺マンダラ2 ※年末恒例オールリクエスト大会
- ※TOTAL INFO : http://roots-rec.s2.weblife.me/index.html

1952年、東京生まれ。70年、アルバム『万年床』で、フォークシンガーとしてメジャーデビュー。以後ラジオパーソナリティー、俳優、エッセイスト、タレントとして活躍。写真やカメラにも造詣が深く、写真家の顔も持っている。『町の残像』(日本カメラ社)など著書も多数ある。


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