この「書棚の片隅から」も、いつの間にか40回を超えました。それを記念して、というのはこじつけですが、今回は、ちょっと気になる頒布物をいくつか取り上げたいと思います。
とある人気ラジオ番組に「棚からひとつかみ」というコーナーがありますが、それに倣って、書棚の片隅からひとつかみといった趣で、紹介してみましょう。
まず、ユニクロのフリーマガジン『LifeWear magazine』。
第10号となる2024年春夏号のインタビュー・コーナー「Hello, Daido」では、森山大道が登場していました。
Q&A形式でシンプルにまとめられていて、サクサク読み進めることができます。少し抜粋して引用してみましょう。
Q2. 路上スナップの心得とは?
とにかく単純に見たら撮る。見たら(シャッターを)押す。
Q11. 写真は芸術ですか?
芸術だと思ってもらってもいいですし、思わなくてもいい。
Q13. 写真を撮り始める前のウォーミングアップで日々やっていることは?
ないよ(笑)。
Q15. グラフィックTシャツは好きですか?
結局ミッキーがいたり、キャンベルスープがいたりさ、自分のなんとなくの好みのものを着ていますよね。ミッキーマウスは子どもの頃から好き。
Q21. 写真がうまくなるためにはどうしたらいいですか?
目の前のものをとにかく撮る。一枚でも多く撮る。
回答は、冒頭のみを引用しました。ウェブ版の「Hello, Daido」もありますので、興味を持ったら、ぜひ続きを読んでみてください。
同じ号では「Earthy Tones」と題した、近代写真の父アルフレッド・スティーグリッツのパートナーとしても知られる、ジョージア・オキーフの作品と生涯を振り返った記事があったり、第12号となる2025年春夏号では、マグナム・フォトのココ・キャピタンのインタビュー・コーナー「Hello, Coco」があったりと、写真好きにも見逃せない雑誌になっています。
次は、銀座百店会の会員店店頭で無料配布されている冊子『銀座百点』。
商店街で配布されている冊子を見つけたときには手に取ることが多いのですが、そうした冊子の代表的なものが1955年創刊という歴史を持つ、この『銀座百点』だといえるでしょう。
2024年10月号(839号)の巻頭座談会「令和にも昭和を——自由とぬくもりがあったこと——」には、庶民文化研究所所長であり写真家としても有名な町田忍が登場しています。
町田 戦後、二十年代から三十年代にかけてのわずかなあいだに白黒テレビ、電話、洗濯機、掃除機が一般家庭に普及し、暮らしに大きな変化がありました。日本の歴史の中で、特権階級の人ではなく、庶民の生活がいちばん変わった時期といえます。ぼくはそのど真ん中に少年時代を過ごしました。
このような実体験をもとにした発言が楽しめる座談会になっています。「今回、カラーページでぼくのコレクションから秀逸なモノたちを紹介しています」とのことで、「昭和30年代メモワール——なつかしのモノ大集合——」という特集では、都民の日のカッパバッジ、ダイヤル式黒電話、電気アイロン、グリコのおまけ、ブリキのおもちゃ、籐製の乳母車などの写真が掲載されています。
『銀座百点』では、森岡書店の森岡督行による、銀座の写真の場所を検証したり、撮影者を調べたりする連載「森岡写真探偵団」も必見です。同号では、お見合いで行った喫茶店に飾ってあったという写真を、階段の壁にあった古いモノクロ写真、アップルパイという、たったふたつの情報から、見事探し当てています。
最後に紹介するのは、岩波書店のPR誌『図書』。
創刊はなんと1938年で、90年近い伝統と歴史がある冊子です。こうした出版社のPR誌は、書店のレジ横で実質無料で頒布されることが多く、かつては各社の冊子が並んでいたものですが、次々と休刊したり、ウェブに移行したりで、ずいぶん少なくなってしまいました。そんななかでも『図書』は刊行を続けているのが嬉しいですね。
けっこう前の号になりますが、900号となる2023年12月号の表紙は、杉本博司による、昭和天皇の蝋人形のポートレートです。2022年1月号より、杉本博司のポートレート・シリーズが『図書』の表紙を飾ってきましたが、その連載の終わりでもあるこの号で綴られた、次のような言葉が印象的です。
私はこのポートレート・シリーズで魂なき人形に一分の魂を吹き込もうと努め、歴史上の一瞬を再現してみようと試みた。歴史は歴史を咀嚼した人々によって築かれる。今私達がそうしているように。歴史はいつもあらぬ方向へと向かう。(完)
この号では、志賀理江子の「みんなモモだった」というエッセイも掲載されています。こうして、雑誌で偶然、写真家のテキストに触れるのは楽しいものです。
今回はこのあたりで。いずれまた頒布物をまとめて紹介する機会があるかもしれませんので「その1」としておきましょう。
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