top コラム書棚の片隅から5 『アサヒカメラ』1975年4月号増刊 「現代の写真 '75 近代写真の終焉」

書棚の片隅から

5 『アサヒカメラ』1975年4月号増刊
「現代の写真 '75 近代写真の終焉」

2022/05/09
上野修

なにを買っても面白いのがカメラ雑誌のバックナンバーですが、今回は、ひさびさに捲ってみたら発見があった、『アサヒカメラ』1975年4月号増刊の「現代の写真 '75 近代写真の終焉」を取り上げてみたいと思います。
 

『アサヒカメラ』では、毎年増刊号で「現代の写真」を特集していた時期がありました。本書も、そのひとつです。

 


 

特集は、次のようなリードの、「座談会 近代写真の終焉」からはじまっています。

 

1960年代以降、奔流のように噴き出した写真表現の多様なあり方は、ひとつの時代が終わったことを物語っています。1972年、「写真よさようなら」と言い放った森山大道も、新しい時代をになう写真家の一人でしょう。写真がもはや、単独の表現領域にとどまり、孤立して「芸術性」追求に明け暮れている時ではありません。写真は広く大衆社会に浸透し、貪欲に体験され、消費されているのです。「これからの写真」を考えていくために、あえて「近代写真の終焉」をテーマにとり上げてみました。

 

座談会のメンバーは、伊奈信男・金丸重嶺・渡辺勉。現在からみると、近代写真を支えてきたような顔ぶれです。内容としては、近代を捉え返すというよりも、近代写真の終焉をキーワードに、同時代の動向を考えるようなものになっています。
 

 

ページを捲っていくと、ニコン F2とキヤノンF-1という、フラッグシップ機のライバル機が見開きで掲載されている広告があります。黒を基調としたトーンも同じなので、あえてぶつけてあるのでしょうが、今ではこういう趣向はありえないですね。トキメキます。

 


 

アサヒペンタックスの広告の隣からはじまるのは、アジェの口絵。こういうのも、グッときますね。

 

 

「現実に向かう私の眼」という口絵で登場するのは、篠山紀信、荒木経惟、東松照明、森山大道、北井一夫。錚々たる顔ぶれの巨匠たちですが、当時の年齢的には中堅です。

 


 

さて、発見があったというのは、「表現される空間 メディアとしての写真展」のページ。シミズ画廊での展示や、『「写真についての」写真展』、『「写真から写真へ」展』、『15人の写真家展』など、ときどき言及される展覧会の会場写真が掲載されているのです。しかも、掲載サイズも大きい。こういう会場写真というのは、なかなか見る機会がないし、あっても小さな図版なので、ちょっと興奮しました。というか、なぜいままで気づかなかったのでしょう。別の関心で見ていたのでしょうね。

 


 

石元泰博の「私とライカ」の広告もいいですね。「いつの間にか優雅な気分になってしまうようなカメラ」と綴られていますが、カメラを持っている姿もさりげなくてじつに優雅です。

 


 

巻末には、技術編と称して「座談会 転換期の表現とメカニズム」が掲載されています。こちらのメンバーは、北代省三、小倉磐夫、吉山一郎、米谷美久。カメラの自動化が進む一方で、若い人があえて6×6や8×10使う傾向について、次のような発言がありました。

 

米谷 かつては写真はうまく写らなかった。うまく写すことに必死だったですね。そこに写真術も生まれ、本も、専門家も出てきた。ところが、最近はうまく写るのが当たり前で、だれがやっても写る。それに対しての抵抗というのか、いかにして写さないようにするか、まあ、写さないというのは失礼ですけどね、われわれが追求していることと真っ逆さまの撮影をされる。そんなのに出会うと、われわれの技術の行き方が違っているのかなと思うような場面にも遭遇する。しかしそれを否定してはいかん、これは人間にやっぱり必要なある部分ではないか……と。それがすべてじゃないわけですけどね。

 

表現をめぐる巻頭の座談会、技術をめぐる巻末の座談会、どちらも、今日にも通じるようなことを話題にしているのが興味深いですね。

 

 

裏表紙は、「いい色、ありあり。」というコピーの、サクラカラーの広告。「近代写真の終焉」と「いい色、ありあり。」、その共存に、時代性が浮かび上がっているような気がします。

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