巨匠と呼ばれる写真家の場合、存在が大きすぎて、どこから触れたらいいのかわからない場合も多いでしょう。もちろん、生涯を俯瞰した入門的な一冊があれば、それもいいのですが、まとまりすぎていて、どうもリアリティに欠けているように感じてしまうこともあります。
その点、同時代に出版された本には、その時代のリアリティが浮かび上がっています。1956年に『フォトアート 臨時増刊』として出版された『木村伊兵衛読本』は、まさに当時のリアリティが凝縮した一冊だといえるでしょう。
「現代写真家読本」シリーズとして企画されたもののようで、ということはつまり、木村伊兵衛がバリバリの現代写真家だった時代ということですね。このシリーズの2巻目として、『土門拳読本』が刊行予定になっていますが、こちらは出版されず、「現代写真家読本」シリーズは1巻のみで終わってしまったようです。
撮影風景などが収録されているのはもとより、似顔絵まで掲載されているのは、スターというか、アイドルというか、人気の高さがうかがわれます。『木村伊兵衛読本』は、いわばファンブックのようなものだったのかもしれません。
内容も盛りだくさんなので、紹介したいページも多いのですが、今回はまず、目次を引用しておきましょう。ほぼ完全版になっていると思います。こうして目次を見るだけでも、木村伊兵衛の影響力の大きさがうかがわれるのではないでしょうか。次回より、内容を抜粋したいと思います。
木村伊兵衛傑作鑑賞 伊奈信男
下町情緒の名人芸 名取洋之助
木村伊兵衛になにを望むか 渡辺勉
木村伊兵衛作品論 重森弘淹
伊兵衛さんの表情 中島健蔵
妖花伊兵衛 三浦直介
むざんに切りすてられた写真 太田英茂
むかしみたまま4人集
坊ちゃん刈の講堂落語家(少年時代の木村伊兵衛) 野崎昌人
うるさ型のアマチュア写真家(ヤマト写真倶楽部) 間宮精一
愛嬌たっぷりの自画自賛(雑誌「光画」と木村伊兵衛) 野島康三
くりひろげられる乞食の宴会(中央工房から国際報道写真協会へ) 原弘
座談会 戦後派作家のみた木村伊兵衛
出席者 大竹省二・三堀家義・樋口進
江戸ッ児木村伊兵衛 桑原甲子雄
木村伊兵衛とのアッシジ行 亀倉雄策
三脚かついで 田沼武能
「裸婦を写す」の発禁 永井嘉一
文壇のひとびと
志賀直哉の「耄碌」
外遊で会った写真家 S・A
外遊のあしあと
「集団フォト」とは
一〇〇円会費の二十日会
木村伊兵衛のもらった菊地寛賞と芸術選奨とはどんなものか
夫を語る妻の座 大好物の八丁味噌 木村久子
作品集六つの紹介 ライカを通して見た日本・四人の日本画家、王土楽土、六代目尾上菊五郎舞台写真集、木村伊兵衛傑作写真集、木村伊兵衛外遊写真集
木村伊兵衛年譜
口絵グラビア・今日の木村伊兵衛・特写 田沼武能
風刺・精神年齢診断 相浦勝
似画・百変化 直木久蓉
作品鑑賞のために 木村伊兵衛
——傑作の生れた前後——
農村「秋田」の撮影行 岩田幸助
ライカ以前のカメラ遍歴 木村伊兵衛
対談 ヌードフォトについての意見 木村伊兵衛・福島辰夫
あれから二十年(二人の女性がみた木村さん)
無欲な芸術家 井上節子
着流しの小父さん 池谷秀
随筆七人集
すっぽん料理 小林博
会長のこと 山田広次
きらいな暗箱 吉川富三
かくし芸 光墨弘
ロマンスグレイ 伊藤逸平
特写 阿部正一
グラビア
木村伊兵衛の作品活動・渡辺勉
木村伊兵衞傑作鑑賞・伊奈信男
表紙写真・田沼武能
表紙題字・高橋錦吉
目次カット杉山健一
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