top コラム書棚の片隅から34 『ハリー・キャラハン写真展』

書棚の片隅から

34 『ハリー・キャラハン写真展』

2024/10/21
上野修

なぜだかわからないけれど、手放すことなく、ずっと持っている写真集というものがあります。『ハリー・キャラハン写真展』は、そうした写真集の一冊です。

 

編集・発行は西武美術館となっていますが、開催は池袋の西武美術館ではなく、船橋の西武美術館。ハリー・キャラハンとは、どういう写真家なのかも知らずに船橋まで出かけ、このカタログをぶら下げて帰ってきたのを覚えています。

 


 

といいたいところなのですが、会期を確認したところ、1983年5月28日から6月21日で、行けるはずがなかった日程でした。では、私はこのカタログをどこで入手したのでしょうか。池袋の西武美術館で購入したのか、昔は少なかった美術書関連の書店で購入したのか。
 

「日本の美術展覧会記録1945-2005」というデータベースで、船橋西武美術館の展覧会を検索してみたところ、1989年に『デイヴィッド・ホックニー展』が開催されているので、このあたりの展覧会を見たときに購入したのでしょうか。調べていたら、よけいに記憶があやふやになってきました。

 


 

さて、写真集に戻りましょう。展覧会の開催当時、ハリー・キャラハンはどのような位置付けの写真家だったのでしょうか。巻頭のあいさつを引用してみましょう。

 

キャラハン氏は、1912年、アメリカ合衆国ミシガン州デトロイトに生まれました。20代後半、独学で写真に取り組み始めた頃、写真家のアンセル・アダムスと出会い、写真が自分の人生の意味を形成するものだという確信を得ました。1946年、バウハウスの精神を継承するシカゴ・デザイン研究所の教授に迎えられ、後にプロヴィデンスのロード・アイランド・デザイン学校へ移り、1977年に職を辞すまで、写真家としてだけでなく教育者としての多彩な活躍で、国際的な名声を博しています。
氏の追求する対象は、写真の持つ可能性と自己の感覚が交差する点に向けられています。その作品は経験に基づく直感や実在感があふれる一方で、普遍的な完璧さをも包括し、見る側に静かなそれでいて強い共感を呼び起こします。
本展は、妻エレノアや娘バーバラを題材にしたり、都会の非人間的な存在の力を表現した“Chicago”のテーマや、自然の調和を創造的に示す“Nature”のテーマの作品などに、近作のカラー作品を加えて、キャラハン氏自身が選択した代表作110点で構成されています。40余年の作家活動の軌跡を回顧する展覧会は、改めて氏の写真芸術に対する偉大な功績を認識する絶好の機会でもあり、また今後の写真芸術の発展に、何らかの示唆を与えるものと確信いたします。

 

あいさつに続いて、「ハリー・キャラハンに聞く」というインタビューが収録されています。聞き手は、シェリー・ライスで、「1983年4月15日 プロヴィデンス、ロード・アイランドにて」とあります。展覧会の1ヶ月半ほど前のインタビューが、カタログに収録されているというスピード感がすごいですね。

 


 

このインタビューは、とても率直で親しみやすい内容になっています。たとえば、本格的に写真に取り組むきっかけになったアンセル・アダムスについて、次のように述べています。

 

彼はとても話し上手でしたね。私は、彼の作品にいたく感動しました。夢中になったかどうかは、良く覚えていませんが、おそらく写真の素晴らしさを知ったのです。確かではないのですが。何度も思い返してみると、現在のアンセルのプリントよりも、その当時のプリントの方が私は好きです。最近、彼のプリントは、当時にくらべると、さらに大胆で、ドラマティックになってきましたので、私はそれほど好きではないのです。その当時、彼のプリントは、11"x14"が二、三枚あるだけで、ほとんどが8"x10"かそれ以下にプリントされていました。そのほとんどはコンタクトプリントで、美しく繊細でした。本当に素晴らしかった。写真協会で彼の作品にふれ、何かふっきれたと感じました。

 

キャラハンの作品の特徴は、いわゆる作風と呼ばれるものに縛られないことですが、そのことについての言及もあります。

 

これまで写真を撮ってきた方法で、決して留まらず、同じことを繰り返さず、何かを試みてきたのです。これが、私が一つのことから次のことへと移る基本的な理由だと思います。ただ、決して留まりたくないがために。その時は、どうしてなのか、などとは考えてもみませんでした。しかし、「自然写真家」にはなりたくない、「人を写す写真家」にもなりたくない。何か一つの枠にはめられた作家になりたくないと思ったのです。このようにして、私は都市の作品から自然へ、自然からエレノアへと移っていきました。この変遷が、私が写真を続ける上での一つの形式になっていったのだと思います。

 

 

このカタログをなぜ買ったのか、よく思い出せないのですが、おそらく理由のひとつは安かったからだと思います。たぶん2000円くらいだったのではないでしょうか(大幅に間違っていたらごめんなさい)。情けない理由ですが、洋書の写真集が高かった時代に、手頃な価格というのはかなり魅力的だったはずです。

 

 

ソフトカバーで100ページ強という軽さもいいですね。中身も薄いかというと決してそんなことはなく、程よいバランスで、何度見ても飽きません。キャラハンの作風なき作風にとてもマッチしているように感じます。もちろん、田中一光の表紙デザイン、太田徹也のレイアウトも魅力的です。

 

 

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