top コラム書棚の片隅から1 『写楽祭グラフィック』3号、「ふたりのカメラ アベックフォトガイド」

書棚の片隅から

1 『写楽祭グラフィック』3号、「ふたりのカメラ アベックフォトガイド」

2021/12/13
上野修

書棚の片隅にある、なんだか気になる本を取り出して紹介する、人気ラジオ番組の定番企画「棚からひとつかみ」ならぬ、「棚からひとつまみ」のコーナーです。

 

今回紹介するのは、富士フイルムの『写楽祭グラフィック』3号、「ふたりのカメラ アベックフォトガイド」。

 

『写楽祭』とは、1960年代に刊行されていた富士フイルムのPR誌で、有名なサントリーのPR誌『洋酒天国』に似た装丁の冊子。『洋酒天国』の創刊が1956年なので、影響を受けて制作されたのでしょう。

 

「ふたりのカメラ アベックフォトガイド」の内容は、1963年発売のフジカハーフの活用法。『写楽祭グラフィック』は、『写楽祭』の派生シリーズとして、こうしたガイドなどが制作されたのではないかと思われるけれど、この3号しか見たことがないので、じっさいのところはわかりません。

 

現在、ほとんど死語になっているアベックを一応説明しておくと、カップルという意味。ふたりでカメラを楽しもうというコンセプトですね。

 

ちょっとポエムっぽい、こんな巻頭言からスタートしています。

 

誰もが、肩にカメラをもって歩く時代です。写真が、たのしい日の
なによりの記録だということを、
みんなが知っているからです。
二人のデートのときにも、
グループでの旅行にも、
家族そろってのときも勿論です。
しかし、そのなかで、ただひとり
カメラマンだけが、ちょっと淋しい思いをすることがあります。
いつも写す役ばかりで写されることが余りにも少いからです。

 

カメラマンが写真に入れない問題。このあたりは、昔も今も変わらないのです。それを解決してくれる画期的な機能が、セルフタイマー。富士フイルム公式サイト*によると、ハーフサイズカメラが普及したのが1959年頃で、フジカハーフは、ハーフサイズカメラ市場に参入した機種。「ハーフサイズカメラとしては初めてセルフタイマーを装着した」ということで、大きなセールスポイントになっているのです。と、ちょっと口調も似てきちゃう(笑)

 

気軽に、いつでも二人きりの、カメラマン自身も入っている楽しい
写真が撮れないものか、
そんな悩みに答えてくれるカメラが、やっと出来ました。
セルフタイマーがついている、すばらしいカメラです。
コンパクトなカメラで、しかも完全EE。
フジノンレンズの素晴らしさは、小さなハーフサイズの原板からも
ピントのいい、すてきな写真を作ります。二人のマスコットカメラ
フジカハーフが誕生したのです

 

セルフタイマーを使うには、三脚が必要になる。掲載されている撮影シーンを見ると、使われているのは、昔懐かし、アンテナのようにカチカチ引き伸ばす小型三脚。このタイプの三脚は、セルフタイマーを内蔵した小型軽量のカメラのために誕生したのかもしれないですね。いまでも売っているものの、使っているのはあまり見かけなくなりました。

 

「誌上最大のS・T(セルフタイマー)作戦」と題して、ノリノリでセルフタイマーの楽しみ方を提案しているけれど、読者もノリノリで読んだのだろうか。

 

たとえば、12秒のセルフタイマーから、そこまで盛り上げる?っていうくらいのストーリーを綴っているのが面白い。

 

この12秒間、短いようで長い。ジーイといってるとき、二人は、ふたりだけの世界をひしひしと感じるにちがいない。この2秒、大事になされ
二人の思いの、通じあう、熱い熱い時間です。

 

フジカハーフの上位機種で、スプリング巻き上げ方式で連続18コマの巻き上げを実現した、フジカドライブも紹介されている。

 

ボディ下部の巻上げノブを一杯にまくと、なんと連続18枚が、1秒1コマの割合で撮影できる。シャッターを押す、写る、そのフィルムがさっと自動的に巻上げられる、次のフィルムがくる。またシャッターを押す。といった具合に、いちいちフィルムをレバーで巻上げる必要がない。
めまぐるしく変る彼女の表情や、動きなどをとらえるには、これがもってこいだ。

 

どのくらいの人が、じっさいに連写したのだろうか。「20枚撮フィルム1本から一度に40枚のカラープリントをすることは、ユーザーにとってむしろ多すぎる場合もあった」という時代に、5枚、10枚とスナップを連写する人は、かなり太っ腹だったに違いない。

 

昔ならブレタ写真ネ、ピンボケね、といわれた写真が、このごろでは、ムードがある動きがあると喜ばれてます。
だから、わざわざ、シャッタースビードを遅くして、カメラを横にブラして、動感を出すことになる。流行とはこわいもんです。

 

こんなふうに、一般向けに堂々とブレボケを勧めているのも面白い。1963年だから、流行を先取りしてる感じなのか、すでにけっこう世の中ブレボケになっていたのか。

 

ところで、ノリノリすぎて、ちょっと意味がわからない文章もあります。

 

カメラによるガールハントに、ボーイハントに、恋人の知られざる一面をキャッチするのも一興だ

 

ガールハント、ボーイハントが、ナンパの意味なら、まだ恋人じゃないだろうし、これはなにが一興なのでしょうね。

 

巻末では、「恋の7つ道具」と題して、プリントの楽しみ方を提案している。

 

タバコの空き缶に写真を貼りつけた「デート印の鉛筆立て」、ポストカードに仕立てて「ご無沙汰のさいそくに」、ロケットペンダントに入れて「思い出が胸にゆれる」、プラスチックの写真額で飾り「カラコンボードで、僕のささやかな個展」、おそろいの写真で「ポケットの中のパス入れに」、しおりを作って「読書好きの彼に」、すてきな額に入れて「ピアノの上に、誕生日のプレゼント」。

 

裏表紙には、フジカハーフの広告。コピーは、「ふたりのマスコットカメラ 誕生!」、定価11,900円、ソフトケース1,000円。横のサイズが12.3cm。ちなみに、1962年発売のライバル機、オリンパスペンEESは一回りコンパクトで、11,800円でした。

 

半世紀以上前の冊子だけれど、撮る人も一緒に楽しむという活用法は、いまとあまり変わらないかもしれない。そんなところも興味深い一冊です。

 

*富士フイルムのあゆみ - カメラの自動露光化とコンパクト化
https://www.fujifilm.co.jp/corporate/aboutus/history/ayumi/dai3-05.html

 

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