なぜか手元にあるものの、ほとんど開いたこともなく、開いたところでよくわからない本が、ある日、急に魅力的に見えるようになることがあります。L.モホリー=ナギの『ザ ニュー ヴィジョン ある芸術家の要約』も、そんな一冊でした。
モホリ=ナジは、人名表記にも時代性があらわれる作家です。モホリー、モホリ、モホイ、ナギ、ナジなど、表記が揺れているうえに、ラースロー・モホリ=ナジと表記される場合と、モホリ=ナジ・ラースローと表記される場合があります。出身地のハンガリーでは、日本と同じく姓名の順で表記されるため、それに沿った場合には、モホリ=ナジ・ラースローとなります。そして、名も、ラースロー、ラズロなどと、表記が揺れています。本書ではラスツロとなっています。
本書の底本は、"New Vision 1928 Fourth Revised Edition"ですが、その成り立ちについて、ワルター・グロピウスは序でこう述べています。
思想家であり教育者であったモホリは、自分や同時代の指導的な人びとの作品からほとばしる新しい空間的観念に、どうしても客観的定義が必要であると感じた。一九二八年の初め、彼は「素材より建築へ」(Albert Langen Verlag, Müunchen)を書いた。これは、一九二三年から一九二八年までのバウハウスにおける彼の教育経験と講義に基づくものである。この英訳改訂版は「ザ ニュー ヴィジョン」という題名で出版されたが(一九三〇年にニューヨークのブルアー、ワレン パトナム社から。そして、一九三八年にはニューヨークのW・W・ノートン社から)、長らく絶版であった。モダンアートやデザインの研究生にとっては非常な刺戟となり、また有益でもあったから、本書への要望が強く、今この新しい全面的に改訂された増補版を生むにいたった。
目次を紹介しましょう。「ザ ニュー ヴィジョン」と、自身の仕事を語った「ある芸術家の要約」の2部構成になっています。
序 ワルター グロピウス
モホリ=ナギ年譜 著書目録 バウハウス発刊目録
ザ ニュー ヴィジョン
英訳第二・第三版序
序説
I 予備手段
II 素材(表面処理 絵画)
III ヴォリューム(彫刻)
空間(建築)
ある芸術家の要約
追悼 ワルター グロピウス
訳者のことば
巻頭言は、次のようなものです。かっこいいですね。
われわれは決して
説明を通して芸術を経験しない。
解釈と分析は
よくて知的な準備として役立つにすぎない。
けれども、それらが
芸術作品と直接に触れ合うならば
われわれを鼓舞するだろう。
写真についての記述がある部分を、少し引用してみましょう。このあたりがピンときた方は、ぜひ本書を読んでみることをおすすめします。
キュービズムは、写真を表面価値の研究に利用した。そして写真の方は、キュービストの実験時代が終ると、独自な部門への可能性にめざめた。写真はまた、キュービズムですでにその徴候のあった、映画の同時的な観点にも応用されている。キュービズムの同時的行為は、対象を上と側面から同時に表わすことで、それに断面や、それらの並列や重ね合せる位置によって求められた。これは映画の投影の位置が後ろにあるのと対照的である。
ところで、本書の発行は1967年で、出版社はあのダヴィッド社。手元にある本には、出版案内と愛読者葉書が挟まっていました。好物なので嬉しいです。こうしたものにも時代性があらわれるので、古書を探す場合には、ぜひ添付物があるものを入手したいものです。
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