top コラム書棚の片隅から23 三留理男『チュイ・ポン 助けて!』プレイボーイ写真文庫]

書棚の片隅から

23 三留理男『チュイ・ポン 助けて!』プレイボーイ写真文庫]

2023/12/18
上野修

手元にある、文庫本の三留理男『チュイ・ポン 助けて!』には、新刊案内と愛読者カード、しおりが挟まっていました。こういうの、嬉しいですね。
 

新刊案内を広げてみると、プレイボーイ写真文庫・三留理男作品集として、『アコロ - 喰うものをくれ!』(アフリカ)、『サラーム - 平和を!』(ベイルート)、『チュイポン - 助けて!』(カンボジア)が、3月23日3冊同時発売という情報が掲載されています。定価は各540円。1984年ですから、まだ消費税はありません。

 

 

いずれも既刊のタイトルを文庫用に再編したものだったと記憶しています。3冊のなかでは『アコロ』が一番の話題作でしたが、こうして同時に出版することで、あらためて3冊に注目が集まりました。企画の妙ですね。

 


  

1960年代半ばのアメリカで生まれた、ニュー・ジャーナリズムという潮流があります。主観を前面に押し出した新しい報道のスタイルですが、めぐりめぐって、日本の写真もこの潮流の影響を受けたと勝手に思っています。本書にもそうしたトーンが感じられます。たとえば、まえがきは次のように記されています。

 

……「チュイ・ポン」とはカンボジア語で「助けてくれ」という意味である。すべての力を失い、体の奥底からしぼり出すようにそう訴えて息絶えた人たちを、何人目撃したことか。あの「チュイ・ポン!」のうめきを、四六時中耳にこびりつかせて私は難民の実情を取材し続けた。400日にわたって……いや、これからも取材を続けるだろう。

 

 

巻末の「掘立小屋のジャーナリストたち」という文章では、著者の姿が活写されています。

 

……タイ人記者たちは、「ミトメー」と、「メ」のところに妙なアクセントをつけて呼ぶ。
 不思議なのは、三留氏と彼らの会話だ。
 「オイ! マイね、イートね、レッツゴー!」
 「ミトメー、ヒヤ、モアグッド……」
 念のため翻訳しておくと、
 「おい、みんな、メシ食いに行こう」(三留氏)
 「三留さん、ここで料理して食べるほうが安あがりだよ……」(一同)
 ということになる。三留氏の英語では、第一人称はすべて「マイ」だし、必ず一語ごとに「ね」がはいる。一方、タイの記者たちもほとんどが10か20くらいの英単語しか知らない。そこに奇妙なコミュニケーションの調和とリズムが生まれている。このへんの事情を知らない外国人が、変に英語を使おうとすると、きまって失敗する。

 

 

ところで、このプレイボーイ写真文庫は、どのようなラインナップだったのでしょう。検索してみると、『沢渡朔女優ヌード作品集』『ギャルズ・メイト ベスト・コレクション65』『加納典明ヌード作品集』『小柳ルミ子写真集』『遠藤正ヌード作品集』などヌード系が目立ちます。ほかには『Big riders 駆ける戦士の新約聖書』『ウエストコースト・ドライヴ514マイル』『震える日 柴田三雄写真集』といったタイトルがあったようです。

 

 

愛読者カードには、次のような項目があります。「★プレイボーイ特別編集の既刊写真集の中であなたが文庫にして欲しいものはどれですか? ①早乙女愛 ②小森みちこ ③畑中葉子 ④秋吉久美子 ⑤炎の日 ⑥MIE ⑦小柳ルミ子 ⑧由美かおる ⑨松坂慶子」。『炎の日』以外はアイドル写真集で、本書の読者層とは重ならない気がしますが、そうでもなかったのかもしれません。

 


 

もともと本書の初出は『週刊プレイボーイ』誌の記事がメインですし、さまざまなリアルが交錯するメディアが当時の『週刊プレイボーイ』誌だったのでしょう。

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