インターネット時代になって、手にとってみるまでわからない本も少なくなってきたように思うけれど、『アサヒカメラ教室』シリーズは、そうした類の本だと思う。
いま手元にあるのは、『アサヒカメラ教室 第4巻 カラー写真』。奥付を見ると、昭和34年(1959年)12月の発行と記されています。
なぜこの巻を入手したかというと、木村伊兵衛が担当しているから。目次を見ると、冒頭の「カラー写真とは」を藤沢信が執筆、それ以外はすべて木村が執筆となっています。
- 目次
カラー写真とは
わが国のカラー写真
天然色写真の科学
カラー写真撮影の用具
カラーフィルム
撮影の技術とその知識
カラーフィルムと光源の関係
撮影の実際
カラーフィルムの現像処理
カラープリントの製作
カラー写真の観賞及び保存
口絵や作例の写真も、木村によるものなのも見どころ。小さいものも含めると、なんと166点も収録されている。写真についての、詳細な解説も読み応えがあります。たとえば、口絵の「霧の日のパリ」という作品については、こんな具合。
- これはフランスのブロアーの町近くで撮影したものである。濃いもやがかかっていて白黒写真のように色彩の数が少なく統一されているので、もやのベールに包まれた、やわらかい日本画のようなふんいきを出している。多少空の影響で青紫がかっているが、それがかえってこの作品の色彩的効果をあげている。
露出は、もやがかかっているから目では暗く感じるが、光線が平均にまわっているので、露出計の数字よりも倍にきりつめたほうがすっきりしてくる。この場合には、遠景に対して紫外線を吸収するために、UVフィルターをかける必要はない。曇った日は、紫外線が強くないから当然のことである。
ちなみにこの作品のデータは、ライカM3・ズミクロン50ミリF2・コダクローム・絞りF5.6・50分の1秒。
パラパラとめくっていると、この時代のカラー写真がどういうものであったのかが、なんとなくわかってくるので、こうした指南書は興味深い。
幸いにも、入手した本には付録が挟み込まれていて、そこで朝日新聞出版写真部長・大束元がこう綴っています。
- それやこれやを思いうかべると、全くカラー・フォトの進歩はおどろくほどのものである。何しろ、カラー・フォトについて一冊の本ができる時代である。昔も天然色写真術なる教本があったが、天然色写真の歴史や原理だけを書いたもので、このアサヒカメラ教室の「カラー写真」のように、ねらい方、写し方にまで及ぶ充実したものではなかった。カラーフォトは当然フィルムの進歩に負うところのものだが、そのフィルムは次第に感度をあげ、ついにASA160というものまで現われるにいたった。こうなると、白黒とまったく同じ扱いが可能になる、大変なことである。
天然色がカラーになり、実用としての指南書が新鮮だった、そんな時代だったんですね。この付録には、配本予定も載っています。
- 第1巻「人物写真」(既刊)4版
第2巻「レンズとカメラ」(既刊)2版
第3巻「感材・引伸し」(既刊)
第5巻「風景写真」(次回配本・1月15日発売予定)
第6巻「商業写真」(2月15日発売予定)- 全巻監修 伊奈信男・愛宕通英・金丸重嶺・木村伊兵衛・笹井明・渡辺義雄
この『アサヒカメラ教室』、検索してみるとわかるけれど、発行年や巻のテーマが異なるものがあり、さらに『新アサヒカメラ教室』もあって混乱します。そのあたりが、冒頭で書いたように、手にとってみるまでわからないところで、面白いところでもあるのだけれど。
ところで、先日眺めていた、『JCII NEWS』(半蔵門の日本カメラ博物館の入り口に置いてあるフリーペーパー)10月号の連載「ライブラリー・書庫めぐり 日本の写真講座集 19」*で、ちょうど『新アサヒカメラ教室』が紹介されていました。
あらためてバックナンバーを見たところ、9月号が『アサヒカメラ教室』の紹介。記事によると、1961年に普及版が刊行され、『アサヒカメラ教室』という講座集は、そのあとにも数回刊行されているとのこと。4月号では1954年から刊行された『アサヒカメラ講座』も紹介されています。ちなみに、この『アサヒカメラ講座』の方も、『新アサヒカメラ講座』シリーズがあるようで、やっぱりややこしい。
こうした『アサヒカメラ教室』と『アサヒカメラ講座』の迷宮に飛び込んでみたい方は、『JCII NEWS』の連載などを参照しつつ、ぜひ探究してみてください。
*追記:『JCII NEWS』、11月号「ライブラリー・書庫めぐり 日本の写真講座集 20」では1966年刊行の『アサヒカメラ教室』が、12月号「ライブラリー・書庫めぐり 日本の写真講座集 21」では1970年刊行の『アサヒカメラ教室』が、紹介されています。
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