top コラム書棚の片隅から35 Gary Winogrand『Public Relations』

書棚の片隅から

35 Gary Winogrand『Public Relations』

2024/11/18
上野修

前回に続いて、なぜだかわからないけれど、手放すことなく、ずっと持っている写真集を紹介したいと思います。今回は、ゲイリー・ウィノグランドの『Public Relations』(1977)。
 

この写真集を入手したときのことは、よく覚えています。1980年代後半にニューヨークに行き、近代美術館を訪れたときにゲットしたのです。
 

写真部門ディレクターのジョン・シャーカフスキーによる企画で、ダイアン・アーバス、リー・フリードランダー、ゲイリー・ウィノグランドが出品した『ニュー・ドキュメンツ』展(1967)などは現代写真史にかならず出てきますし、写真表現にとっても、ニューヨーク近代美術館は特別な場所だったといえるでしょう。
 

ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York)は、略してモマ(MoMA)と呼ばれていますが、おー!これがあのモマか!と、お上りさん気分でキョロキョロ鑑賞しました。
 

企画展だったのか常設展だったのか、現代美術の大型作品を見て、デカッ!と驚き、そのあと、版画部門の薄暗い常設展示室の作品を見て、チイサッ!と驚きました。写真部門の常設展示室はその先にあり、エ?これだけ?と思った以外、なんの印象も残っていません。
 

写真表現において、モマ、モマ、モマと何度も聞いていたので、いつの間にか聖地のよう思い込んでいて、写真作品が中心に展示されているようなイメージがあったのでしょう。近代美術館でそんなことあるはずないのですがね。

 

じっさいの当時の展示室がそうした構成だったかどうかはわかりませんが、ともあれ、記憶としてはそんな感じでした。

 


 

そんなカルチャーショックを受けつつ、ショップで見つけたのが『Public Relations』です。日本でなかなか見ることができなかった写真集が、普通に並んでいるのにまたまた驚きつつ買ったような気がします。価格を見ると$9.95。当時のレートが1ドル160円くらいだとして、税込で2,000円くらいでしょうか。安さにもびっくりしました。
 

それで弾みがついたのか、写真集を買いまくり、二重に重ねた紙袋にぎっしり詰め込んで帰国しました。旅の最後のころだったとはいえ、そんな重たい荷物をよく持ち歩いたなと思います。飛行機の荷物の重量制限がゆるゆるの時代でしたから、超過料金などもまったく気にする必要がなかったのでしょう、
 

ところで、先日検索していたら、サンフランシスコ近代美術館のサイトに、『カメラ毎日』1977年1月号の「私は攻撃型の写真家だ」という記事がアップされているのを見つけました。口絵とともに掲載された、ウィノグランドのインタビューです。細かいことですが、人名表記がゲリーになっていますね(ゲイリーに定まるまでは、ギャリーだったりゲリーだったり、揺れていたように思います)。
 

インタビューはスナップショットについての意見からはじまっています。

 

 スナップショットという言葉が何を意味するかアイマイですね。この言葉にはひっかかりを感じます。基本的にいって、一枚の写真を見てそれがどう撮られたか、誰もわからんでしょう。写真を見ただけではね。あなただって私が写真を撮るところを見てはいないですね。私のこういった写真がみな三脚をたててビューカメラで撮ったもの(もちろん実際はそうではないが)でもありうるわけでしょう。スナップという言葉がよくわからないですね。

 

 

全体的に、シャープで刺激的な発言が多く読み応えがありますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
 

インタビューの終盤では、計画されている展覧会についての話があります。

 

 MOMAにいま七〇〇〇枚のプリント、みんな仮焼きのプリントですが、預けてあります。そうなんです。私はまったくたくさんの写真を撮りますから。好きなんですよ(笑)。シャーカフスキーは恐れをなして、トッド・パパジョージに私の写真展のディレクターの役をおしつけたんですからね(笑)。

 

『Public Relations』展が開催されたのは、1977年の10月から12月なので、この話は、まさに同展についてのものでしょう。そうした話が掲載された日本の雑誌を、いまアメリカのサイトで読むのは、なかなか感慨深いものがあります。
 

 

写真集の最後には、次のような言葉とともに、蝶ネクタイ姿のウィノグランドのスナップが掲載されています。おそらくはカメラが入っているショルダーバッグのせいでジャケットが着崩れ、メガネもテカっていますが、笑顔がとてもチャーミングで、親しみがわいてくるような一枚です。この写真に限らず、ウィノグランドが写っている写真は、どれもチャーミングですね。

 

The way I understand it, a photographer's relationship to his medium is responsible for his relationship to the work is responsible for his relationship to the medium.

 

 

この写真集をなぜずっと持っているのか、冒頭で書いたようになぜだかわからないのですが、たぶん理由のひとつはソフトカバーで薄い写真集だからだと思います。とくに大切にしていたわけでもないのですが、それゆえに手放す理由もなかったのでしょう。入手してから早くも40年弱、経年によるシミも出てきましたが、別に気になりません。私にとっては、どこか実用的な写真集という感触があります。
 

 

そういえば、写真集の中身について書くのをすっかり忘れていました。実用的というのはどういう意味なのかも含めて、機会があればいずれまた触れてみたいと思います。

 

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