以前、『アサヒカメラ』の1975年4月号増刊「現代の写真 '75 近代写真の終焉」を紹介しましたが、今回は、1978年4月号増刊「日本の写真史に何があったか」を紹介したいと思います。
『アサヒカメラ』の増刊号は、リアルタイムではなく、のちに資料として入手したことがほとんどでした。本書もリアルタイムではなかったのですが、かといって資料として入手したわけでもなかったように思います。古書店で見かけて、安かったからとか、なんとなくという理由で入手したのかもしれません。入手はしたものの、カメラ雑誌の増刊号なのに、文章だらけ、写真もなんだか古いものばかりという印象で、すぐ書棚にしまい込み、そのまま持っていることも忘れていた気がします。
ところが、文章を書くようになったある日、ふと手に取ってみると、じつに興味深い内容が満載でびっくりしたことを覚えています。いまでは考えられないことですが1990年ころまでは日本の写真史の本がほとんどなかったので、本書の内容はかなり貴重なものでした。
と、思い出話を綴っていてもわからないと思いますので、具体的な紹介に入りましょう。まずは充実ぶりが一目瞭然でよくわかる目次を見てみましょう。分量が多いので、今回は前半を引用します。
再録・三色写真(一九二六)からカラー写真(一九五五)へ
アサヒカメラで綴る写真50年
一九二〇年代
一九三〇年代
一九四〇年代
一九四〇〜五〇年代
一九六〇〜七〇年代
再録・コンテスト半世紀の変遷
転回する半世紀の写真史
近代写真の夜明け・一九二六年「アサヒカメラ」創刊のころ 小沢健志
近代写真の展開・一九三〇年代「新興写真」の勃興 福島辰夫
近代写真の開花・一九三〇年代「社会化される」写真 多木浩二
模索の一九五〇年代・「アサヒカメラ」復刊以後 重森弘淹
激動の一九六〇年代・まさに政治の季節 大辻清司
“私性”への回帰・一九七〇年代「現代写真」の位置 大辻清司
半世紀の日本の写真ジャーナリズム 小沢健志
写真年表
一九二六〜一九三四年
一九三五〜一九四五年
一九四六〜一九六四年
一九六五〜一九七八年
再録・アサヒカメラ50年にみる写真論
寫眞道 福原信三
寫眞の新しい機能 村山知義
寫眞藝術の新傾向 仲田定之助
最近流行し來った效果顕著な廣告寫眞 新田宇一郎
寫眞藝術の本質と其使命 福原信三
寫眞に歸れ 伊奈信男
『新興寫眞』の現在と将来 板垣鷹穂
廣告寫眞に現はれた前衛寫眞 中山岩太
對外宣傳寫眞論 伊奈信男
藝術寫眞家から見た報道寫眞 野島康三
寫眞の心理學 柳亮
寫眞批評の諸問題 伊奈信男
寫眞のリアリズムについて 浦松佐美太郎
座談会・写真のリアリズムについて 伊奈信男・渡辺義雄・浦松佐美太郎・土門拳・長谷川如是閑
まだ若い写真美学 小林秀雄
民衆芸術としての写真 加藤秀俊
内容のない“決定的瞬間” 浦松佐美太郎
新しい写真表現の傾向 渡辺勉
印刷された寫眞藝術の展覽會 板垣鷹穂
抗議・作家の立場から 中山岩太
「再録・三色写真(一九二六)からカラー写真(一九五五)へ」「アサヒカメラで綴る写真50年」「再録・コンテスト半世紀の変遷」は、いわゆる口絵パートです。なにも知らない私が、なんだか古いものばかりという失礼な感想を抱いたパートですが、三色写真からカラー写真への展開も知識がないとわかりませんし、そのほかはすべてモノクロページ(数少ないカラーもモノクロ収録)なのでいかにも地味なのです。もちろん、文脈を知って見れば貴重な写真ばかりですし、現在これだけの写真を収録するのは難しいのではないでしょうか。その意味でも、見応えがあるパートです。
「転回する半世紀の写真史」は10年ごとの写真史の論考で、「写真年表」はその論考の下段に展開されています。その間に、時代に合わせて、再録の口絵パートと写真論が掲載されるという構成になっています。
つまり、全体としては、概ね時代順に構成されており、ページを捲っていくと、日本の近代写真史の概要が把握できるようになっています。
では、現代写真はどうなのでしょう。目次を見てみると、近代写真という言葉は何度か出てきますが、現代写真が出てくるのは、たった一回、「“私性”への回帰・一九七〇年代「現代写真」の位置」のみです。これは、本書が出版された時期が、まさに現代写真と呼ばれるものが生まれ、論議の対象となっていて、定説がなかったときだったからでしょう。この意味で、本書は、まだまだ新しかった日本の現代写真から近代写真を捉え返したものであり、その視点もじつに興味深いように思われます。
ところで本書は、かなりの部数が出ていたようで、かつては古書市場で数百円で見かけることもめずらしくなかった号でした。現在はさすがに出回ることが少なくなったようですが、それでもまだ千円台くらいで見つけることもできるようですので、見かけたら考えずにとりあえず入手しておくことをオススメする次第です。
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