昔、読んでいた懐かしい雑誌を古本屋で見かけて、つい買ってしまうことがあります。『ビックリハウス』も、そんな雑誌のひとつ。
1979年5月号を見て見ましょう。手に取ると、ゴロゴロ寝転びながら、夢中になって読んでいた光景を思い出します。
表紙のビックリハウスの題名の上には、「CONCEPTUAL MAGAZINE」の文字が。熱心に読んでいたはずなのに、全然気づいていなかったなあ。「CONCEPTUAL MAGAZINE」ってどういう意味だろうか。コンセプチュアル・アートのパロディだったのか。
表紙をめくると、Aurexのオーディオの広告。コンパクトなオーディオコンポが人気の、個人の時代です。
と、ゆっくり見ていると、写真の話にならないので、急ぎましょう。
特集「へそコレ'79」の冒頭では、あんぱん、三角定規、ゴムボール、宇宙のへそ、オレンジなど、へそ的な部分があるモノの写真を見開きで見せる「へそコレクション」。他愛もない発想なんだけれど、こういうのが『ビックリハウス』らしさ。
「面白コラージュ」略して「面コラ」は、定番の投稿コーナー。コラージュという言葉をはじめて知ったのが、この企画だったという人も多いのでは。いま見ると、雑に感じるけれど、当時は全部手作業ですから、サイズを合わせるだけでも大変だったはず。
フォトモンタージュで知られる、木村恒久のアドバイスも載っています。これがなかなか本格的。
印画紙を表材とした場合、厚みがあるのではじめに裏紙をはがしておくとよいでしょう。これはテクニックがいるのですが、印画紙のコーナーを指でもみながら静かにはがすと取れます。
貼った後、どうしても段ができてそこが白く残ってしまいますね。それを修正するのには、モノクロ写真の場合は、すずりの墨が一番適しています。水で薄めながら細い筆で重ね塗りしていくのです。カラー写真の場合は、カラーインクを使うとよいでしょう。もっとハイテクニックになると、作品全体の雰囲気づくりのためにエアーブラシをかけて修正したりもします。
「面コラ」の次のページは、「芸術からチラシまで 月例ポスター・コンくらべ」。写真愛好家なら、月例という言葉に反応してしまいますが、何の企画か、よくわかりません。メタ広告なのでしょうか。でも、『ビックリハウス』を見ていたころは、わかるとかわからないとか、気にして見ていなかったな。フィーリングの時代だしね。
「ビックリハウサー態位(しぐさ)」は、『ビックリハウス』らしいナンセンスな企画。6つの態位が紹介されていますが、アホなことをあえてやっているナンセンス感が出ているのは、写真だからでしょう。
「ザ・ミラーマン・ショー」も、定番の投稿コーナー。有名人に似ている人を並べるという、それだけの企画。
きっと君の周りには、誰かにどっか似ているって人がいるはずだ。昔の人も、世の中にそっくりな人間は3人いると言ってます。有名人(マンガのキャラクターも含む)に似ているアイツ無名・有名問わず、マンガのキャラクター、キミ自身も可——を探して顔写真を送ってください。アイツと、そして鏡の向こうで笑っているもう1人のアイツが、BH誌上でトキメキの拍手と共にドラマチックに顔を並べるのだ。
あらためて見てみると、写真の投稿コーナーが多い。「今月のポーズ」略して「コンポ」は、その月のテーマのポーズで撮った写真のコンテスト。
コンセプチュアル・マガジン、ビックリハウスがおくる世紀の大イヴェント。これは提示されたひとつのポーズを日本中のありとあらゆる人がポーズするという、ほとんど宗教的なまでにたかめられた共通次元の模索なのだ。同じポーズ、限りなくオリジナル・ポーズへ近づこうとする行為の果てにある陶酔の宇宙図がビックリハウス誌上に描かれる。
写真の企画が多いのも、カメラが個人レベルで身近になっていたからでしょう。世界初の高感度カラーネガフィルム「フジカラー F-II400」の登場が1976年、世界初のオートフォーカス機「ジャスピンコニカ」の登場が1977年。1975年のカメラ雑誌の広告を見ると、高めの純正E判プリント1枚が60円でした。
似てるように見えるモノを集めるとか、コラージュとパロディとか、同じ行為を並べるとか、たしかにコンセプチュアルといえばコンセプチュアル。と、いささか無理矢理、写真表現に結びつけたところで、今回は、このへんでページを閉じましょう。『ビックリハウス』のほかの号にも、いろいろな写真の活用があるので、機会があればまたいずれ。
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