top コラム書棚の片隅から24 原芳市『ぼくのジプシー・ローズ』ヤゲンブラ選書

書棚の片隅から

24 原芳市『ぼくのジプシー・ローズ』ヤゲンブラ選書

2024/01/15
上野修

原芳市の『ぼくのジプシー・ローズ』は、ヤゲンブラ選書の一冊として1980年に出版された写文集です。

 

 

ぼくのジプシー・ローズ 裸ひとつで
商いする女達のしじまを、憐憫と
は無縁の優しい心を欹てて捕捉
原芳市 するストリッパー大図鑑!

 

好奇心をそそる表紙がとても印象的ですが、それもそのはず、奥付を見ると、装幀者は杉浦康平+鈴木一誌とあります。本を手に取り、あらためて表紙を見ると、小さな文字で次のように記されています。

 

 

一晩中考えぬいてぼくは
意を決したのだった。浅草ロック座へ
行ってみよう!
客席に身をうずめながら
考えていたことは、この舞台の上で
くりひろげられている……

 

このような装幀は、ヤゲンブラ選書に共通するもので、目立つだけでなく、本の中身へと誘うテキストの活用が見事です。ヤゲンブラ選書とは、どのようなシリーズなのか。表紙カバーの袖(折り返し)には、こう書いてあります。

 

 

[ヤゲンブラ選書]について
ニューギニアはウギンバ村のウギンバ部落——。
ヤゲンブラさんは部落の実力者の一人である。
本選書の「ヤゲンブラ」は、彼の名前に由来する。
だがしかし、格別の意味があるわけではない。
しいて命名の理由を、と言われれば、
一九八〇年代に立ち向かうはずの私たちにとって、
「未開人」ヤゲンブラさんから学ぶべきことがらが
あまりにも多すぎるから、と答えるよりほかはない。
ヤゲンプラさんに名前借用の了解はとらなかった。
マークに使用したヒトの絵は、ナゴヌ君様の手に
なるのだが、やはり了解は
とらなかった。★

★――ヤゲンブラさんを日本人に紹介したのは
本多勝一氏の名著『ニューギニア高地人』である。
選書の名を「ヤゲンブラ」とすることについて、
本多氏は快諾して下さった。

 

前回、ニュー・ジャーナリズムという潮流について触れましたが、このシリーズもその影響を受けているように思われます(これをいいはじめると、なんでもかんでもニュー・ジャーナリズムの影響ということになってしまいそうですが)。ラインナップを見てみるとユニークなものが多く、写真では、津田一郎『ザ・ロケーション』、渡辺克巳『新宿群盗伝伝』『ディスコロジー』といったタイトルがあります。

 


 

個人的な視点を積極的に押し出していくのがニュー・ジャーナリズムの特徴ですが、本書も作者の経験から展開されています。たとえば「楽屋裏撮りはじめの記」は、こんなふうにはじまっています。

 

 

そのころのぼくと言ったら、自分でも頭がおかしくなったんじゃないかと思うほどだったのだ。“スリップに注意!!”という路上の看板を見て、咄嗟に“ストリップに注意!!”と読んでしまったり、ビルの谷間に見え隠れする“スーパー○○”を“ストリッパー○○”と読み違えたり……。
とにかく、あのころのぼくは、くる日もくる日もストリッパーのお姉さんを写真にしたいと悶々としていた。

 

「ぼくの日記帳から」では、フィルム時代ならではの記述も多く出てきます。同じような経験がある人なら、グッときてしまうのではないでしょうか。

 

六月八日(金)
終日フィルム現像と暗室。一〇時から三時までフィルム、八時から朝五時までプリント。疲れて床にもぐり込む。疲れはてているのに、なかなか寝つかれなかった。

 

 

七月七日(土)
九時すぎボンカラーへ昨日のカラーを出しに行く。露出に不安あり。ニコンヘレンズの修理に行くが、土曜日のため休業。有楽町でラーメンを食べ、再び麹町へ行き茶店にて時間をつぶす。現像所へ。立ちポーズはOKだったけど、座りポーズがちょいアンダーだった。

 

最後に、あとがきの一節を紹介しておきましょう。

 

 

ぼくのジプシー・ローズ! 今度あなたがこの世に生まれてくることがあったら、やっぱりあなたはストリッパーになって下さい。そして、今度生まれてくるもう一人のぼくに、あなたの写真を撮らせてやって下さい。
原 芳市

 

ところで、四六判変のソフトカバーのヤゲンブラ選書を、以前取り上げたPhotofile(Photo Poche)シリーズと並べてみると、ほぼ同じサイズであることがわかります。Photofileがポケットサイズなのですから、ヤゲンブラ選書くらいまではぎりぎりポケットサイズということでいかがでしょうか。

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する